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夕食の後は、以前にも泊めていただいたお部屋を

用意してくださっていました

フィオーリさんは、今夜はごきょうだいたちに

連れて行かれてしまいます

滅多に会えないご家族なのですから、一晩くらいはと

みなさんも快く送り出しました


部屋に入ると、早速、ミールムさんは

あー疲れた、とベットに飛び込みました


「まあ、いろいろ思い悩むことも多いけど

 明日の朝も早いしな?

 とにかく、夜はゆっくり休まんと」


お師匠様はそうおっしゃって

早々に灯りを消してしまわれました


常夜灯のほんのりした灯りだけになり、ベットに横になって

私はみなさんのお話しを思い出しておりました


オクサンは大昔の郷のホビットだった

けれど、オークになった同族の話しは禁忌だったため

あまり詳しいことは大っぴらに語られることはなかった

オークになった理由は分からないけれど、少なくとも

オクサン自身は、自分がオークになることを分かっていた

オークになったオクサンを氷室に閉じ込めたのは

同じ郷のホビット

偶然、オクサンを見つけたのはドメニカ

ドメニカがオクサンにお湯をかけると、オクサンは復活して

動き始めた


みなさんのお話しを総合すると、こんな感じでしょうか


こうして改めて整理していると

オクサンはなんとなくネムスさんに似ているように感じます

ネムスさんも自分がオークになることは分かっていました

シルワさんは、ネムスさんが完全にオークになってしまう

直前に、氷の棺に入れて眠らせることで、ネムスさんの

時間を止めたのです

そして、シルワさん自身も、仮死状態になることで

自分の時間を止めているのです


時間を止めればオークにはならない


けれども、永遠に時間を止め続けることは

本当の解決とは違う気もします


暗いなかで、ミールムさんの声がしました


「思ったほど、参考になることはなかったねえ」


ミールムさんの声は少し残念そうでした

お師匠様がそれに答えました


「やっぱ、どこの種族も、仲間内からオークを出すのは

 禁忌になってしまうようやね」


「多少なり、事情の分かっていそうな連中が

 揃って、口を閉ざしてしまうんだよね」


「確かに、オークになってしまうんは、よっぽどのこと

 やから、その気持ちも分からんでもないけどなあ」


お二人は揃ってため息を吐かれました


「せめてオクサンがオークになった理由とか分かれば

 よかったんだけどね?」


「即座にオークになったんか、オークになる病やったんか

 それも分からんかったしね」


オークになる病か、とミールムさんは呟きました


「罪を犯してオークになる、ってのはよく分かる

 けど、なんだって、そんな奇妙な病があるんだろう?」


「原因が、分からへんねんな

 悪いものを食べたとか、からだを冷やしたとか

 お腹出して寝てたとか、そういう理由が

 何かないもんかな?」


お二人はうーんと同時に唸ります


シルワさんは寝台に腰掛けてみなさんのお話しを

黙って聞いておられました

妖精の粉のおかげで、その姿は暗いなかでも

ほんのり光って見えるのです


「シルワさん、あんた、心当たりはないんかいな?」


お師匠様に尋ねられたシルワさんは

さつかい、と宙に光る文字を書きました


「殺戒?

 まあ、確かに、それはオークになる一番多い

 理由やけどなあ」


「シルワは殺戒は犯してない、って

 泉の精霊も断言してたじゃないか」


「他に何か、心当たりはないんか?シルワさん?」


もう一度尋ねられたシルワさんは

かすかに首を傾げました


「まあ、あんたみたいなええお人が、そうそう罪を犯す

 なんてこと、せえへんか」


「故意、じゃないのかもしれない

 けれども、偶然、戒律に触れてしまうようなことを

 してしまった、とか?」


「まあ、誰しも、うっかり、っちゅうことはあるけども

 にしたって、オークになるほど、って、よっぽどやんか

 そんなことやってもうたら、気づかんはずない、って

 むしろわたしはそう思うけどな?」


むう、とお二人はまた唸りました


「殺戒ってのは、種族によって微妙に違うんだよね

 ホビットの殺戒は、フィオーリなら知ってるのかな」


「そら、知ってはるやろ

 小さいころから、こればっかりは、きっちりと

 教え込まれるからね」


「とりあえず、明日はそれ、聞いてみるかな…」


ミールムさんはそう言ってから、ちょっと欠伸をする

声が混じりました


「いいや、考えても分からないし

 今日はもう、寝よう」


「そやね

 明日になったら、また、何か、違う展開があるかも

 しれんし」


お師匠様もそうおっしゃいました


「けどさ、オクサンとネムスって、ちょっと似てない?

 オクサンも光に溶ける覚悟をしてたのに

 友だちがなんとかして助けようとして

 氷室に閉じ込めたんだろ?」


「それ、わたしも思うたな

 オクサンも、ネムスさんも、なんやろう

 どうしても助けたいと願うてくれる人、みたいなんが

 傍におったんやな」


「そういう人がいるのに、どうしてまたオークになったり

 したんだろ」


「それ、シルワさんも、そうやな

 シルワさんには、嬢ちゃんみたいな人がおって

 こんなにシルワさんのこと、心配してくれてるやんか」


「オークになるのって、もっと、極悪人、って

 イメージなんだけどね…」


「シルワさんは、極悪人、にはちょっと…

 ほど遠いんとちゃうか…」


話し続けるお二人の声は少しずつ眠そうになって

そのうちに、途切れてしまいました


私もゆっくりと睡魔に取り込まれようとしていました

野宿にもすっかり慣れてはおりますけれど

やっぱり、こうやって、屋根と壁のある部屋の

ちゃんとしたお布団の威力というものは

抗い難いものがあるのです

 

眠りの世界へと落ちかけながら、私はぼんやり

シルワさんの方を見ていました


薄闇のなかちらちら光るシルワさんの影も

どうしてか、こちらを御覧になっているように

見えました






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