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見えない友達

作者: 貧血みかん

 私には2つ年上の姉がいるんですけど、姉はちょっと残念な感じの人なんですよ。

 綺麗な顔をしているのに、オシャレにも男性にも興味がなくて、暇があるなら誰にも会わずにひたすらゲームがしたい…ゲーム動画が見たい…ゲームの考察したい…っていう、陰キャなオタクなんです。

 一言で言うなら、美人の無駄遣いですね。


 現在は立派なゲーオタとして成長を遂げた姉ですが、小さい頃は高熱を出して寝込んでばかりの病弱な美少女だったんですって。

 まぁ、小さい頃というか…母のお腹にいた時からすでに弱くて、産婦人科の先生に「この子はもうダメかもしれない」と何度も言われたそうです。


 妊娠中の母は盛大にショックを受け、泣いて落ち込んで必死に神様に祈りました。

 『私の人生の全ての幸運を捧げますから、どうかこの子を産ませて下さい』と。

 ちなみに母は、困った時だけ神様に祈るタイプの人なので、信仰心はゼロに近いです。

 

 そんな母ですが、実はとても運の強い人で、福引きやクジや懸賞やビンゴをやれば、毎回必ず当たりを引いていたんですよ。

 母が言うには、宝くじみたいに金欲が絡むものは当たらないけど、何も考えないと高確率で当たるのだとか。


 その後、流産するかもしれないと言われていた姉は、無事に生まれてくる事が出来ました。

 姉を取り上げた産婦人科の先生の第一声は「白っ!」だったそうです。


 普通、生まれたばかりの赤ちゃんって赤黒い色をしているそうなんですけど、姉は生まれた時から白くて綺麗な肌の色だったんですって。


「こんなに色白で綺麗な赤ちゃんは初めて見たな!」とベテランお爺ちゃん先生は驚き、母は『私、天使を産んでしまった? 』と本気で思ったとか。

 

 姉はとにかく可愛い赤ちゃんで、母が抱っこして歩いていると「美人な赤ちゃんですね〜!」と声をかけられたり、いつの間にか人が集まってきて囲まれていたり、みんなに褒めてもらえるので鼻高々だったらしいです。


 だけど…母には不可解な事が一つだけありました。

 姉は、誰もいない部屋で笑うのだそうです。

 壁とか天井とか誰もいない方を向いて、そこに誰かいるみたいに嬉しそうに声を上げて笑うのだそうです。

 

 母は『ちょっと怖いな…』と思ったけれど、深く考えるのは良くない気がしたので『まだ赤ちゃんだし、よく分かってないのね〜』と思う事にしました。


 姉は、言葉を喋り始めるのがとても遅くて、母を散々心配させましたが、3歳を過ぎた頃にようやく会話ができるようになりました。


 一人遊びが好きで、お気に入りの遊びはおままごと。

 自分の前にクマのぬいぐるみを置き、向かい合わせてウサギのぬいぐるみを置き、玩具のパンや野菜を小さなテーブルに並べます。


「いっしょに、ごはんをたべましょう?」

 楽しそうにクマのぬいぐるみを動かす姉を見て、こんな遊び方ができるようになったのねと、母は感心しつつも喜びました。


「◯◯ちゃん、あそぼうね」

「◯◯ちゃん、コレかしてあげる」

「◯◯ちゃん、それはダメだよ!」


 毎日毎日、一人でおままごとをして遊ぶ姉。

 この遊びは、頭を使わないと出来ない遊びだわ。

 うちの子は凄いのね。とっても美人だし。

 でも、毎回出てくる『◯◯ちゃん』って何だろう?

 ぬいぐるみの名前?

