5、いざS級ダンジョンへ
私は朝から失意のどん底にいた。
なんだってこんなことに……。
学園に向かう馬車の中、昨日の神官さんとの会話を思い返して絶望的な気持ちになる。
まさか呪いにかかっていたなんて。
ましてやそれを解く方法が攻略対象と――――き、キスをしなくちゃいけないなんて……!
どうしたらいいのよ。
とほほ。
今日も首元はしっかりスカーフを巻いて痣を隠している。
制服にぴったりの柄があったのが幸いだ。
こんな禍々しい痣を見られたら、無害な人物ですよ~なんてアピールしても全然意味がないもの!
むしろ、何か怪しい魔術に手を出したんじゃないかとか疑われちゃうかもしれない。
ああ!こんなの身体に刻まれたらささやかな結婚という夢まで困難になってしまうよ!
というのも、この呪いにはタイムリミットが存在しているらしいのだ。
呪いを受けてから3回目の満月を迎えるまでに解くことができないと、この痣が一生身体に定着してしまうのだという。
絶対になんとかしないと!
ただ、そのタイムリミットを伸ばす方法もあるのだとか。
確か神官さんは『S級ダンジョンの深層部に咲く青色に光る花を煎じて飲めばタイムリミットを伸ばせます。それから……』
とか言っていた気がする。
昨日はショックが大きすぎて、後半の方はよく聞いてなかったけれど、まあそんなに重要ではなかったと思うからいいよね。
とにかく、S級ダンジョンの深層部に咲く青色に光る花を手に入れよう。
タイムリミットを伸ばしながら、この呪いを解く別の方法を探さなくちゃ!
私は改めて気合いを入れた。
あっ!
でも、この前の交流パーティーってダンジョンの冒険仲間を決めるためのオリエンテーションも兼ねていたのよね。
私はあんなことがあったものだから、一緒に冒険してくれる人なんて見つかってないや!
聞くところによると、ダンジョンは最低6人のグループでないといけないらしい。
どうしよう。
誰か仲間に入れてくれるかしら……。
う~~~ん。
考えれば考えるほど問題が山積みになっていくような気がして、途方に暮れた気持ちで到着した学園の建物へと入った。
もうすでにたくさんの生徒たちが到着していて辺りが賑わっている。
「すごい大発見だよね!」
「うん。ダンジョン担当の教授が定期安全チェックの時に見つけたらしいよ」
「魔石手に入れたら俺も金持ちになれるかな?」
「ばーか、S級なんてお前が挑戦できるかよ」
すれ違う生徒たちが興奮気味に何かを話している。
何の話だろう?
疑問に思っていると、視線の先に生徒たちが集まっているのが見えた。
近づいてみると、掲示板に出ている張り紙を見てみんな何やら騒いでいる。
ん?なになに?
興味を引かれて見てみると、そこには『魔石発見』という大きな文字が書かれていた。
よくよく読んでみると、S級ダンジョンのひとつから魔石の欠片が発見されたというニュース。
どうやらこの世界における魔石とはかなり珍しいものらしく大変貴重なようだ。
上層部で見つかったということは、最深部にはかなりの確率で大量の魔石が採掘できることが期待されるという。
ん?
なになに?『発見された魔石には光の魔力が多量に含まれていることが分かった』ね……。
光の魔力?!?!?!
それって神官さんが言ってた、呪いを解くための魔力のことだよね?!
ってことは、この魔石を使えば私の呪いも解ける可能性があるんじゃないの?!
それって攻略対象たちにキスしてもらうよりも、一番現実的な解決方法かも!
私は一筋の希望が見えた気がして目を輝かせた。
『該当のS級ダンジョンを攻略して魔石を発見した者には魔石の配当権を授与』
おお!見つけたら分けて貰えるんだ!
『参加チャレンジをしたい生徒はA1教室へ集合のこと』
行く!
参加する!!
呪いを解くにはこれしかないもの。
やってやろうじゃない!
青色に光る花は、S級ダンジョンであればどこの最深部にも必ずあるって神官さんが言ってたし。
S級ダンジョンの冒険だなんて、まさにゲームって感じでワクワクする!
ゲームオタク心に火がついた私は早速A1教室へ向かった。
絶対魔石を手にいれるんだ!
そう思い、辿り着いたA1教室の扉を張り切って開いた。
すると、中にいた5人の人影がこちらを一斉に見る。
「よろしくお願いしま、」
と、勢いよく言いかけた私の目に飛び込んできたのは、驚愕の表情をしているシリル。
そして、無表情のミカエル様とロジェ様、面白くなさそうにこちらを見つめるソニアとなぜか嬉しそうな笑顔のエリーだった。
えええええ?!
なんでよりによってこのメンバーなの?!
「なぜ君がここに?!」
シリルが焦った様子で問いかけてくる。
「私も参加しようと思って……」
「っ?! ここはS級ダンジョンへ向かうメンバーだぞ?!」
「はい、張り紙を見て来たんです」
「君……」
シリルは言葉を失っている。
「でも、これでメンバーの最小必要人数が揃ったのでダンジョンに出れますね!」
嬉々とした声音でそう言ったエリーが近寄ってきて、固まったままの私の手を引き皆の傍へ連れていく。
戸惑う私へエリーは安心させるように笑顔を向けてくれる。
う……エリーってなんて優しい子なんだろう。
エリー以外のみんなはこんなに私に冷たいっていうのに。
「さっそく作戦を練りましょう」
エリーが笑顔でみんなに向かって言うと、ロジェ様が冷めた表情で私たちを見下ろして言い放つ。
「作戦も何も、ただ行って魔石取ってくるだけの話だろ」
「魔石は最深部にあるんですよ。そこへ到達するまでにはたくさんの魔獣と罠が出現します」
エリーが頬を膨らませながらロジェ様に訴える。
「全部、燃やせばいいだけだ」
そう言ってロジェ様は手のひらの上でボッと音を立てながら小さな炎を作った。
そうか、ロジェ様は火の魔法の使い手なんだ。
確かにゲームのPVで炎と一緒に描かれていたはず。
あの薄紅色の髪と燃えさかる炎が一段と美しさを引き立てていた。
「何を言ってる。魔獣は斬るんだ」
そう言ってシリルは真剣な面持ちで剣を掴む。
そうよね、彼は王国騎士団の団長だもの。PVでは剣で戦う姿がとにかく美しかった。
「ほう、頼もしいな。それでは俺は皆について行くことにしよう」
そう言って剣を携えてシャツにズボンというラフな格好のミカエル様は、腕を組んで不敵な笑みを浮かべる。
サラサラとした艶やかな金髪が彼の美貌を一層際立たせていた。
さすが、ゲーム内で一番の権力者なだけあって余裕さえ感じる。
ロジェ様はそんなミカエル様をムッとしたように睨む。
シリルはロジェ様までとはいかないものの、腑に落ちないような表情でミカエル様を見つめた。
ソニアはこの間も、ずーっと私やエリーを面白く無さそうに見つめている。
うわあ。
何だろう、このまとまりの無さ。
とっても、先行き不安だ…………!