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朝になって目が覚めても

まだ夢の続きをみているようでした


なかなか起きられず、ベッドに横になったまま

しばらくぼんやりしておりました

するとミールムさんとお師匠様の話す声が

聞こえてきました


「シルワ、いったい、どこに行ったんだろ」


「しっ、嬢ちゃんが目、覚ますやろ?

 妖精の粉、て、そんな簡単に

 吹き飛んでしまうもんなん?」


「そりゃ、風の強い屋外ならそういうこともあるかもだけど

 部屋のなかで、吹き飛ばされたりするもんか

 それに、さっきから何度も呼びかけて

 粉、かけてるでしょ?」


「…それでも、姿、現れへん、ってことは、やっぱ…」


「だあああああっ、もうっ!!!」


ミールムさんは怒ったように一声吠えると

突然、緻密で複雑な紋章を描き始めました


「えっ?ちょ、なに?」


それは部屋いっぱいに広がるほど大きな紋章でした

その完成と同時に、ミールムさんは大きな声で唱えました


「霊召喚!!!」


流石に私もびっくりして飛び起きました


それは、かなり強力な魔法でした

ミールムさんの瞳には怪しい光が宿り

髪はどこからともなく吹く風に、はたはたとなびきます

お師匠様は、ふへっ、と奇妙な声をあげました


巨大な紋章は眩しく輝き、その光に照らされて

うっすらと透けた姿がいくつもいくつも現れました

みるみるうちに、部屋のなかは、透けた姿の方々で

みっちりいっぱいになりました


「え?ちょ…、なに、ここ、こんなたくさん、霊、いるの?

 って、全部、ホビットばっかじゃないか!」


ミールムさんの悲鳴に辺りを見回すと

ふよふよと透けた姿で漂う姿は、みなさん

お揃いの三角帽子を着けていらっしゃいました


「うっひょ~~~

 それ、おいらん家のご先祖様方っすよ」


騒ぎを聞きつけて飛び込んできたフィオーリさんが

ふよふよと漂うみなさんを見て言いました


「いやいや~、肖像画でしか見たことのないご先祖まで

 いらっしゃる~」


ご先祖様たちは、私たちに気づいたのか、楽しそうに

こちらにむかって手を振っておられます

霊魂だとしても、少しも怖くないなあと思いました


「ホビットってのは、霊まで含めて、大家族だってのは

 よっく分かった

 けど、僕の探したかったのは、シルワだから」


そこに集まっているのはホビット族ばかりで

エルフ族のシルワさんなら、ぴょんとひとりだけ

抜きん出て見えるはずでした

けれども、残念なことに、そのような姿は

どこにもありませんでした


ミールムさんはぷんぷん怒りながら、魔法を解除しました

ご先祖様たちは、にこにこと手を振りながら

消えてしまいました


「けど、ここに現れなかったってことは

 僕の召喚術の及ぶ範囲には、もう

 シルワはいない、ってことだな」


ミールムさんは大きなため息と共に、そこへ座り込みました


「この魔法、ものすごい魔力使うんだよね

 おまけに、限界まで範囲も拡げたから

 もう今日は一日、僕は使い物にならないよ」


「その範囲ってどのくらいなん?」


「人間の足で一日で歩ける距離を半径にして

 ぐるっと円を描いたくらい」


「それは…かなり、広いなあ?」


お師匠様はその広さを想像するようにおっしゃいました


私はあの夢を思い出しました

急いで懐を探ります

すると、そこに大切にしまってあったはずの小瓶は

なくなっていました

やっぱり、あれは、夢だけれど、ただの夢では

なかったのです


「シルワさんは、あの、なにか大切な用があると

 おっしゃって…」


私は夢で見たことをみなさんにお話ししました


ふへ~とフィオーリさんはおっしゃいました


「シルワさん、聖女様にだけ、ご挨拶して

 行かれたんっすね?」


「まあ、嬢ちゃんに黙って行って、また毎日

 泣き暮らされてもかなわんけどなあ…」


お師匠様は心配そうにこちらを御覧になりました


「大丈夫か?嬢ちゃん?」


「大丈夫っすよ、聖女様

 シルワさんはすぐに戻るって言ったんでしょ?」


フィオーリさんはそれほど心配もしていなさそうでした


「どうせ、からだ、取りに戻ったとかじゃないの?

