リインカネーション
“人が生きる中で、初めて芽生える感情とは絶望なんだ”
いつだったか、友人がそんな事を言っていた。
“生まれたその瞬間に赤子は産声をあげるだろ? それは現実の冷たさに絶望してあげる悲鳴なんだ”
そう言っていた友人は先月死んでしまった。
事故死だったらしいが、終わってしまった事だからなんとも言えない。
泣くほど密な関係でもなく、無関心になれるほど薄い付き合いでもない。
なんとも奇妙な友人だった。
今こそ俺はその友人に問いかけたい。
お前は何故、そんな風に思ったんだ?
お前は何故、産声を指して“悲鳴”と言ったんだ?
何故なんだ?
俺と同じような経験をしたから、そう言えたのか?
「あぎゃーーーっ」
私は悲鳴を上げる。
死んだ事に対する悲鳴を、生まれた事に対する悲鳴を。
なるほど、絶望だ。
死ぬ瞬間を赤子が覚えていると言うのなら、それは絶望だ。
あの焼けるような外気、沈んでいく意識、魂を引きちぎられるような激痛。
それを赤子が覚えていると言うのなら、絶望するしかない。
私は死んで、生まれた。
ファンタジーのような世界に。
科学の利器もなく、整理された道路もない。
獣は大地を我が物顔で闊歩し、気まぐれに村を襲って人を食い散らかしていく。
生まれて狂ってしまったのかと思うような、非現実的な世界。
いっそ狂ってしまいたかったと思うような、弱肉強食の世界。
13で傭兵に。
19で王国騎士に。
24で騎士将軍に。
30の頃、任務に赴き竜に食われて、私は死んだ。
精一杯生きたつもりだったが、ここまでらしい。
まあ、しょうがない。
沢山殺してきたんだ、殺されもするか……。
死ぬ瞬間の激痛も、沈んでいく感覚も慣れはしない。
しかし、少しの安堵を感じる、これで終われるのか、と。
“知ってるかい? リインカネーションは続くんだ、なんせ巡る機関だからね。一種の永遠機構さ”
誰の声だ。
部下の騎士か?
それとも魔術師の念話か?
“組み込まれたらそれでお仕舞い。絶望しても狂っても逃れられない、永遠に囚われる。あははは、狂ってしまいなよ。そうすれば楽だ。僕はそうしてきたよ。人殺しも何もかも狂ってしまえば快楽になる”
いや、これは……
“クルクルクルクル狂ってしまおう。そうすれば君は苦しまなくてもいいんだ”
ああ、懐かしい声だ。
名前も覚えていない、友人の声。
“さあ、君が狂うまで終わらないよ”
私は悲鳴を上げる。
何度も何度も、狂えぬ理性を恨みながら。




