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エルフの森に辿り着いたのは、夜の始めの頃でした


この森には、今、百年前のシルワさんやノワゼットさんが

いらっしゃいます

その方々に出くわすと、いろいろとまずい、と相談して

もう少し遅い時間になるまで、隠れて待つことにしました


森のなかには、食べられる木の実や草の実が

たくさんありました

シルワさんとノワゼットさんがそれを見つけてくれて

軽く夕食にしました


森のエルフたちは、よほどのことがない限り

夜になると早く寝てしまいます

その代わり、朝はとっても、早起きです

もっとも、普段のシルワさんは、早起きはちょっとだけ

苦手です

それをノワゼットさんに話すと、ものすごく意外そうな

お顔をなさいました

泉の番人をしていたころのシルワさんは、朝は早く起きて

泉の周りの掃除をしていたんだそうです

シルワさんは、私たちがそんな話しをしていると

ちょっと困ったように笑っていました


真夜中

もうそろそろ大丈夫だろう、ということになって

私たちは、泉にむかって出発しました

森の中の道は、とても分かりにくいのですけれど

流石に、地元のエルフさんが、二人もいれば

迷うようなことはありません

泉への道も、遠回りしているようで、最短の道を辿って

いるはずでした


ふと

私のすぐ前を歩いていたフィオーリさんが

足を止めました

宙にむかって、しきりに耳をすませる仕草をしています

森のなかは、夏の夜らしく、しきりに虫の声がしていました


「どうか、しましたか?」


立ち止まったまま動かないフィオーリさんに

思わず声をかけると、しっ、と黙るように言われました


「???

