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この時間なら、おじい様は畑にいらっしゃる

というフィオーリさんの言葉に従って

私たちは、畑のほうに直接むかいました


郷の畑は、どこの畑が誰のもの、ということもなく

全部が全部、郷のみんなのものなのですけれど

それでも、耕す担当区域、みたいなものは

だいたい、決まっているのだそうです


あぜ道を歩いていると、あっちこっちから声をかけられます


「あれ?フィオーリ、戻ってきたのかい?」

「おかえり、フィオーリ、ほら、これ持ってお行きよ」

「こっちのも

 ちょうどいい感じに食べごろだ」


通りかかる私たちは、お野菜やら果物やら次々といただいて気が付くと両手は山盛りになっていました


「まあ、こんなにたくさんいただいてしまいましたわ」


「聖女様、このトマト、うまいっすよ?

 そっちの持ってあげますから、一口、食べてください」


フィオーリさんは早速トマトを齧りながら歩いています

ちょっとお行儀は悪いかもですが、真似をして齧ると

こんなに美味しいトマトがあるのかしらと思うくらい

とても美味しいトマトでした


「わたしは、なんやさっき、サンドイッチ

 もらってんけど?」


「僕は、パイをもらった」


お師匠様とフィオーリさんは、お弁当を分けて

いただいたようでした


「君はもらえなくて残念だね、シルワ」


「そっちの光ってるのはなんや、って

 さっきから訊かれて大変やわ」


さっきお師匠様が呼び止められていたのは

そういうわけでしたか

どうやら、お弁当はそのお礼のようです


「それにしても、ここの人たちは、変わらへんなあ」


「ホビットって、永遠にホビットだよね」


お二人は妙なところに感心していらっしゃいました


そうやってフィオーリさん一家の畑に着いたときには

両手に山盛りの収穫を抱えておりました


「あああっ!!!

 にぃーちゃんだっ!!!」


遠くから真っ先にフィオーリさんを見つけたのは

一番年下の妹さんでした


それを合図に、あっちこっちから、兄ちゃん、兄ちゃんと

フィオーリさんを呼びながら、きょうだいたちが

かけつけてきました


「ルネマルテメルコジョヴェヴェネルサバトドメニカ!」


フィオーリさんはそう叫びます

呪文ではありません

きょうだいの名前を、全部繋げて呼んでいるだけです


「兄ちゃん、帰ってきたんだね?」

「にーちゃん、おみやげちょうだい」

「兄ちゃん、元気だった?」

「にぃちゃん、いつまでいるの?」

「もうずっと、ここにいる?」

「兄ちゃんのベット、そのまんまにしてあるよ?」

「とにかく、今日はご馳走だね?」


フィオーリさんにそっくりなきょうだいたちは

一斉に取り囲んで、わいわいと口々に話し始めました


そのうち一番年下のドメニカはその輪から離れて

ミールムさんのところへ寄ってきました


「妖精さん、またあの、アイスをおっきくするやつ

 やってちょうだい!」


「あああーーーっ!

 アイスアイス!!」


アイス、アイス、と口々に言いながら

他のきょうだいたちも、ミールムさんを取り囲みます


郷の名物、特別なときにだけ食べられるアイスクリーム

けれど、それは、ほんの少しずつしか作れません


前に来たときに、ミールムさんが

ぽっちりしかなかったアイスを

みんなに行き渡るように

魔法で巨大化させたものですから

すっかり、それが、定番になってしまったようです


「あれはね、けっこう、魔力使ってしんどいんだから」


ミールムさんが怒ったように言うと

きょうだいたちは、そっかぁ、と

ものすごく残念そうに、しょんぼりしました


う、と流石のミールムさんも、言葉につまります


「…一回だけ、だからね?」


仕方なさそうにそう言った途端

わーい、と歓声が上りました


「やれやれ、うちの子どもたちが迷惑をかけているね?」


遅れて姿を現したお父様が、ミールムさんに

謝るように言いました


「べつに

 あ、アイスって、作ってあるの?

 僕には大きくすることはできても

 いちから作ることはできないから」


「アイスなら、誰かの誕生日用のがひとつやふたつは

 あると思うけどね」


「そっか

 これだけ家族がいたら、一年中誰かの誕生日祝いだ」


ミールムさんはちょっと笑って頷きました


そこへお母様もやってこられました


「ミールム!

