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最終章 未来の余韻

春の川沿いを吹き抜ける風は、

桜の花びらを遠くへ運び去った。

枝先には、花の代わりに若い新芽が顔を出している。


ベンチの上には、小さなランドセルを背負った少女が、

ひとりで座っていた。

あの日、泣いていたあの子だ。

もう膝の擦り傷は治って、

ランドセルの中には新しい教科書が詰まっている。


少女はふと、土手の坂のほうを見つめた。

あのとき声をかけてくれたおじさんが、

また走ってくるのではないかと、

子ども心に、なんとなく思ったのだ。


けれど坂の向こうには、誰もいない。


ただ、春の風だけが吹き抜ける。


誰もいないはずの土手を、

確かに誰かが走っていた痕跡だけが残っている気がした。

踏まれた草、柔らかく抉れた土、

そして川面を渡る穏やかな足音。


少女は小さくつぶやいた。


「……おじさん、すごかったんだよ。」


誰に言うでもなく、誰に届くでもなく。


けれど、その声は確かに春の風に溶けて、

どこか遠くでまだ走り続ける誰かに届いているようだった。

春の川沿いを吹き抜ける風は、

桜の花びらを遠くへ運び去った。

枝先には、花の代わりに若い新芽が顔を出している。


ベンチの上には、小さなランドセルを背負った少女が、

ひとりで座っていた。

あの日、泣いていたあの子だ。

もう膝の擦り傷は治って、

ランドセルの中には新しい教科書が詰まっている。


少女はふと、土手の坂のほうを見つめた。

あのとき声をかけてくれたおじさんが、

また走ってくるのではないかと、

子ども心に、なんとなく思ったのだ。


けれど坂の向こうには、誰もいない。


ただ、春の風だけが吹き抜ける。


誰もいないはずの土手を、

確かに誰かが走っていた痕跡だけが残っている気がした。

踏まれた草、柔らかく抉れた土、

そして川面を渡る穏やかな足音。


少女は小さくつぶやいた。


「……おじさん、すごかったんだよ。」


誰に言うでもなく、誰に届くでもなく。


けれど、その声は確かに春の風に溶けて、

どこか遠くでまだ走り続ける誰かに届いているようだった。

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