20、毒入りランチで愛の告白
私は3回目の満月が近づいていることもあって、少し焦っていた。
ああ、早くエミューの花を見つけないと、この痣が消えなくなってしまう。
今日も探索しながらエミューの花を見逃さぬよう、必死に辺りを見回していた。
しかし、今日の階層は鬱蒼と茂ったリンゴのような青い実をつけた木々が目立って湖が探しづらい。
うーん、欲しいのは青い実じゃなくて、青く光る花なのよ……。
私が心の中でそう嘆いていると、隣を歩いていたエリーが辺りを見回しながら言う。
「これってひょっとして毒の実ですかね?」
すると、前を歩いていたミカエル様たちがそれぞれに反応する。
「どうだろうな」
「ふむ、その可能性もある」
「無闇に口にしなきゃ大丈夫だろ」
「前に治癒魔法の訓練の時に、聖女様から聞いたことがあったような気がして……」
エリーは誰に言うでもなく呟いた。
「得体が知れないものは触れぬようにな。そろそろこの辺で休憩にするか」
ミカエル様の合図で私たちはいつものように昼休憩の準備をする。
料理担当のエリーに使えそうな薬草を渡すと、私は周辺に見える湖の淵に青い花がないかどうかを目を凝らして探してみた。
しかし、やはり見つけることはできなくて気持ちが落ち込む。
はあ、まだ道のりは遠いのかなあ。
そう思いながらみんなの方へ視線を戻すと、ソニアがいないことに気づく。
あれ?どこに行ったんだろう。
疑問に思ったが、すぐにソニアが木の間から姿をあらわす。
私と目が合うと、気まずそうにふいっと視線を逸らされてしまった。
この前シリルが私を庇ってくれた時のことまだ怒ってるのかしら。
「さあ、できましたよ〜!」
エリーの元気な声に気持ちが引き戻される。
うん、とにかくパワーをつけて一刻も早くエミューの花を見つけないとね!
みんなの近くへ寄って、ご飯を受け取ろうとすると、エリーからお皿を受け取ったソニアが私の方へ振り向く。
「ルーチェ様、どうぞ」
私の目の前に歩いてきたソニアは、しおらしく瞳をうるうるとさせながら私を見つめてそう言った。
「え……」
急な態度の豹変に私は思わず驚きの声が出てしまう。
「私、ルーチェ様のこと誤解していたのかもしれません」
目を伏せて、悲痛な表情でそう言うソニアはどこから見ても可憐な美少女だった。
「これまでの態度、お許しいただけませんこと?」
「あ、いや……」
あまりにも真剣な表情に私は思わず口篭ってしまう。
「う……やっぱりお嫌ですわよね。私なんて嫌われて当然ですわ、うううっ」
そう言って意気消沈するソニアに差し出されたお皿を受け取って慌ててフォローする。
「そんなことないわよ! さあ一緒にお昼を頂きましょうよ」
「ルーチェ様……!」
私の言葉に酷く感動したように、ソニアは泣きそうな笑顔で頷いて私と隣合わせで芝生の上に腰を下ろした。
なんだかよくわからないけど、友好的になってくれたんだから拒否する必要なんてないよね。
根が単純な私は少し嬉しくなって、ご飯をひとくち口に入れた。
こちらを見つめるソニアに笑顔を返すと、彼女の表情が一瞬真顔になる。
どうしたんだろう?
そう思った瞬間、急激な眠気に襲われた。
なんか、頭がぼーっとする……。
そう思いながら、酷い眠気で今にも意識が途切れそうな私の目にニヤリと笑うソニアの顔がぼやけて映り、記憶が途切れた。
◇◇◇
ハッと気づくと、ミカエル様とシリルとロジェが私の顔を心配そうに覗き込んでいるところだった。
あれ?私、何をしていたんだっけ?
そう思って身体を起こすと、ロジェのローブがはらりと落ちた。
っ……あ!そうだ、探索中の食事休憩で……お昼を食べたんだったわ。
それで、確かご飯を食べた途端に眠気が襲ってきて――
「大丈夫か?」
ロジェがいち早く私の傍へ顔を寄せ、壊れ物を触るような慎重な手つきで私の頬に触れた。
「っ……! うん、大丈夫」
少し触れられただけなのに、過剰に反応してしまい思わず声が上擦った。
なんだろう、身体がやけに熱い気がする……。触れられた箇所が熱を持ってる。
「お前、大丈夫か? なんかやけに顔が赤いけど」
そう言ってロジェはさらに顔を近づける。
間近で見るロジェは言いようのないほどに美しくて、私は胸の高鳴りが抑えきれなかった。
「ねえ、ロジェはなんでそんなに格好いいの? 顔だけじゃなくてあなたは心まで美しいじゃない。ぶっきらぼうに見えるけど、さりげなくみんなに配慮してるの私、知ってるんだから」
「なっ……! どうしたんだよ、お前……!」
ロジェは戸惑ったように言って、顔を赤くしている。
慌てた様子のシリルがロジェから私を引き離し、ロジェにしがみついていたことに気づく。
やだ、私ったら、何してるんだろう。
「おい、どうしたんだ」
「……シリルは少し頑張り過ぎだわ。公爵家の仕事も騎士団の仕事も手を抜かないあなたは本当に素敵で素晴らしいけれど……私はあなたの身体が心配になるの」
私の言葉に、シリルはいたく感動したような様子で黙ってしまった。
「どうしたんだ、ルーチェは?」
私は傍にやってきてそう言うミカエル様に向き直って言った。
「ミカエル様は誰に対しても平等に親切で、とても尊敬しております。私にとってあなたはずっと麗しい王子様なんです」
私の言葉にミカエル様は珍しく驚いたような期待に満ちたような熱っぽい視線を向けた。
「まあ、ルーチェはお3人のことが好きなんですね」
「「「え?!」」」
エリーがニコニコして言うと、3人が一斉に声を合わせて驚いた。
「いいなあ、私もルーチェにそんな風に想われたいです」
そう言ってぷくっと頬を膨らませたエリーを見て、私は胸がきゅんとした。
「エリーのことだって大好きに決まってるじゃない!」
「ルーチェ……!」
「あなたのおかげで私、この学園生活がどれだけ楽しいものになったか……!」
私の言葉を聞いて、エリーはひどく感激した様子で泣きそうな笑顔になった。
「私、みんなのこと本当に大好きなんだもの……!!」
なんか変だ、私。
心の中で思ってることが次から次へと口から出てきちゃう!!恥ずかしいからもう止めたい!
頭の片隅でそう思っているのに、まるで理性にブレーキが効かず衝動が抑えきれなかった。
すると、ミカエル様が私の傍に身を寄せて、私を片手で抱き寄せた。
「……!」
「まさか、これも呪いの発作の一つなのか?」
そう言いながら流れるように私の首元のスカーフを取り去り痣に触れる。
「っんん……!」
触れられた箇所がまた熱を持ったように疼いて、すかさずミカエル様の胸に取り縋った。
「ルーチェ……」
ミカエル様が何かを見定めるように、私を熱っぽい視線で見つめる。
その顔を見ているだけで、私はさらに頬が熱くなりどんどん鼓動が早くなっていった。
すると、何かに気づいたように、ミカエル様はハッとして呟く。
「まさか――」
「なんだよ、ルーチェはどうしたんだ? 何かやばい毒なのか?」
ロジェが焦ったように、ミカエル様を問い詰める。
「――これは、おそらく……媚薬だ」




