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とにかく、行動を起こそう、ということになりました

何ができるかは分からないけれど

できないことは、やろうとしてもきっと叶わない

だから、とにかく、何か、必要だと思えることをやってみて

そうすれば、そのなかのどれかは、可能になるかもしれない


ものすごーく曖昧な感じでしたけれど

それでも、じっとただ指を咥えて何もしないのは

時間がもったいない、と思ったのでした


とにかく、私たちは、時渡りの奇跡のなかにいるのです

今、この場所にいられること事態、奇跡なのですから


大精霊様が何をお望みなのかは分かりません

本来、神官とは、常に、大精霊様のお心を察し

お心に沿うよう行動することを求められます

けれども、私のような、ぎりぎり神官には

そんな大それたことは、到底、できそうもありません


よかれと思うことが本当に善いかどうか

自信もありませんけれども


それでも、やっぱり、何もしない、というのだけは

きっと、よくないに違いない、と思ったのです


「疫病の原因というのは、結局、何なのでしょうか?」


「病というものは、目に見えない小さな小さな虫が

 引き起こすことものだとと考えられています

 それとは別に、何らかの原因で精霊を怒らせて

 しまったときに、起きることもあります

 けれど、それがどちらなのか、病だけを見て

 判断はできないかもしれません」


「目に見えない小さな虫、って

 どうやって探すんっすか?」


「気配を辿ります

 ただし、その場合は、ある程度、病が蔓延して

 その患者に共通する気配、というものがなければ

 何もない状態のところに、あるかどうか、を

 見極めるのは、かなり、難しいです」


「つまり、今現在、それはできない、ってことだな」


ふーむ、と全員、唸りました


「それでは、そちらはいったん、保留ということにして

 精霊様にお尋ねするということから始めては

 如何でしょう?」


ごきげん如何?

なにか、不都合なことはありませんか?

そんなふうに尋ねて回るのは如何でしょうか


「それがいいかもしれません

 それに、精霊様にお尋ねすれば、もし、病の虫の気配が

 この地にあれば、それを教えてくださることもあります」


それは、なんだか、とっても、有難いです

もしかしたら、一石二鳥?にならないでしょうか


「ところで、この土地には、どのような精霊様が

 いらっしゃるのでしょう?」


何気なくした質問だったのですけれど

え?とみなさんの視線が私に集まりました

もしかしたら、私、妙なことを言ってしまったの

かもしれません


「そういうのって、神官の専門分野じゃないの?」


ノワゼットさんに、ずばり、言われてしまいました


もちろん、優秀な神官さん方は、精霊の気配を感じ取ったり

精霊の言葉を駆使して、お話しをしたりなさいます


けれども、私の場合…

あちらから声をかけてくださらなければ

ほとんど分からない、のが実状です


「一応、わたしも、入門程度の神官の資格はあるのですが

 この程度では、隠れている精霊の感知は難しく…

 お役に立たず、申し訳ありません」


私よりも先にシルワさんが謝ってしまいました

シルワさんが、王都にいらしたころ

神官の資格も取った、というお話しは

以前にもちらりと聞いていました


「あの、申し訳ないのは私のほうです

 でも、あの、入門程度の資格、というのは、私も同じで

 それで、あの、その辺にいらっしゃる精霊様を

 感知できるのは、もうちょっと、偉い方でないと

 無理、というか…」


「あちらから寄ってきてくだされば

 なんとかなることもあるのですけれどね?」


ああ、そうです

たとえば、ノワゼットさんの畑のときのように…


あ!と思い付きました


「あの、この村には

 神殿とか、祭壇とか、どこかにありませんか?」


「この村には神殿はありません

 けれど、祭壇ならば、井戸のところにあるはずです」


祭壇は、精霊と交流するときの窓口になるところです


やみくもにその辺りで呼び出して

呼び出せる方も、もちろん、いらっしゃいますけれども

私などですと、精霊に気づかれもしない、ということも

多々、あるのです


その点、祭壇ですと、気づかれない、ことは、あまりない

というか、割と、気づいてもらえます


ですから、まずは、その井戸の祭壇へ

行ってみることになりました


井戸の周りには人影はありませんでした

ちょうどお昼時だったので、みなさん、お食事に

戻られているのでしょう

村の人たちに見つかったら、また、余所者と言われて

叱られてしまうかもしれません

今のうちに、急いで、精霊を呼び出せないか

やってみることにしました


井戸はこの村の始まりとなった場所です

この村にとって、とても大切な、神聖な場所でした


井戸の周りは、丁寧に石が積まれていて

大きくて立派な屋根もありました

その屋根を支える柱のひとつがくりぬかれていて

そこに精霊を祭る祭壇が作りつけられていました


私は、あの畑の精霊に遭ったときのことを思い出して

ここでなんとか泣けないものかと考えました


確か、あのときは、涙を零したら、精霊が姿を現したのです


しまった

玉ねぎを持ってくればよかった、かもしれません


しかし、今から取りに帰るのもなんですし

私はなんとか泣けないものかと、自分のほっぺたを

思い切りつねってみました


すると、とんでもない悲鳴が聞こえました


「なーにを、なさるのです!

 聖女様!なんてことを!なんてことを!」


ひたすら、なんてことを、と繰り返し

私の手を抑え込んだのはシルワさんでした


「いえ、あの、涙を流そうと…」


私は、畑で精霊と遭ったときのことを説明しました

シルワさんは話しを聞くと、大きなため息を吐いて

おっしゃいました


「この井戸は、エルフの森と同じ水脈だと

 村長様はおっしゃっていましたね?

 ならば、もしかすると、ここの精霊は

 わたしにも、呼び出せるかもしれません」


「流石シルワ師

 素晴らしい」


嬉しそうなノワゼットさんにシルワさんは軽く会釈だけして

祭壇にむかって、祈り始めました


精霊に祈りを捧げることは、神官の基本中の基本です

というか、神官でなくても

神殿を訪れ、真摯な祈りを捧げる人々は大勢います


なにも、特別な儀式も手順もありません

ただ、両手を合わせて、心を真っ白にして、祈るのです


もっとも、これまでは、こんなふうに祈ってみても

精霊が現れたことなど、ありません

そうそう簡単に人前に姿を現してはくれないものです


けれど、今は、どうしても、精霊に会いたいと思いました

よく、お父様は、会えないと思っていたら、きっと会えない

どうしても会いたいなら、会いたい会いたいと

強く念じなさい、とおっしゃいました


だから、私も、心を込めて念じました


どうかどうか、精霊様がここに現れてくださいますように


ちゃぽ、ん…


みなが静かに祈るなか、井戸のほうから、なにやら

水音のようなものが聞こえた気がしました








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