 なにか、妙な音でも?」


しっ、と言われたのに、思わずそう尋ねてしまいました

そのときでした


突然、山のように大きなクロウベアが

脇の茂みから飛び出しました

本当に、突然、小山が現れたのかと思いました


びっくりして、とっさに足がすくんだ私を

後ろにいたシルワさんが、全身で庇うように引き寄せました


一拍遅れて、ノワゼットさんのシールドの魔法が

発動します

その間に、フィオーリさんは木の上に高く跳んでいました


「まずいな、こんな場所でクロウベアに出くわすなんて」


「森はエルフだけのものではない

 夜の森には、夜の森の住民がいる

 ということを、忘れていました」


そう答えたシルワさんの声は、どこか苦し気でした


「シルワ師?」


同じことを感じ取ったのか

ノワゼットさんも、シルワさんのほうを

訝し気に振り返ります

そして、あっ、と声を漏らしました


「ぅぅぅ、日頃から反射神経はもう少し

 鍛えておくべきでしたね?」


シルワさんはわざと明るく言いました

私を庇って回された腕から、ぽたり、と

何か雫が落ちてきました


その間にも、ベアは、狂ったように

長い爪のついた太い腕で、シールドを殴りつけています

破られないように維持しているノワゼットさんの額に

汗がにじんでいました


「フィオーリは?」


シルワさんは、ノワゼットさんに尋ねました

ノワゼットさんは、周りの木を見回しながら答えました


「彼は、咄嗟に、木の上へ跳びました

 ベアの興味は、完全にこちらへむいていますし

 おそらく、今は安全でしょう」


「それはよかった

 願わくば、もうしばらく大人しく隠れていてくれると

 いいですね」


「あのベアが、早く諦めて去ってくれると

 いいんですけど…」


ノワゼットさんの声は辛そうでした

シールドを維持し続けるのは大変なのかもしれません


シルワさんは、ゆっくりと息を整えると

振り返ってノワゼットさんの隣に立ちました

小さく歌いながら、ノワゼットさんの肩に手を触れると

素人目にも分かるくらい、シールドに光が宿りました


「シルワ師!」


「…すみません、今は、このくらいしかできなくて…」


そう答えるシルワさんの声はさっきよりも苦しそうでした

ほんのりした夜の森の灯りに照らされた背中に

大きな黒い染みが見えました


「そんなことより、ご自身の傷を癒してください!」


「背中ですからねえ

 ちょっと、どこか、ゆっくりした場所でないと

 しにくいかなあ、とか…」


ははは、とシルワさんは笑っています

その膝ががくっと揺れて、シルワさんはそのまま

地面に崩れるように倒れ込みました

そのまま、シルワさんは、立ち上がれなくなりました

ぜいぜいと、苦しそうな息をしています

血が流れ過ぎているのかもしれないと気づきました

一刻も早く、あの血を止めなければ、シルワさんの命にも

関わるかもしれない、と思いました


はっとして、私は、リュックを漁りました

神官のくせに、なにをぼんやりしているんだと思いました

リュックのなかには、まだ泉の水を入れた瓶が

残っていました


「シルワさん!少し、我慢してくださいね?」


シルワさんの衣は、ベアの爪に引き裂かれてしまっていて

私はそっとそれを引き剥がして傷を表に出しました


それは、目をそむけたくなるような酷い傷でした

クロウベアの爪には、毒もあって、傷口の周りの皮膚は

少し色が変わってしまっていました


瓶の蓋を開けて、私はその水をシルワさんの傷に

かけました


「…ふ…ぅ…ぅ…うわあああああっ!!!」


シルワさんはなんとか声を押し殺そうとしていましたけれど

堪えきれずに、やがて、断末魔のような悲鳴をあげました


かなり、痛いのだと思います


上手な人だと、癒しの術に

まったく痛みなど感じさせません

シルワさんは、しょっちゅう

私の怪我を治してくださいますが

私は痛いと思ったことなど、一度もありません


けれど、私は、それほど高度な癒しの術は使えませんでした

とっても申し訳ないのですが、こうやって、聖水をかけて

傷口を塞ぐので精一杯なのでした


シルワさんの悲鳴を聞いたベアは

ますます怒り狂ったように、シールドを殴りだしました

支えるノワゼットさんの唇から、ぅ、と声が漏れました


シルワさんの背中の傷はぱっくりと裂けていて

聖水一本では血は止まりませんでした


あの悲鳴をもう一度上げさせるのが

果たしてよいことなのか、と迷いながらも

私は、もう一本、シルワさんの背中に聖水を注ぎました


今度はシルワさんは、堪えることもできずに

最初から、大きな声で叫びました


「マリエ!もう、やめてくれ!」


ノワゼットさんが、耐えきれないというように叫びます

私も、もうこれ以上、シルワさんを苦しめたくなんか

ありません


けれども、傷口はまだ、塞がりませんでした


ちゃんとした神官なら、もっと癒しの技を磨いておけば

こんなに辛い目に合わせることなんかなかったのに


シルワさんは、私の代わりにこんな怪我をしたのです

あと少し、シルワさんが遅かったら

この悲鳴を上げていたのは、私のはずでした