 グラン!

 マリエ!

 フィオーリ!

 おかえり、わたしの子どもたち!」


お母様はひとりひとりと目を合わせて名前を呼びながら

にこにこと腕を拡げてくださいました

フィオーリさんとわたしは、遠慮なく、その胸に

とびこみます

ふんわりして甘い匂いに包まれると、とても

幸せな気持ちになりました


お母様は、よしよし、と私たちの頭を順番に撫でてから

おや、とちょっと眉をひそめました


「シルワは?

 シルワはどこへ行ったの?」


「あー、シルワさんは、これっす」


フィオーリさんが後ろにいるきらきらしたシルエットを

指さすと、お母様は、おやまあ、と目を丸くしました


「それはいったい、なんの祝祭の衣裳なんだい?

 きらきらして綺麗だね?

 今度わたしにも、作り方を教えておくれ?」


それから、シルワ、おかえり、と笑いかけました


シルワさんのシルエットは、ただいま、というように

お辞儀をします


「今夜は泊まっていけるのかい?フィオーリ?」


お母様はフィオーリさんにそう尋ねました


「…みなさんさえ、よろしければ…」


フィオーリさんは答えを躊躇うようにしながら

みなさんを見回しました


「まあ、どっちみち、話は聞かんとあかんのやし

 今日はお世話になってもよろしか?」


お師匠様がそう尋ね返すと、お母様は、もちろん、と

嬉しそうに笑ってくださいました


「それじゃあ、わたしは先に帰って、ご馳走の支度を

 するとするかね

 ルネマルテメルコジョヴェヴェネルサバトドメニカ!

 一緒に帰って手伝っておくれ」


どうやら、きょうだいの名前を続けて呼ぶのは

フィオーリさんだけではないようです


きょうだいたちは、一斉に、はーいと手をあげました


そこへ、よっこいしょ、と現れたのは

おじい様とおばあ様でした


「おやおや、フィオーリにみなさん

 おかえりなさい」


「お腹はすいてないかい?フィオーリ

 ほら、ばあちゃんの弁当をあげよう」


「あ、道々いろんなものもらって食べたから

 お腹はすいてないっす

 それより、じっちゃん、じっちゃんに聞きたいことが

 あるんっす」


なんだい?と首を傾げるおじい様に

フィオーリさんはおっしゃいました


「オクサンのことっす

 オクサンが、どうしてオークになったのか

 じっちゃんは、知りませんか?」


「オクサン?」


おじい様は首を傾げました


「はて、それは、小さいころに、じい様から

 昔話で聞かされたような…」


「あのオクサンはね、郷のホビットだったんだよ、確か」


おばあ様も隣からそうおっしゃいました

フィオーリさんはおばあ様にも尋ねました


「ばっちゃんは、なんか、オクサンのこと

 知ってるっすか?」


「はて…もうずいぶん昔に聞いた話だから

 忘れてしまったけども…」


おばあ様は口ごもりながらもおっしゃいました


「ゆっくり考えれば、なにか思い出せるかもしれないね」


「是非とも思い出してくださいっす

 おいらたち、いろいろあって、オークのこと

 調べてるんっすよ」


「ほう」

「おやまあ」


おじい様とおばあ様はそっくり同じに目を丸くしました


「うちの坊主は、いつの間に、そんな学者さんみたいに

 なったんかね?」

「きっと、一緒にいるみなさんのおかげですね?

 おじいさん」

「いやいや、我が家から学者が出るとは」

「郷の開闢以来の快挙ですね、おじいさん」


「いやいや…

 ふたりとも、ぬか喜びさせて、なんなんっすけど

 おいら別に、学者さんになろうってわけじゃ…」


喜んでいらっしゃるおふたりに、フィオーリさんは

ちょっと困ったように笑いましたけれど

ま、いっか、とにこっとしました


「とにかく、そういうわけなんで、是非とも

 ご協力、お願いしますよ?」


「もちろんだよ

 我が家の学者さんのために、できることは

 なんでもしてあげよう」

「学者さんでなくても、大切な家族のためなら

 なんでもしてあげますよ、ね?おじいさん」

 

おふたりはにこにことそう頷いてくださいました





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