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2、攻略対象たち

 私はメイドたちに教えてもらった話を今一度記憶に刻み込むため思い返していた。


 今は学園に入学して1ヶ月が経った頃らしい。

 今日は今年度の入学者が一堂に会する交流パーティーだ。


 いよいよ来週から始まるメインの活動内容である、ダンジョンを共に冒険する仲間を決めるためのオリエンテーションを兼ねたものだという。


 しかし、内容が全然わからないから、物語がスタートしているのかどうかも見当がつかないのよね。

 まあ、どの段階であっても対応のしようがないのだけれど……。


 とにかく、ヒロインや攻略対象と関わらず目立たないことだけを考えよう。

 考えてみれば、こんなにお金持ちのお家の令嬢としていられるのなら何も不自由はないもの。


 学園の入学をねだったということだし――――


 お母様にベタ惚れな公爵様はきっと私の言うことを聞いてくれるのだろうから、ゆくゆくは性格温厚で相性の良さそうな貴族男性を紹介してもらって素敵な結婚をするのもいいじゃない!


 ここに来る前の私はひたすら仕事とゲームに打ち込む生活で年を重ねていったから結婚とは全く無縁だった。


 高い身分なんかよりも、ほんのささやかな暮らしでいいから、幸せな結婚がしてみたい!


 万が一それがダメでも公爵家はお金持ちなんだから、田舎の領地を分けてもらってひっそりと暮らしていけばいいじゃない。


 うん、なんていいアイデア!


 そんな決意を固めつつ馬車に乗るために玄関へと向かった。

 玄関扉の前まで来ると、従者たちがいる。


 うん?なんだろう。

 私のお見送りってわけでもなさそうだし……。


 扉に近づいていくと、一際背が高く気品のある男性が立っているのが見えてきた。


 私の足音に気づき、男性が振り返る。

 その顔を見て私は仰天した。


 ああああ!!

 この銀髪にヴァイオレットカラーの瞳のイケメンは!!

 まさにPVで見た攻略対象!


 ふと先ほどのメイドたちの話を思い出す。

 これはルーチェの義兄であるシリルだ。


 まさかの義兄が攻略対象の一人だったとは!

 私は愕然とした気持ちになって彼を見つめた。


 私を見た彼は一瞬驚いたような表情をした後、あからさまに敵意を剥き出しにした。


 えっ?


「君も行くのか……」

 そう言ってこちらを睨み据える。


「パーティーで人に迷惑をかけるなよ。そしてエリーにも決して近づくな」

 一段と低い声でそう言ったシリルは踵を返して勢いよく扉を出てから馬車へ乗り込んで行った。


 何アレ……。

 もうすでにこんなに嫌われてるなんて。


 その事実に愕然とした。

 まだ学園に入って1ヶ月でこの有様なの?


 ――いや、でもこれは同じ家にいるからなのかもしれない。


 ルーチェはかなりひどい悪役令嬢のようだし……。

 きっと攻略対象の中でも接する時間が一番多いからしょうがないのかも。


 学園でしか会わない他の登場人物たちなら、きっとまだこれよりはマシよね。

 そう思い直して私も用意された馬車へ乗り込んだ。


 とにかく、パーティーでは誰にも関わらないよう目立たないように大人しくしていよう。

 そう呪文のように繰り返しながら、私は馬車に揺られて学園へと向かった。




◇◇◇




 学園に到着し案内された会場へ入ると、中はすでに沢山の生徒たちで賑わっていた。


 わあ、すごい!

 学園のパーティーって聞いてたけど、すごく煌びやかで本格的な夜会会場になっている。


 改めてゲームの世界へやってきたんだという実感をした。


 なんだかワクワクしちゃうな〜。

 こんな世界観を体験できるなんて!


 そう思って会場の中に進んでいくと、生徒たちからの視線がチラチラやってくることに気づいた。


 コソコソと話している声が聞こえてくる。


「あれって、ノバック公爵令嬢よね」

「あ〜、例の」

「王太子殿下がいらっしゃるものね」

「でも、今日はなんか地味じゃない?」

「やめなさいよ、聞こえたらどうするのよ」



 …………あまりいい予感はしないんだけど、何かしらこの感じ。


 みんなそれぞれ顔見知りや仲の良い者同士で固まっているようだけれど、生徒たちは私を遠巻きに眺めている。


 ――――もしかしてだけど、私って友達一人もいない感じ?

 とほほ。もう既に浮いた存在なのね。


 そうして頭を抱えていると、おそるおそる私に話しかける声が聞こえてきた。


「あ、あの、ごきげんよう」


 声の方を見ると、茶色い髪の毛をした可愛らしい令嬢が立っている。


 あら!!

 このビジュアルは…………ヒロインだ!!!


