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7、絶対にバレちゃだめ

 ふと見上げると、そこにはロジェ様が立っていた。


 彼はしゃがみ込んで私の持っている布バッグを覗き込んでくる。


 か、顔が近い……!!


 突然、ロジェ様の美しい顔が間近に迫り、思わず焦って声を出した。


「ち、ちょっと!」

「なんだよ、まだたったの5個だろ」

 ロジェ様は鉱石を見て冷ややかな声を出す。


「そんなことより! 顔が近すぎます!」

「は?」

「私はまだ嫁入り前なんです。男の人とこんなに近づくなんていけません!」

「えっ……?」


 ロジェ様は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でぽかんとしている。


 すると、こちらに向かって歩いてきたミカエル様がふっと笑って私に言う。

「ほう、そなたはそういったことを気にするのか。噂とは違って随分殊勝な女なんだな」


 む。

 ちょっと聞き捨てならないわ。

 いくら悪役令嬢だといっても、中身は普通の女の子なのよ。

 ドキドキもするし、緊張もするんだから!


「あのですね、殿下。噂ほど当てにならないものはないんですよ。人の上に立つお方なら尚更真実を見る目を養うべきです!」

「…………」


 ……って!

 この国の権力者に私は何を偉そうに語ってしまったんだ!!


 うあああ!怒られちゃうかな。


 そう思いながら顔色を窺うと、私の心配とは裏腹にミカエル様は意外にも黙ったまま、それ以上何かを言うことはなかった。



 というのも、突然現れた魔獣が私たちを見るなり逃げ出して、彼ら3人は唐突にそれを追いかけて行ってしまったのだ。


 エリー曰く、ダンジョンでは時折レア魔獣が現れるのだとか。

 レア魔獣は貴重なアイテムを持っていることが多いらしく、人間と遭遇すると一目散に逃げ出す種類がいるらしい。


 もしやあれかな、銀のスライム的な――――


 しかし、助かった……。

 その魔獣が現れなかったら、危うく不敬罪で断罪ルートまっしぐらだったかも。


「みなさんが戻ってくるまで動かない方がよさそうですね。しばらく休憩していましょう」

 エリーはそう言って、近くの木に成っていた実を取り、慣れた様子でナイフで一部を削り私とソニアに差し出してくれた。


 あら、まるでココナッツジュースみたい。

 

「はい、どうぞルーチェ様」

「ありがとう」

「ルーチェ様のお口に合うといいんですが」

「あの、エリー」

「なんでしょう?」

「その……様っていうのやめない?」

「ええっ?」

「もっと気楽に呼んでほしいのよ。ルーチェって」

「そんな」

「だってもう一緒に冒険する仲間じゃない」


 私が言うと、エリーは一瞬考えてから笑顔になる。

「……ふふ、そうですね。ルーチェ」


「うん!」

 よかった。

 ヒロインに『様』づけで呼ばれるのってイマイチしっくりこなかったのよね。


 エリーとの距離が少し縮まったような気がして嬉しくなる。


 ふと気づくとソニアは胡散くさそうな顔をして私の顔をじろじろと見ていた。

 この子はあの交流パーティーの日以来、態度がころっと変わって私を邪険に扱うのよね。


 ソニアは徐に口を開いた。


「あなた、ロジェ様と面識がお有りだったのね」

「へ?」

「親しくない人はロジェ様が殿方だということはまず気づかないわ」


 ああ!そうなのね。

 確かにゲームのPVでもそんな描写があったような気がする。

 やけに女性的なスチルだな〜と思ってたのよね。

 実際に見てみるとあれだけの美貌だもの、いくら背が高いからといってもパッと見だと男性だとは気づけないと思う。


 ただでさえ魔導士のローブにすっぽりと包まれているから性別が見分けにくいし……。


 でもヒロインとのキスシーンで男らしい描写があったから攻略対象だって分かったのよね。


 あんなに冷たいのにヒロインには甘々だったなあ。



 ――――あ、そうか。

 だからさっき、男性だとわかっていた私にロジェ様は驚いていたのか。


 そんなことを考えていたら、3人がぞろぞろと戻ってきて私たちの近くに腰を下ろした。


 それを見たエリーは先ほどのように、木の実をナイフで削り、彼らに手渡しながら言う。


「おかえりなさい。収穫はありましたか?」


「いや、大した収穫はなかった」

 木の実を受け取りながら、シリルが首を横に振って応える。


「しかしあまり見かけない魔獣だったな」

 ロジェ様が誰に言うでもなくつぶやく。


「まあ、呪いの魔獣ではなくてひと安心だ」

 ミカエル様が息を吐きながら言う。


「呪いの魔獣ですか?」

「ああ、魔獣の中で唯一人間に呪いをかけられる種類が存在するんだ」

「まあ、怖いですわ」

 エリーの質問に応えたシリルの言葉を聞いたソニアは可愛らしく怯えながら言う。


「少し特殊な魔獣だが、今は滅多にいないらしいから安心してくれ」

「そうなんですね。それはよかった」

「ああ、角が珍しい形をしている魔獣だから見ればすぐに分かるはずだ」


「……珍しい角の形をした魔獣――」

 そう呟いてエリーは考えを巡らしている。


「そういえば一時期は呪いにかかったという女がやけに増えた時期があったな」

 ミカエル様が皮肉めいた口調で言う。


「ええ、呪いの魔獣の存在が一般市民にも広まったときでしたね」

 シリルは参ったという様子で、すかさず答えた。

 

「そうなんですね。でもなぜなんでしょう?」

 エリーが不思議そうな面持ちでシリルに聞いた。


「呪いを治すには光魔法が必要なんだ」

「そうなんですね」

「ああ、光魔法の保持者――――つまり、殿下と僕とロジェの誰かしらに近づくための方便になると考えたのだろう」

「なるほど! 恋や憧れの気持ちが募ってそんな嘘を……」


 ようやく意味を理解したのか、納得の声を上げるエリーの横で私は青ざめる。


 そう、呪いを治すには唇を合わせなくてはいけない。

 それを思い出してまた私は溜め息をつく。


 それまで黙っていたロジェ様が吐き捨てるように言う。

「はっ。しかし、そんな嘘つく女なんて最低だな」


 !!

 ロジェ様の嫌悪する様子に私は思わず身体が竦む。


 絶対にこの呪いのこと、バレちゃいけない……!!

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