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日の出村について調べるのなら、まずはアイフィロスさんに

お話しを伺いましょう

私たちは大急ぎで、アイフィロスさんのお家まで戻って

まいりました


いったい何事だ、というお顔をなさるアイフィロスさんに

ご挨拶もそこそこに、私たちはお話しを切り出しました


「日の出村、という村をご存知ですか?」


「日の出村?

 ああ、知ってるよ

 人間の村だけど、昔から、このエルフの森とも

 交流があって、交易なんかも、していたところだよ」


オレの両親は、エルフには珍しい商人でさ、と

アイフィロスさんは続けました


「日の出村にも、しょっちゅう行ってた

 親しい人間も、それなりにいるみたいだった」


だけど…とちょっと言い淀んでから、アイフィロスさんは

付け足しました


「疫病が流行って、村ごと滅んだんだ」


村ごと滅んだ?

それはまた、ただ事ではありません


「ちょうど、同じ頃、この森にも疫病が流行って…

 ネムスが、オークになった、あの疫病だよ

 それととてもよく似た疫病だったみたいで

 この疫病はエルフが持ち込んだ

 なんてことを、言われたんだ

 そのせいで、交流もなくなっていって

 その何年か後に、日の出村は滅んだ、って聞いた」


その疫病は、聖なる泉をネムスさんが穢してしまったから

起こった

シルワさんはそうお考えでした

ただ、それはシルワさんの誤解だということは

泉の精霊さんから伺っています


ただ、そのときに、疫病があった、ということは

本当のことです

そのうえ、その疫病は、エルフだけではなく

近隣の村にまで波及していたとは…


「日の出村の方は、みなさん、疫病で亡くなった

 のですか?」


「詳しいことは、分からないけど

 森は、シルワや、他の治癒魔法のできるエルフが

 力を尽くしたおかげで

 そこまで深刻な事態にならずに鎮静化したんだよ

 だけど、そのすぐ後に、日の出村が深刻な事態だ、って

 聞いてさ

 治癒魔法を使える術師が全然足りないらしいから

 この森からも、治癒魔法の使えるエルフが

 救援に行こうとしたんだけどさ

 全部、断られてしまったんだ

 疫病を持ち込んだ上に、それを治すのを名目に

 侵略しようという魂胆だろう、とか言われてさ

 あまりに酷い言いようだろう?

 それで、折角、善意から行こうとしていた連中も

 すっかり行く気をなくしてしまった

 そんなこんなで、交流も途絶えて、それっきりだ

 その後、何年かして、滅んだ、って噂だけ、聞いた」


「その村には、神殿はなかったのでしょうか?」


神官であれば、治癒魔法は使えます

治療院のない村では、神殿が治療院の代わりに

なっているところも多いのです


たとえ神殿がなくとも、そのような事態のとき

救援要請を受ければ、王都や近隣の町や村の神官たちが

救援に駆け付けます

治療の術師が足りない、などということは、だから

よほどの事態なのです


「どうかな?

 オレ自身は日の出村には行ったことないから

 オレの両親はこっそり薬とか届けてたみたいだけど

 エルフの薬だとバレて、知人が同じ村のやつらから

 酷い目に合わされたりもしてさ

 余計なことをした、って後悔してた」


…それは、酷いお話しです


「で?

 その日の出村がどうしたの?」


反対にアイフィロスさんに尋ねられて、私たちは

ノワゼットさんの畑の精霊の話しをしました


「へえ~

 あそこの畑、精霊がいたんだ

 どうりで、いい野菜ができるはずだ」


アイフィロスさんが真っ先に言ったことは

それでした


どう反応したものか迷って、しばらく黙っていると

アイフィロスさんは、小さく舌打ちをして言いました


「それで?

 君たち、その日の出村へ行くつもり?」


「それが、シルワさんの手掛かりやからな」


お師匠様のお言葉に、私たち全員、頷きました


けれど、アイフィロスさんは、呆れたようなため息を

吐きました


「シルワは、月が一巡りするうちには戻ってくる、って

 そう言って、出かけたんだ

 大人しくここで待ってたらいいんじゃないの?」


「…確かに、アイフィロスさんのおっしゃることは

 もっともです

 けれど、シルワさんには、オークになってしまう

 かもしれない、という心配もあります

 ただ、ここで待っているだけよりも

 追いかけて行きたいと…」


「シルワは、ちゃんと、薬、持ってるんでしょ?

 君からもらった、って、言ってたよ?」


「ええ、それは

 でも、本当にそれだけで無事かどうかは…」


「昔のシルワならともかく

 今のシルワは、そんな無茶はしないでしょ

 それよりも、シルワは、君たちを待たずに

 そこへ行ったんだよね?

 もしも、君たちの助力が必要だって思ったんなら

 待っていたか、それとも、君たちと合流するのを

 優先したはずだ

 それって、君たちをそれに巻き込みたくなかった

 からじゃないの?