「こんにちは!」

 私はヒロインに会えた嬉しさで思わず笑顔で返事をした。


 すると、彼女は驚いたように呆然として私を見つめる。


 あっ、こんな挨拶じゃダメだったかな。


 再び声を掛けようと口を開いた瞬間に、彼女との間に人影が現れた。

 見るとそこには険しい顔をしたシリルが彼女を庇うように立っていた。


「エリーに何の用だ?」


 ん?エリー?

 どこかで聞いたような……。


 その瞬間、公爵家でのシリルとの会話を思い出す。


『パーティーで人に迷惑をかけるなよ。そしてエリーにも決して近づくな』


 ヒロインのことを言ってたのね。

 もう既に攻略対象と絡みがあるんだ。


 ってことはストーリーはとっくに始まっているということか。


 えっ?!

 じゃあこの感じはもう既に私の悪役っぷりも相当進んでるってこと?


 答えあぐねていると、入り口の方から歓声が沸き起こった。

 目をやると、人だかりの中から背の高い金髪の美しい青年が中心にいるのが見えた。


 あれ!攻略対象だ!


 周囲の人の挨拶の仕方を見ていると、かなり身分の高い人物だということが分かる。

 誰に対しても笑顔で対応しているけれど彼がへりくだるような姿は一切見られない。


 ――――ということは、あの人が王太子殿下ということね。


 確かメイドたちがミカエル様っていったっけ。


 そんなことを考えていると、ミカエル様と目が合ってしまった。

 彼は一瞬意外そうな表情をしてからすぐに微笑みを浮かべてこちらに向かって歩いてくる。


 ?!?!

 こっちに来てる?


 私の目の前で立ち止まると微笑みを浮かべたまま言う。


「これはこれはノバック公爵令嬢ではないか」

「あ、えーと、王太子殿下にご挨拶申し上げます」


 私はこれまでプレイした乙女ゲームの知識をもとにスカートをそっと持ち上げて恭しく挨拶をした。


 こんな感じで大丈夫だよね?


「……」

「……」


 ミカエル様が何も言わず呆然とした表情で立ち尽くしているので私も無言になる。


「……今日は駆け寄って腕に抱きついてこないのだな」

 ミカエル様は少し意外そうな表情で小さく呟いた。


 うーん、何を言ってるかは聞き取れなかったけど、ルーチェは彼のことが相当好きだったみたいだものね。

 この様子じゃもう既にだいぶしつこく付き纏ってたのかも。


 ミカエル様はシリルに庇われるようにしているエリーと私を見ながら言う。


「まあ、そなたも今日は楽しんでくれ。あまり問題は起こさずにな」


 ミカエル様、微笑んでるけどもの凄く怖い。

 その表情から私に対する軽蔑や警戒心がひしひしと伝わってくる。


 名前こそ出さないものの、シリルと同じようにエリーを庇うように私を牽制しているのだろう。


 先ほどまで他の生徒たちへの態度はみんな分け隔てなかった。


 でも、私にだけは違うということが痛いほどわかる。

 この人にもかなり嫌われてる……!

 

「は、はい」


 強い嫌悪感をぶつけられた私はそう言って頭を下げるので精一杯だった。

 ミカエル様は私のその様子を見てから微笑んだままその場を去って行った。



 怖かった……!!

 なんかあの人めちゃくちゃ怖いよ!表面上は穏やかに取り繕っている分、怖さが増してる。


 ルーチェったら何やらかしてんのよ、もう……。


 気が抜けた私はその場から離れたくて歩き出すことにした。

 そういえば、あともう一人の攻略対象はここにはいないのかな?


  確か残りの一人は薄紅色の長い髪に美少女みたいなビジュアルのイケメンで……。

 一番好みのタイプだったのよね。


 そう思いながら歩くとすぐに何かにぶつかってしまった。


 わっ、人だ!


 魔導士のようなローブを着た背の高い人がそこに立っていた。


「ご、ごめんなさい!」

 慌てて謝ってその人物を見上げると、そこには息が止まるほどの美女の顔があった。


 !!!!

 薄紅色の長い髪の美女!!……と見紛うほどの美青年!

 さ、3人目の攻略対象だ!


 わあ、この人もすごいイケメン。


 その美貌に思わず見惚れていると、彼は冷たい表情でこちらを見下ろしながら言った。


「邪魔だ」


 うわっ。綺麗な顔の人が怒ると怖い。


「すみません!」


 慌てて距離を取った私を一瞥して彼は行ってしまった。

 あの美しさといい、怖さといい、色々衝撃だわ…………。


 一連のやりとりを見ていた周囲の生徒たちはこちらを見てヒソヒソ話している。

 中にはあからさまにバカにしたようにくすくす笑っている者もいた。


 シリルは私をずっと睨んでるし。

 はあ、もうここから離れたい。

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