悲しくて辛くて苦しくて、けれども

今は、手を止めてはいけないと思いました


次は最後の一本でした

私は、祈るような気持ちで

それをシルワさんの背中に注ぎました


シルワさんは、もう悲鳴を上げる力もなくなっていました

ただ、ぐったりと、目を閉じて

されるがままになっていました


涙が溢れてきました

私が泣いている場合じゃないのに

私なんかより、シルワさんの方が

もっと苦しい思いをしていらっしゃるのに

振り払っても、振り払っても

涙は止まりませんでした


と、ふと、ふわり、と淡い光が灯りました

光のなかで、シルワさんの傷が塞がっていくのが見えます

ようやく、癒しの効果が現れたのだと思いました


「…聖女様…」


ゆっくりと、こちらに伸ばされた手が

私の涙を優しく拭いました


「大きな声を出して、驚かせてしまいましたね」


私はぶんぶんと首を振りました

言葉で答えることはできませんでした


シルワさんは弱々しく微笑むと、申し訳ない、と

ノワゼットさんを見つめました


「少し、休んだら、きっと、一緒に…」


「ここは問題ありません

 わたしに任せて、シルワ師はゆっくり休んでください」


ノワゼットさんは、必死にシールドを支えながら

そう答えました


ベアは相変わらず恐ろしい顔をして

シールドを殴り続けています

いつになったらこの恐怖は去るのだろう、と

思いましたが、今はそのようなことを

口にしてよいとは思えませんでした


シルワさんは、ゆっくりと眠りに落ちるように

気を失っていました

あれほどの厳しい治療に耐えたのですから

今は休む他にできることはありません

本当なら、もっとゆっくり安心して休めるところで

休ませて差し上げたいけれど

目の前のベアは、それを許してくれそうに

ありませんでした


「マリエ!シルワ師を頼む」


ノワゼットさんは、必死に堪えながら

そうおっしゃいます

そんなことは、もちろんです

けれども、なにか、ノワゼットさんの

お力にもなれないかと考えました


そのときでした


いきなり森のなかに、甲高い鈴の音が鳴り響きました

一瞬、それに気を取られて、立ち上がったベアの

肩の辺りに、細い矢が一本、突き立っていました


けれど、それは逆効果でした

手負いになったベアは、恐怖と怒りに我を忘れ

ますます猛り狂って、滅茶苦茶に暴れだしました

その狂暴な力の前に、ノワゼットさんのシールドは

耐えきれないように、軋んだ悲鳴を上げました


そこへ、今度は鋭い声が響きました


「伏せて!」


次の瞬間、シールドが破られたのと

誰かがそこへ飛び込んできたのとが

同時でした


なすすべもなく、私はただ

シルワさんの上にからだを伏せていました

そのまま、ひとつ、ふたつ、みっつ…

数を数えながら、背中に痛みを覚悟していました


よっつめを数えたところで、とすっ、という

音がしました

それから、いつつめの辺りで、どさっ、という

さっきより少し重たい音がしました


なんだか生臭いような匂いがして、顔をあげると

大きなベアが、すぐ近くに転がっていました


思わず、ひっ、と息を呑んでもう一度、シルワさんの上に

伏せました

どきどきと、シルワさんのだか自分のだか分からない

心臓の音が、聞こえていました


「お見事

 それにしても、すごいよ

 一撃だった

 あんたのおかげで、命拾いした」


誰かがそう言うのが聞こえました


「いえいえ、おいらこそ

 気を逸らせてもらえたおかげで

 助かりましたよ」


そう答えているのは、フィオーリさんのようでした


もう一度、ゆっくりと顔をあげました

倒れたベアがまた視界に入って、ぎょっとしましたけれど

頑張って、もう少し、上を見てみました


そこには、背の高いエルフがふたりと

それから、フィオーリさんらしき影が見えました


「聖女様!大丈夫っすか?」


フィオーリさんは私に気づいて

声をかけてくれました


「あ、これ、怖いっすよね?

 よっこいしょ」


そんな声がして、ベアが、ずるずると

引きずられて、遠ざけられました


「もう、大丈夫っすよ?」


そう言って目の前にしゃがんだ顔が

にかっと笑いました

最初に木の上に跳んだフィオーリさんでした


「ずっと、木の上から、機会を伺ってたんっすけど

 おいら一人じゃ、このベアは荷が重いし

 どうしようかなって思ってたら

 ちょうど、そこの人が、矢を打ってくれて」


フィオーリさんの指さした先には、見かけないエルフが

ひとり、立っていました


「なんか、こんなところでベアに襲われてる

 エルフがいるかと思ったら

 ノワゼットじゃないか

 これは、まずい、って思ったんだ

 まったく、こんなに怒ったベアは初めてだよ

 って、そこにいるのは、兄様?

 兄様じゃないか!」


その人はいきなりそう叫ぶと、シルワさんに

駆け寄ってきました


その横顔を見て、はっとしました

この人はネムスさんではありませんか

棺のなかで眠っていた姿と、後は

迷宮で見た幻しか知りませんが

ネムスさんで間違いないと思います


「あんたは?人間?