 そういうシルワの気持ち?は尊重しなくていいの?」


もちろん、シルワさんのお気持ちを無視していいと

思っているわけではありません

けれど、それをどう説明したらいいのか分からなくて

口を閉ざすと、アイフィロスさんは淡々と続けました


「信じて待っていてやる、ってのも、時には必要だと

 思うんだけど」


「確かにそれはもっともだね

 だけどさ、僕ら、じっとしていられないんだよね

 君だって言ってたじゃないか

 シルワはお人好しすぎて、信用できない、って

 シルワの、大丈夫、ほど、信用できない言葉もない

 そこはお互い意見が一致してるって

 思ってたんだけどね」


私の隣からそうおっしゃったのはミールムさんでした


「シルワの身になにかあったら、なんて心配しながら

 ただ、なにもしないで待っていて

 それで、本当に何かあったら、耐えられない

 そのくらいなら、余計な心配してシルワに迷惑がられても

 そっちのほうが、千倍マシ

 それに、シルワは、マリエのこと

 迷惑がったりなんかするもんか

 まあ、せいぜい、危ないことをさせるな、って

 僕らがお叱りを受ける程度だよ」


「それに、シルワさんは、見かけによらず

 案外、危なっかしいお人やからなあ」


お師匠様もうんうんと頷きながらおっしゃいました


「このくらいのこと、こーーーのくらいにして

 要らん心配抱えては、一人でうじうじ悩みはる

 かと思うたら、ついていけんほど、突然、理論が飛躍して

 び~っくりするようなこと、やらかすやんか」


「確かに

 ああ見えて、危なっかしさはフィオーリと同じくらいだ」


「いやいや

 それでもフィオーリのほうは、なんちゅうか

 器用にぴょいぴょい飛び越えて行くんやけど

 シルワさんは、気がついたらドツボに落ちてる、みたいな

 そんな感じやねんな」


なんだか、ちょっとあんまりな言われよう

な気もしますけど…


「とにかく、僕らは

 なにもしないでいて、後悔したくない

 それだけのことだよ」


「やらん後悔よりは、やった後悔、て

 昔の人も言うたやんか」


お二人の説得に、アイフィロスさんは、急に

笑い出しました


「まったく、君たちって、本当、しょうがないな」


それから少し真面目な顔になって、もう一度

おっしゃいました


「だけどさ、日の出村には、本当に、関わらない方がいい

 オレの両親は、何度も何度もそう言ったんだよ」


「薬あげたんを、余計なことした、って

 後悔してた、って話しか?」


お師匠様の言葉にアイフィロスさんはひとつ頷きました


「オレの両親は、もう二度と、あの村には関わるつもりは

 ない、ってきっぱり言っていた

 それだけじゃない

 あの村は呪われてるんだ、って

 病で死んだ霊は今もあの村をさ迷っているんだ、って

 それにあの村は滅びてからもう百年以上も経っている

 家も何も、もうほとんど朽ちて何も残っていないだろう

 そんなところへ行って、何をするつもりだ?」


「ひゃ、百年?」


そんな昔のことでしたか

それはちょっと、予想していませんでした


「まあ、エルフさんは長生きやからねえ」


お師匠様は苦笑しておっしゃいました


「けど、そこへシルワさんは行きはったんやろ?」


「さあ、それだってどうだかだよ?

 そもそもさ、君らもその精霊の言うことを真に受けて

 そんなところまで追っかけて行ったって

 シルワはいるかどうかも分からないだろう?」


「その村は、呪われているのですか?

 亡くなった方が、さ迷っている

 というのは本当ですか?」


私は、さっきアイフィロスさんのおっしゃった言葉が

引っかかっていました


「え?あ、いや

 それは、オレの両親が言ってたってだけで

 実際に呪いがあるかどうかは…」


アイフィロスさんは少し焦ったようになさいます

そのアイフィロスさんに、私は、ずい、と歩み寄りました


「たとえ、落ちこぼれで

 資格をもらえたことが

 神殿の七不思議に数えられている

 この私だとしても

 神官、として

 それは、捨て置けません

 もちろん、シルワさんのことを

 どうでもいいとは申しませんけれど

 呪われた場所を、霊がさ迷っている

 などということを聞いておきながら

 放置するなんて

 自らの信条にも背く行為

 もしもそんなことをしてしまったら

 それこそ、シルワさんのお顔も

 まともに見られなくなります」


うっ、とアイフィロスさんは息を呑んで一歩

後退ります

それを私は、またずいっと一歩、追いかけました


「百年の呪いに苦しむ村

 もしも、それが本当なら

 これは一大事です

 何を置いても、駆け付けなければなりません」


もちろん、シルワさんは大事です

けれども、もし、シルワさんが行ったのが

そこではなかったとしても

呪い、など、断じて、放置はできません

ええ、そればかりは、譲れません


「とりあえず、その村へ案内してくれる玉子

 こしらえてくれへんかな?」


お師匠様は、私の後ろからそうおっしゃいました













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