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2話

 幼馴染が数年振りに我が家へ来た次の日、俺が家に帰ろうと校門を通った時だった。


「ねえ」

「おわっ! って、そんなところでどうした?」


 校門から出た俺に声を掛けてきたのは梨音だった。彼女は学校の塀にもたれかけ、立っていた。


「昌樹を待っていたんだよ。何でそんな驚いているの?」


 声を上げた俺に彼女は苦笑いを浮かべていた。


「誰だっていきなり声を掛けられたら驚くだろ。俺に連絡すればよかったのに」

「だって、昌樹の連絡先を知らないし」


 梨音の言葉に俺は今更ながら気付いた。俺たち2人はお互い連絡先を交換したことがないことを。

 俺がスマホを持つようになった時、既に梨音とは疎遠になっていたからだ。


「じゃあ、交換するか?」

「うん、分かった」


 俺の提案に梨音はすぐさまスマホを取り出した。俺もスマホを制服のズボンから出した。LINEを立ち上げて、梨音と連絡先を交換した。


「ありがとう」

「おう」


 何故か彼女からお礼を言われたが、とりあえず返事をしておいた。梨音はどこか嬉しそうにしていた。


「どうして昇降口で待っていなかったんだ?」


 ふと疑問に思ったことを彼女に投げかけた。わざわざ学校の外で待っていなくても、昇降口で待っていれば俺もすぐ梨音に気付いたはすだ。俺が無様な声を上げることもなかっただろう。


「だってそこだと声掛けられるから」


 彼女は右手で髪を弄りながら呟いた。梨音曰く1人でいると男子から声を掛けられることがよくあるという。

 昇降口付近は当然人の出入りが多いところだから、声を掛けられる可能性が高いらしい。俺は改めて梨音が男子から人気なのだと知った。


「そんなこといいから早く行こうよ」


 梨音は俺の腕を引っ張った。女子から腕を触られて俺は心臓が高鳴った。それも美人の幼馴染なら尚更だ。


「行くって、どこだよ?」


 俺は心臓がドキドキしているのを感じながら梨音に聞いた。そもそも、何故彼女が俺を待っていたか理由をまだ聞いていなかった。


「どこって、昌樹の家に決まっているじゃん」


 梨音は至極当然のように言った。何を言っているのか分からないというような顔をしていた。


「今日も来るのか?」


 確か昨日の梨音の言い方だと漫画の新刊を買った後、つまり来月に来るということだった。今日も来るとは聞いていない。


「なんか久しぶりに昌樹の家のゲームをやりたくなって」


 梨音は腕を前に組んでそう言った。子供の頃、俺の家でゲームをして遊んでいたことを思い出した。2人して夜遅くまでゲームをしていたため、母さんからすごく怒られたこともある。