 兄様に、何したの?」


ネムスさんは、私をじっと見ておっしゃいました

私は、ぶんぶんと首を振りました


「その人は、シルワ師に癒しの術を使ってくれたんだよ」


ノワゼットさんは、私の代わりに答えてくれました

けれど、ネムスさんは訝し気におっしゃいました


「癒しの術って…

 兄様、なんだか、ひどく弱ってるみたいだけど?」


「…あの、申し訳ありません

 私の力が至らなくて…」


そこは、謝るしかありませんでした


「シルワさんは、私のことを、庇ってくださって…」


「兄様って、そういう人だから

 自分が怪我しても、誰かのこと、守っちゃうんだ」


ネムスさんはちょっと怒ったように言って

倒れているシルワさんを抱え上げようとしました


「えっ?ちょっ、ネムス?一体、何を…?」


それを見たノワゼットさんは

慌てたようにおっしゃいました


「何をって?

 兄様をこんなところで寝かせておけるわけないだろ?

 家に連れて帰るんだよ」


ネムスさんは当然のように答えました


「…ぃゃ…あの…それは…」


多分、今、お家では、この時代のシルワさんが

ゆっくり眠っていらっしゃるはずです


そこへ連れて行かれるのはまずい、というのは

私にも分かりました


「いや!あの!ネムス!

 実は!この!シルワ師は!」


ノワゼットさんは、何か言おうと口をぱくぱくさせましたが

効果的なことは、何も言えないようでした


「実はねえ、今、おいらたち、極秘任務の真っ最中

 なんっすよ」


横からそんなことをおっしゃったのは

フィオーリさんでした


「種族を越えた連携で、この世界を救おう、的な?

 その証拠に、おいらはホビットだし

 そこの聖女様は、人間っす」


ネムスさんは、半信半疑のような顔をして

フィオーリさんをまじまじと見つめました


フィオーリさんは、ホビットであることを

見せつけるように、わざと、えっへん、と

背中をそらせて見せました


「だからね?

 おいらたちのことは、そっとしておいてほしいし

 今ここでおいらたちに遭ったことも、誰にも秘密に

 しておいてほしいんっすよ」


「…ノワゼット、君も?」


ネムスさんはノワゼットさんのほうを見て

確かめるように尋ねました


ノワゼットさんは、何も言えませんでしたが

ただ、うんうんと何回も頷きました


「そっか

 まあ、ノワゼットが言うんなら、嘘じゃないんだろ

 それにしても、兄様、やっぱりすごいや

 種族を超えて、世界を救うなんて

 英雄みたいだ」


「それはそうだ、シルワ師だもの

 当然だろう!」


何故かそこは、ノワゼットさんもきっぱりと断言しました

それに、ネムスさんは、ますます嬉しそうにしました


「じゃあ、ここで君たちに遭ったことは

 誰にも秘密にする」


ネムスさんは、抱え上げたシルワさんをゆっくりと

そこへ下ろしました


「あぁ、っと

 あの、それって、シルワさんにも

 秘密にしてほしいんっすけど…」


けれども、フィオーリさんがそんなことを付け足したので

また不思議そうな顔をしました


「兄様にも?

 兄様は世界を救うメンバーなのに?」


「!!!

 そこは、ほれ、今、気、失ってますし

 おいらたち、秘密組織の一員なんで

 正体がバレた、とかなったら、一大事なんっす

 だからね、シルワさんの正体は、弟さんにも

 バレてないことにしておきたいんっすよ!」


「そうなんだよ!ネムス!頼むよ!」


横から、今度はノワゼットさんも、強くおっしゃいました


ネムスさんは、首を傾げながらも、分かった、と

おっしゃいました


「それにしても、ノワゼット、君、なんか変だな?」


ネムスさんはノワゼットさんを見ておっしゃいました


「ずっと、僕のことは、話しかけても無視してたくせに

 本当に君、ノワゼットなの?」


え?とノワゼットさんが固まります

それを隠すように、フィオーリさんが飛び出しました


「ノワゼットさんですとも!

 パイ料理が得意で、畑仕事が趣味で

 自家製のハーブの調合法は、誰にも秘密で

 口癖は、べつに?

