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ミールムさんの魔法のおかげか道のりはさくさく進みました
さくさく
さくさく
さくさくさくさくさくさくさくさく…
気が付いたら、いつの間にか街道の終わりに来ていました
途切れ途切れになった街道がいつの間にか土の道に
そして、それもまた、ただの荒地に
農地もなく家もない
旅をする人影もない
辺りの光景はなんだか淋し気になりました
遠くに黒々と広がる森が見えます
あれが、エルフの森でしょうか
道らしきものはもう跡形もなくなり
私たちは、荒地のなかをただその森目指して歩いていました
ごつごつとした岩や大きな石ころがたくさんあります
荒地はとても歩きにくいです
妖精の魔法がなかったら、もっと苦労したことでしょう
けれども、妖精の魔法の効果は絶大でした
こんな場所でも、さくさく、さくさく
不思議なくらい、さくさくと歩くことができました
荒地に入ってから何度か野宿をいたしました
街道沿いで野宿をするのとは勝手が違います
ただ、この辺りは水場は意外なことに多いのだそうです
あちこちに、小さな池や沢、湧き水の出る場所がありました
ですから、井戸はなくとも、水は確保できました
フィオーリさんは水場を見つけるのがとても上手です
野営となると、真っ先に水場を探しに行きます
そして、ほどなくして、手桶にいっぱい水を持って帰ります
お師匠様は食事の支度を始めます
シルワさんは、薬草や食べられる木の実を探しに行きます
ミールムさんは大抵、疲れたと言って寝ています
私はずっとお師匠様のお手伝いをしていたのですが…
お鍋をかき回す以上にはなかなか進級できませんでした
それもいたしかたありません
何をしてもダメな私がいけないのです
そんなときに、シルワさんにお手伝いを頼まれました
見つけた木の実を運ぶ人手がほしいとおっしゃるのです
折角、たくさん木の実を拾っても、全部持ちきれなくて…
悲し気にそうおっしゃられては
これこそ、私の出番、と思いました
道には迷いますし、道具は壊してしまいますけれど
ただ、重たい物を持つとか、固い瓶の蓋を開けるとか
そういうことならお任せあれ、なのです
私は、何もできない、お役に立てない
ずっとそんなふうに思っておりました
それがとても悲しくて仕方ありませんでした
けれど、そんな私にもお役に立てることがあったなんて
私はとても嬉しくなりました
女性に重いものを持たせるなんて…
ときどきシルワさんは、そんなことをおっしゃいますけれど
なんのなんの、これこそ私の特技ですから
どうぞ心置きなく、使ってやってくださいませ、なのです
お師匠様は大きくて頑丈な袋を拵えてくださいました
それを持って、シルワさんについていきます
大丈夫
シルワさんと一緒なら、道に迷うこともありません
荒地でも、シルワさんは、次々と食べられる物を見つけます
木の実、草の実、葉っぱに根っこ…
大きな石を拾われたときには驚きましたが
なんとなんと、それは大きな塩の塊でした
それ、全部全部、袋に入れても大丈夫
お師匠様お手製の袋は、それはそれは頑丈なのです
それを、よっこいしょ、と肩に担げば
聖誕祭に贈り物をくださる聖人のような姿です
こうして皆で協力して夕餉の支度の整うころ
お日様はゆっくりと暮れていきます
最近は日暮れが長くて、ずっとずっと明るいので
夕餉ものんびりといただけます
フィオーリさんはお歌を歌いながら踊りだしたりもします
ミールムさんも一緒になって踊ります
お師匠様は、ちびちびとお酒を召し上がり
シルワさんは、そんな私たちをにこにこと見ています
ときどき、本当に、ときどき、
竪琴を弾きながら、静かに歌ってくださることもあります
シルワさんのお歌は、どこか淋し気で優しい感じがします
詞は古いエルフ語なんだそうです
だから、直接意味は分からないのですけれども
尋ねると、ゆっくりと詞の意味も教えてくださいます
シルワさんのお歌は、昔々のお話しが多いのです
立派な英雄の物語だったり
お姫様の悲しい恋の物語だったり
荒野を彷徨う旅人の物語もありました
それはどれも、少し寂しくて
だけど、物語の最後には、ちょっと勇気がもらえる
そんなお歌でした
シルワさんの声はどこまでも伸びやかで清んでいます
それはそれは心地よい響きを持っているのです
あまりの心地よさにうっかり眠ってしまったこともあります
すると、悲恋のお姫様が幸せになれる夢をみました
起きてからその報告をいたしました
すると、シルワさんは、まあ、と目を丸くなさいました
「聖女様のお手にかかれば
どんなに不幸な人も幸せになってしまうのでしょうね」
そう言って、嬉しそうに笑ってくださいました
どうしてなのでしょう
そんなシルワさんを見て、私もとても嬉しくなりました
シルワさんが悲しそうだと私も悲しくなってしまうし
シルワさんが嬉しそうだと私も嬉しい気がします
こんなこと、今までなかったのに…
優しい優しいシルワさんに、ずっと笑っていてほしい
どうしてか、最近、そう強く思うのです