「何のゲームだよ?」


 彼女の口から出たのは世界的に有名な某配管工とその仲間たちがカーレースを行うゲームだった。そういえばよく遊んでいたな。


「やろうよ」


 再び梨音は俺の腕を掴んだ。彼女は目を輝かせていた。よほどゲームをやりたいのだろう。


「分かったよ。じゃあ行くか」

「うん、行こう」


 俺の返事を聞いて、梨音は嬉しそうに微笑んだ。俺の家に行くはずなのに、彼女に引っ張られるように俺は家へ向かった。

 ちなみに、家に帰る途中に梨音に聞いたが、失くしたはずの家の鍵は無事に見つかったらしい。梨音が自分の部屋に忘れていたという。


 俺の家に着くと、昨日に引き続き、今日も俺の部屋へ向かった。当然後ろには幼馴染がいた。

 昨日と同じように一旦俺が部屋の外で着替えを済ませ、部屋に戻った。

 梨音はどうしても早くゲームをしたいのかゲーム機やコントローラーを出して、始める準備をしていた。


「よく見つけたな」

「昔と場所が同じだったよ」


 梨音は何やら嬉しそうに言った。確かにゲームの置き場所は子供の時と同じだが、それにしてもよく覚えているなと感心した。


「はい、コントローラー」

「ありがとう」


 梨音からコントローラーを受け取った。ゲーム機とテレビを繋げ、ゲームを起動させると、2人してテレビの画面に向き合った。

 俺は床に座り、梨音はベッドに腰掛けた。


「負けたら罰ゲームね」

「は? そんなの聞いてないぞ」


 突然梨音がおかしなことを言い出した。


「せっかく勝負するなら罰とかあった方がいいじゃん」

「それなら勝った方にご褒美があるようにしないか?」


 罰ゲームだと梨音に何をやらされるか分からないためご褒美の方を提案した。いや、梨音に勝てる自信がない訳ではない。


「ご褒美って何するの?」

「えーと、勝った方が負けた方に何かしてもらうとか」


 俺は頭を捻って考えたが、ろくなものが浮かばなかった。というか、罰ゲームと何も変わらないことに気づいた。


「いいね、それ。何をお願いしようかな」


 梨音は俺の答えを聞くと、得意そうにした。


「おい、もう俺に勝つのが決定事項になってないか」


 彼女の態度は自分が負けるなんて微塵も考えていないようだった。俺から指摘を受けると、梨音は悪戯っぽく笑った。


「だって、このゲームって私が勝ち越しているよ?」

「そんなことはないだろ。俺の方が勝っているよ」

「えー、それは嘘だよ」


 俺は頭の中で子供の頃の記憶を思い返してみたが、どちらが多く勝っているか明確に覚えていなかった。それぐらい昔は彼女とたくさんゲームをしていた。


「私に負けると昌樹はいつも悔しそうにしていたじゃん」

「それを言うなら梨音だって勝つまで何回もやるだろ」

 

 昔から梨音は負けず嫌いで俺に勝つまでやり続けた。ご飯を食べる時間になっても、風呂に入る時間になっても、寝る時間になってもやり続けていた。

 そんな思い出を振り返っていると、不意に彼女は「あっ!」と大きな声を出した。


「な、何だよ?」

「やっと名前を呼んでくれた!」

「え?」


 梨音の言葉に俺は困惑した。


「昨日からずっと名前を呼んでくれなかった。さっき、初めて呼ばれたよ」

「そんなことは……」


 俺は梨音の言うことを否定しようと、昨日からの記憶を辿ったが、確かに彼女の名前を呼んでいないことに気づいた。


「そんなことぐらいで」

「そんなことじゃないよ!大事なことだよ!」


 梨音はグイグイ俺に迫った。すぐ目の前に整った彼女の顔があった。彼女の綺麗な瞳が俺を捉えていた。


「分かったから。これからはちゃんと呼ぶから」

「うん。お願いね」


 俺の言葉に梨音は満足そうに頷いた。そして、俺から離れて改めてテレビの画面を向いた。

 俺はというといまだに心臓がドキドキしていた。あんな近くで梨音の顔を見たのは初めてだ。



「ふっふっふっ、また私の勝ち!」


 梨音の勝ち誇った声が部屋に響いた。あの後、某カーレースのゲームで勝負をしたが、結果は梨音の方が多く勝った。

 

「昌樹って、弱くなった?」

「そんなことない。今日は調子が悪かっただけだ」


 ゲームを始める前のやり取りで梨音の顔が頭から離れなくなってしまった。そのためゲームに集中できず、梨音に敗北を喫することになった。

 俺が言い訳を並べると、彼女はふふっと小さく笑った。


「本当、昔から昌樹は負けるとそう言うよね。今日は調子が悪いからとかなんとか」

「今日は本当なんだよ!」

「それも昔から言っていたよ」


 勝者の余裕からか梨音は機嫌が良さそうだった。そして、俺の方を向いてニヤニヤした。


「それじゃ何をしてもらおうかな」

「うっ。お手柔らかにお願いします」


 どんな無茶振りが来るのか分からず狼狽えた。せめて俺ができるものならいいのだが。

 梨音は頬に人差し指を当てて考え込んだ後、やがてこう言った。


「じゃあ、明日の放課後に付き合ってよ」

「え?」

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