 なかなか人と仲良くならないけど

 いったん信頼したら、とことん信じる

 シルワさんのことが大好きで

 本当は自分がシルワさんの弟になりたくて

 でも、兄さんって呼べないから

 ずっと、シルワ師、って呼んでる

 ノワゼットさんってそんな感じの人でしょ?」


フィオーリさんの言うのを聞きながら

ノワゼットさんのお顔が、だんだん渋くなっていったのは

とりあえず、黙っておきましょう


けれど、フィオーリさんの解説は、ネムスさんの

お心に届いたみたいでした


「確かに、それはノワゼットだよね

 なるほど、そこまでよく分かってるってことは

 君たちはちゃんと仲間なんだろう」


そう言って納得してくれました

それから、ちょっと笑って付け足しました


「なんか、嬉しいや

 ノワゼット

 君がまた、こんなふうに、僕と話してくれるなんて」


「それは!

 …わたしだって、君のこと、憎んでたわけじゃない

 ただ、ちょっと、羨まし過ぎて…」


ノワゼットさんは、ちょっと赤くなって目を逸らせました


「羨ましい、って、兄様のこと?

 確かに、兄様は僕の兄様だけど

 兄様は、みんなの泉の番人だよ

 だから、何か相談したいことがあれば

 遠慮なく、なんだって、相談したらいい」


そのネムスさんを見て、ノワゼットさんは、あ、と

小さく叫びました


「君、怪我、してるじゃないか?」


「あ?本当だ

 まあ、このくらい大丈夫」


よく見ると、ネムスさんの腕から

けっこう派手に血が流れていました


「すまない、わたしは今、魔力が…」


ノワゼットさんは申し訳なさそうにおっしゃいました


「すみません、私も、聖水を使い果たしてしまって…」


私もしょんぼりと申し上げました


「ああ、大丈夫、大丈夫」


ネムスさんは、けろけろと腕を振りました


「僕は兄様と違って魔法はさっぱりだけどさ

 怪我なら、泉の水をつけたら、すぐに治るから」


じゃ、とネムスさんは私たちに手を振りました


「僕はもう帰るよ

 秘密の任務、頑張ってね?」


そのネムスさんを、あっ!と言って

フィオーリさんが引き留めました


「よかったら、このベア、持って行ってくださいっす」


「え?いいの?

 こんな立派なベア、滅多に手に入らないのに?」


ネムスさんは、びっくりしたようにフィオーリさんを

見つめました


「とどめをさしたのは、君だよ?

 このベアの所有権は君にあるのに」


「ぃゃ、今、こんなおっきなベアもらっても

 グランさんもいませんし…」


フィオーリさんは苦笑しました


「エルフさんたちって、獣の肉が特効薬なんでしょ?

 ベア一匹あったら、郷の人みんなの分の薬になる、って

 聞いたんっすけど?」


「…それは、そうだけど…」


迷うようにするネムスさんに

フィオーリさんはもう一押ししました


「じゃ、是非、もらってくださいっす

 そのために、ネムスさんは、狩人

 やってらっしゃるんでしょ?」


「う、ん…」


ネムスさんは曖昧に頷きました

それから、訝し気に尋ねました


「なんで、そんなにエルフの事情に詳しいの?」


「えっ?

 だって、そこは、ほら、いろいろと普段から

 シルワさんに伺ってますから…」


フィオーリさんは慌てたように説明しました


「あ、そっか

 兄様に聞いたのか」


ネムスさんはあっさりと納得しました


「けど、助かるのは確かだ

 本当に、もらってもいいの?」


「どうぞどうぞ

 もらっちゃってください」


フィオーリさんは愛想よく手を振ってみせます

ネムスさんは、そっか、有難う、とにっこりしました

その笑顔が、シルワさんにそっくりだなと思いました


「じゃあ、僕はもう、行くよ

 ベアは有難う」


ネムスさんはそう言うと、なんだか上機嫌に

ベアを抱えて去っていきました













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