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ずっとずっと遠くに見えていた森にようやく辿り着きました

妖精の魔法に助けられても、それは遠い道のりでした

魔法がなかったら、おそらく辿り着けなかったでしょう


森はとても深く、鬱蒼としていました

踏み込むにはちょっと勇気のいる感じでした

あちこちに何か潜んでいそうな陰がたくさんありました

大きな木に遮られて、お日様の光も届きません

獣の通る道さえも、森の中にはありませんでした


森の入り口で、恐々と中を覗き込みながら足がすくみました

踏み込むのを、ちょっと躊躇ってしまってました

そんな私たちに、シルワさんは、ふふ、と微笑みました


「どうします?

 引き返しますか?」


穏やかに、そう尋ねられました


「いいや

 折角こんなとこまで来たんやもの

 中を見ずに帰るなんて、せえへんわ」


そう答えたお師匠様の声は、ちょっと震えていました


「シルワさんもいるし、大丈夫っすよねえ?」


不安そうに見上げるのはフィオーリさんです

それに、はて、とシルワさんは首を傾げられました


「え?ちょ…

 そこで、はて?なんっすか?」


フィオーリさんは、さっきよりもっと不安そうになりました


「そこは、シルワだもの

 人の悪さはパーティで一番」


そう言ったのはミールムさんでした

ミールムさんはシルワさんを睨むようにしました

シルワさんは、はは、と小さく笑いました


「取り立てて面白い物もないでしょうし

 ご案内するような場所もありませんから

 ただただ、綺麗な森と泉があるだけですよ

 それでもよろしければ、お連れいたしましょう」


「綺麗な森?」


お師匠様はそう繰り返されました

それから、目の前の黒い森を見ました

そのお気持ちは、私にもよく分かりました


「もしかして、エルフさんたちの感じ方、って…

 ドクトク、なんっすかねえ?」


フィオーリさんもそうおっしゃいます

多分、同じことを思われたのでしょう


「まあねえ、価値観って、種族で違うもんだろうし」


ミールムさんも頷きました


それに、シルワさんは今度はちょっと声に出して笑いました


「確かに、エルフはいろいろとドクトク、です

 けれど…」


それからちょっと諦めたように微笑まれました


「それでは、これから少し

 エルフのドクトクの魔法を

 御覧に入れましょう」


少し芝居がかった調子でそうおっしゃいました


すっと差し伸べた指先に魔力の光が灯ります


ゆっくりと、その指で、宙に紋章を描いていきます

それはそれは、美しい紋章でした


紋章を描きながら、シルワさんは、呪文を唱えました

なんだか歌のように聞こえる呪文でした

何を言っているのか言葉は分からなかったのですが

ゆっくりとした節は、どこかのんびり心地よいものでした


やがて、歌が終わると同時に紋章が完成しました

眩い光を放って、魔法が発動します

その後、するすると紋章は解けて、端から消えていきました


はっと気づくと、目の前の景色は一変していました

どこまでも、どこまでも、碧い森

さわさわと風にざわめく木の葉たち

その間から、きらきらと陽光も差しています


それは、あまりにも美しい森でした

こんな綺麗な物が見られるなんて

旅をしていて、本当によかった

心からそう思えるような景色でした


黒く見えた木の幹も、白く、明るく輝いていました

木の足元まで、日の光が届いています

下生えの草には、たくさんの花もついていました

そこはよく整備された森でした


たくさんの虫や小さな生き物が飛び回っていました

小鳥の声や、動物の後ろ姿もちらりと見えました

この森を整備したのは、どれほどの名人なのでしょう

ただ単に形を揃えたというのではなく

それは、森そのものの力を最大限に引き出されたような

そんな素敵な森でした


「流石エルフの森やな」


お師匠様も感心なさったようでした


「もしかして、さっきのは迷いの魔法だったんっすか?」


フィオーリさんも目を丸くしていました


「ええ、まあ…

 あれを見れば、引き返したくなるものでしょう?」


シルワさんは、小さく笑って答えました


「よからぬ者は、美しい物を見ると壊したくなりますから

 けれど、怖い、恐ろしい場所なら、引き返してくれます」


「僕らはよからぬ者じゃないけどね?」


「ええ

 だから、魔法を解いて差し上げたのですよ」


シルワさんはにこにことおっしゃいました


「ここは、森全体がエルフの住処なのです

 エルフに招かれた客人でなければ入ることはできません 

 よそのお家に勝手に入ったりはしませんよね?

 それと同じことです」


それにはみなさん納得なさったご様子でした


「この居心地のよさは、エルフさんのお家やからなんや」


「住処の居心地を整えるのは、どの種族も同じですよね?」


「居心地のよさってのは、それぞれ違ってますけどね」


みなさんお話しをなさいながら、森へと入って行きました


「わたしのするように、ついてきてくださいね」


シルワさんはそう注意なさると、先に立って歩かれました


少し歩いたかと思うと、目の前の木をくるりと一回り

右に曲がってしばらく行くと、またくるり


なんだか不思議な進み方です


「それは、なんか、作法でもあるのん?」


「作法というか…

 光を屈折させる魔法が森全体にかけてあるので

 真っ直ぐに見えて曲がっていて

 曲がっているように見えて真っ直ぐになっている

 と申しましょうか…」


へえ~、ふ~ん、とみなさん頷かれました


「それはなに?

 エルフにはちゃんと見えてるの?」


「ああ、まあ、はい

 というか、わたしは慣れてますから

 自分のお家で迷う人はあまりいないでしょう?」


「なんやしかし

 こんなくるくる回ってたら、いつ着くんやろね?」


「ああ

 これでも近道をしているので

 もう直きに、わたしのいた泉に着きますよ」


その言葉の通り

はっと気づくと森を抜けていて

大きな泉の畔に立っておりました





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