 いや、空想上の友達なのかもしれない。

 きっと想像力が豊かなんだな。うちの子は。

 母は、少しだけ違和感を感じながらも、そう思う事にしたそうです。

 

 そんなある日、我が子の怒ったような叫び声が廊下に響きました。

 お風呂掃除をしていた母が慌てて様子を見に行くと、姉がリビングで喚いていたのです。


「◯◯ちゃんヤダ! きらい! もう、いっしょにあそんであげないっ!」


 声を荒らげる姉。

 ごっこ遊び?……だよね?

 それにしてはリアル過ぎない?

 3歳になったばかりの女の子が、ごっこ遊びで半泣きになりながら怒る演技をするだろうか?

 

「◯◯ちゃん……でも……うん……」

 困惑する母には気付かず、姉はグズグズと鼻をすすって、またあの名前を呼ぶのです。


 いや、だから◯◯ちゃんって……何なのよ?


 少しすると姉の顔には笑顔が戻り、スンスンと鼻をすすりながら再び遊び始めるのでした。

 その姿はまるで、お友達と仲直りをした後…のように見えて、母は背中がゾクリとしたそうです。

 

 そして3時のおやつの時間。

 母は深く考えるのをやめて、姉の好きなお菓子と麦茶を用意しました。


「どうぞ召し上がれ」

 いくら促しても、姉はお菓子に手をつけません。

 食が細い我が子のために好物を用意したのに。


「どうしたの? 食べないの? コレ好きでしょ?」

 心配になって尋ねる母に、姉は少しだけ右側を向いて言いました。

 

「ママ、この子のおやつは?」


 姉の視線の先にあるのは……………誰もいない椅子。

 

「マ…「いいから、早く食べなさいっ!」


 何かを言いかけた姉の言葉を遮り、母は怒ったような口調で話をうやむやにしました。


『あなたの隣には、誰もいないよ?』

 思わず喉元まで出かかったけれど、何故かそれは絶対に言ってはいけない気がして、必死に言葉を飲み込んだそうです。


 それから数日が過ぎ、父の転勤が決まりました。

 当時、父は営業職だったので、引越しする事が多く、姉の生まれた家は、たまたま父の仕事の都合で住んでいただけの一時的な住まいだったのです。


 その後、家族で他県に引越して、姉は新しい家の近くの幼稚園に入園しました。

 やがて妹である私が生まれ、バタバタと賑やかに月日は過ぎていきます。

 ふと気が付くと、いつのまにか姉は『◯◯ちゃん』と口にする事はなくなっていたそうです。


 姉は中学生の頃に、心霊現象とかオカルト系の動画にハマって、そんなのばかり見ている時期があったんですけど、それを知った母はもの凄く動揺しました。


「もしかしたら…何か見えてはいけないモノが見えて、悩んでたりする?」


 母の言葉に、姉は「え? 何?」と驚いてポカンとした顔をしました。

 姉の隣にいた私も『母は、大真面目な顔で何を言ってるんだろう?』って思いましたよ。


「悩んでないなら別にいいの。…あのね、お姉ちゃんは小さい頃に…霊感?…があったみたいなのよ」


「えっ? 初耳なんだけど!」


「なんかね、部屋で一人で遊んでるのに、◯◯ちゃん…◯◯ちゃん…っていつも同じ名前を呼んでたの」


「……◯◯ちゃん?」


「あー、なんて名前かは忘れちゃったんだけど、たぶん女の子の名前だったと思う」


 そして、母から語られる『見えない友達』の話。

 姉は全ての話を聞き終わった後、こう言いいました。


「何それ、怖っ! それ本当に私の話なの?」


 そのリアクションを見た母は、心の底からホッとした顔をしていました。


 現在、姉はバリバリの理系女子&ゲーオタです。

 論理的思考で武装した頑固な姉の元には、きっともう見えない友達は現れないのでしょうね。



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― 新着の感想 ―
イマジナリーフレンドでも、「そっち」の存在でも。仲良くなることも有るし、すれ違うことも有る。現実の友達だって、数年間だけの浅い関係も有れば、一生ものの強い結びつきに発展することも有る。 自然と別れら…
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