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1、断罪ルートはイヤなんです

「どうしよう……」


 私は居ても立っても居られずに、部屋の中を無駄にウロウロしてしまう。


 鏡をチラッと見ると、そこには高級なネグリジェを着たサラサラの長い金髪にエメラルド色の瞳をした美しい令嬢が映る。



 あああ……!

 これが『私』なのよね…………。


 なんでよりによって、この身体なのよおおおお!

 

 かれこれ1時間、私はひとり悶絶している。


 だって、だって……朝、目覚めたと思ったらなぜか乙女ゲームの世界に転移してたんだもの……!!




 というのも――――


 昨日、暇つぶしに見てたオンラインショップでたまたま見つけた乙女ゲームをダウンロードしたのがきっかけだった。


 キャラデザが好みで、ダンジョンを冒険していくらしいRPGチックなゲーム内容の世界観に惹かれたのだ。


 逆ハールートもあるっていうから興味本位でPVを見てみたら結構楽しそうだったので即ポチった。

 で、ダウンロード完了の画面を見たところまでは記憶がある。


 いつの間にか眠っていたのか、ベッドで目覚めたときには、私は()()にいた。



 この容姿は……PVで見た悪役令嬢と瓜二つ。


 本編がわからないからどういった経緯かは知らないが、PVを見た限り断罪を受けていなくなってしまうということだけは伝わる内容だった。


 あまり良い扱いではなさそうなのよね……。

 っていうか、かなりヤバそうな雰囲気のスチルだったんだけど……!



 攻略対象は3人で、ダンジョンの冒険がメインの魔法学園に通うこと、そして逆ハーものであるということ。


 分かっているのはこれだけ――――!!


 普通、異世界転移って言ったらゲームの内容をうまく活用して断罪ルートを回避していくうちに恋に落ちたりするんじゃないの?!


 こんなに何もわからない状態じゃ、恋に落ちるどころかルート回避すらままならないかも……。


 愕然としていると、ノック音が響いた。



「ルーチェお嬢様、そろそろお支度の時間ですので失礼いたします」


 そう言って、メイド服姿の女性が入ってくる。

 私の名前、ルーチェって言うのね。



「え、えーと今日は何をする日だったかしら」


 私がそう言うと、メイド服の女性は驚いたように目を見張る。


「今日はセントロア学園の交流パーティーに出られる日ではないですか」


「あっ! そ、そうだったわね」

「どうしたのですか? 王太子殿下に会うためにあれほど夢中になってドレスやアクセサリーを用意してらしたのに」


「え、ええ! そうよ!」


 半分やけになって彼女に答える。


 もういいやこの際、話を合わせながら色々とこのメイドさんに教えてもらおう。


 そうして、お風呂や髪のお手入れをしてもらいながら、私はこの世界の知識を彼女から聞き出すことにした。



 まず聞いたのは、私がいるこの家はノバック公爵家であること。

 とはいえ、ノバック公爵と私に血の繋がりはない。


 未亡人だった男爵夫人である私の母にベタ惚れした公爵が権力を盾に無理やり再婚を推し進めたのだ。


 母は満更でも無かったようだし、公爵もすでに妻が他界していて問題はなかったけれど、あまりの身分差に周囲の反対は凄かったらしい。


 そんな穏やかでない事情を抱えつつ、ノバック公爵の息子で次期公爵であり王国騎士団の団長である私の義兄にあたるシリルも含めた4人家族であることを知った。



 そもそも公爵令嬢である私がなぜわざわざ魔法学校なんかに入学したのかというと、理由は簡単だった。


 今年はちょうど王太子であるミカエル・バロア様が入学したのだという。


 このバロア国では王族は皆、魔法学校であるセントロア学園で二年間学ぶこと、且つS級ダンジョンをクリアすることが慣わしとなっているらしい。


 それを知った私ルーチェは父親に我儘を言ってセントロア学園に無理やり入学したところだったという。


 魔法もろくに使えないというのに……。


 セントロア学園は普通の魔法学園ではなく、学園内に点在するダンジョンを冒険してクリアすることにより成績がつく単位式の学校だ。


 これはゲームのPVで説明を見たので理解している。

 このRPG要素が私のゲーマー心をくすぐったのよね。


 しかし、ルーチェは……いや私は王太子が相当好きだったようね。

 これまでの行動を把握してみると、いかにも王太子妃狙いといった欲望を感じる。


 話を聞く限り王太子は攻略対象っぽいけれど、何しろPVでは文字情報が少なかったから、登場人物に関してはビジュアルしかわからないのよね。


 まあ、一番重要なのは攻略対象3人とヒロインなわけだから、きっと学園のパーティーに行けばすぐわかるだろう。


 そう思い、私は気合いを入れた。



「さ、ルーチェお嬢様、それではこちらでお召し替えを」


 そう言ってメイドたちがドレスを持ってくる。


 ?!?!?!

 私はそのドレスを見て驚愕した。


 な、何なのこのドレスは?!


 それはいかにも悪役令嬢といった、露出が激しく派手派手しいデザインだった。


 合わせて用意されたアクセサリーも大きい宝石がこれでもかというくらいに散りばめられていて品がない。


 何なのコレは――――!

 こんなの着れない……!


 というか、悪役令嬢がこんなの着たらいかにもって感じじゃない!どうしよう……。



 私の様子に不思議そうな表情を浮かべているメイドたちに思わず口を開いて言った。


「あの……やっぱりドレスを変えるわ」


 きっと公爵令嬢ならたくさんのドレスを持っているはずよね。

 これだけ豪勢なアクセサリーを買ってるくらいなら他にもありそうだし。


 メイドたちは驚きを露わにしつつ、奥のドレスルームへと案内してくれた。

 色とりどりのドレスやアクセサリー、靴や装飾品が綺麗に整頓されている。


 うんうん、やっぱり沢山あるわね!

 できるだけ目立たないようなデザインがいいんだけど……。


 沢山のドレスの中からなるべく淡い色合いで品のあるものを選び取っていく。

 ルーチェのエメラルド色の瞳に合わせて、グリーンと白を基調としたドレスとアクセサリー。


 私が選ぶものをメイドたちは唖然としながらも手に取り、綺麗に着付けてくれた。


「ヘアメイクもドレスのイメージに合わせていつもより淡く透明感を意識いたしました」


 全ての身支度を終えたメイドはそう言うと、立ち上がった私の前に全身鏡を持ってきてくれる。


 わあ!すごい!

 ルーチェって本当に美人さんなのね。


 あんなに派手なドレスやアクセサリーがなくてもすごく綺麗じゃない!


「ルーチェお嬢様、いつもと雰囲気が違いますがとってもお綺麗です!」

 メイドの一人が興奮した様子でそう言った。


「ありがとう! あなた達のおかげよ!」


 私が感極まって言うと、メイドたちは困惑した様子で呟く。


「お嬢様がお礼を言うなんて……!」

「こ、怖いわ」

「――――明日は大嵐かしら」


 あら?お礼を言うなんて変だったのかな?

 それにしても酷い言われようね……。


 少し焦るが、すぐに気を取り直す。


 まあ、いいよね!

 それよりも、パーティーに集中しなければ。


 内容を知らないんだから慎重に行動しないと。

 絶対に断罪ルートを回避しなくちゃいけないんだから……!


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