 霊魂じゃ、魔法も使えないし

 転んだマリエを起こすことすらできない

 万年魔力不足のスチャラカ魔術士だとしても

 いないよりはマシだからね」


機嫌の悪いミールムさんは、いつもに増して辛辣でした


「まあまあ、わたしも、そない、心配はいらんと思うよ?

 なにせ、あの、シルワさんやもん

 嬢ちゃんおらんとこで、一日ももてへんわ」


お師匠様は慰めるように言ってくださいました

ミールムさんはふんと鼻を鳴らしました


「霊魂のままの方が、少なくとも、移動は速いからね

 このまま僕ら揃ってあの迷宮まで行くより

 霊魂のシルワが一人で行って戻った方が速いって

 まあ、そんな判断だろうよ」


「どっちみち、そっち目指して行くつもりやったのに

 案外せっかちなんやなあ、シルワさん」


「一日も早く、聖女様のために何かしたい、って

 おいら、その気持ちは分かりますよ」


みなさん、それぞれ、納得されたようでした


「それで?

 これから、どうする?

 ここでもうこれ以上、役に立つ情報はなさそだけど?」


ミールムさんはむすっとしたままおっしゃいました


「わたしは、そろそろ出発してもええかなと

 思ってたんやけど?」


お師匠様はみなさんの意見をうかがうように

顔を見回しました


「僕としては、体力使い果たしちゃったから

 今日はもう一日、寝てたいくらいなんだけど」


ミールムさんは拗ねたようにむこうをむいてしまわれます


「けど、ここに残っても、話し、進まへんしなあ」


お師匠様は困ったように唸りました


「そうそう!

 話し!

 その話しっすけど!」


突然、思い出したように叫んだのはフィオーリさんでした


「昨夜、うちのおチビたちが話してくれたんっすけど

 うちのおチビたち、オクサンが消える前に

 いろいろ、話をしたらしいんっすよ」


「えっ?オークと話したって?

 そんなことできるん?」


驚いたように聞き返したお師匠様に

フィオーリさんは、ねえ、と頷きました


「おいらも驚きました

 けどね、確かにオクサンと話したって言うんっす

 もっぱら、一番おチビのドメニカが、なんっすけど

 ルネやマルテも話をしたらしいんで

 夢を見たってわけじゃなさそうなんっす」


「オクサンは心の種を取り戻していたろう?

 心の種を取り戻したオークは、人だったころのことを

 思い出すこともあるからね

 まるっきり、あり得ない、ってこともないかもね」


ミールムさんはあっさりおっしゃいました


オクサンの心の種は、一本のスプーンでした

どういう経緯か、それは、三百年前のチーズのなかから

出てきました

スプーンを見つけた後も、オクサンは前と変わらず

かあっ、と叫んで畑を耕しておられましたけれど

オクサンを送り迎えする担当だった子どもたちは

畑の行き帰りに話すこともあったのかもしれません


「それで?

 なんか、参考になりそうなことでもあったん?」


お師匠様は期待の籠った目でフィオーリさんを見つめました

それに、フィオーリさんは、はいっ、と

嬉しそうに頷きました


「ああっ!にいちゃん、ずるいっ!

 そのお話しは、わたしがするって言ったのに!」


そのとき、そう叫びながら部屋へ飛び込んできたのは

ドメニカでした


「こら、ドメニカ!

 お客さんの部屋に勝手に入っちゃだめだろ?」


お目付け役のルネが、その後ろから追いかけてきます


「にいちゃんは、かってにはいってるじゃない!」

「兄ちゃんは、お客さんとは友だちだからいいんだ!」

「ドメニカだって、ともだちだもん!

 ねえ、ようせいさん?」


ドメニカは前に来たときにすっかり仲良くなった

ミールムさんの方にむかって言いました


「…ああ、そうだ

 僕はドメニカの友だちだ

 だから、ドメニカ、話してくれるかい?」


ミールムさんが調子を合わせるように言うと

ドメニカは勝ち誇るようにルネを見ました


「ね?いったでしょ?

 ドメニカはオクサンもようせいさんも

 ともだちなんだよ!」


「あーもー、分かったよ

 みなさん、うるさくしてすいません

 けど、妹が、どうしてもみなさんに

 聞いていただきたい話があるみたいで…」


ルネは申し訳なさそうに言いました

けれども、その話を是非とも聞かせていただきたいのは

私たちのほうでした


「是非!お願いいたします、ドメニカ」


私はドメニカに駆け寄ると、両手を合わせて懇願しました

ドメニカは、そんな私にちょっと驚いたようでしたけれど

すぐに、うん、いいよ、と頷いてくれました







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