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アイフィロスさんに案内されて森の奥へと行きました

つくづく不思議なのですけれど、エルフさんたちは

この森のなかで、自分が今どこにいるのか

ちゃんと分かっていらっしゃるのでしょうか

どっちをむいても、どこに行っても

同じような景色が続くように見えるのですけれど


そう言ってみたら、ノワゼットさんはちょっと笑って

おっしゃいました


「森の木は一本一本違う顔をしているし

 見間違えることはない」


「わたしらも、鉱石はみんな違った顔に見えるからな

 全部同じ石ころやと言う人の気持ちが、分からん」


そう言ったお師匠様を、ノワゼットさんは

不思議なものでも見るように見ました


「石ころは、石ころでしょ?

 確かに、色や形は多少違う、かもしれない

 けど、どれも、石ころだ」


「まあ、それと同じことやろなあ

 人それぞれ、得意分野に違いがある、っちゅうこっちゃ」


なるほど、とみなさん納得されたみたいでした


「とにかく、森を歩くときには、エルフさんに一緒に

 いていただかないと、ということっすね?」


「そういや、前に、ミールムの森で迷ったことあったけど

 あのときは、シルワさん、いてたやんなあ?

 あの人かてエルフやのに、なんで迷ったん?」


「あれは、森が魔法をかけて、迷わせるようにしていたんだ

 シルワにも分からなかっただろうよ」


「その、森が魔法をかけている、ちゅうことすら

 分からんもんなんやろか?」


「前のシルワ師なら、お分かりになっただろうけど

 今のシルワ師は…」


「そーんなに、あの人、あの棺に力、取られてんの?」


「それほどまでして、弟を守ろうとしていらっしゃる

 そういう方なんだよ、シルワ師は」


なるほどなあ、とお師匠様は頷きました

こんなお話しを伺っていると、つくづく、シルワさんの

お人柄、のようなものが分かってまいります

それは、私のよく知る、優しいシルワさん、そのものでした


アニマの木は、思ったより普通の木でした


というか、それは、ぽつり、と

森のなかにある小さな切り株でした


「うーん、これはまた…若いなあ…」


ミールムさんは切り株を調べて唸りました


「植えてわりとすぐ、長老に見つかっちまったからね」


アイフィロスさんはため息を吐きました


「植えた?

 って、あんたが植えたのか?」


ぎょっとした顔をしてノワゼットさんはアイフィロスさんを

振り返りました

アイフィロスさんは淡々と頷きました


「父から頼まれたんだ

 エルフの森に植えてやってくれ、って

 オークの涙が送られてきてね」


「お父上から?」


「…まあ、旅先で何かあったんだろうよ

 事情はよく知らないし、知るつもりもない

 けど、そう言うから、オレはここに埋めた

 ここは、郷からもちょっと遠いし

 長老にも見つかるまいって思ったんだけど

 まあ、見つかっちまったら、切るしかないよね?」


「この切り株、まだ枯れてはいないみたいだけど

 ここから扉を開けるくらいに大きくなるには

 相当な年数が必要だな」


あちこちから切り株を確かめながら

ミールムさんはもう一度唸りました


「それくらいなら、あっちの森に行くかな…」


「精霊界ってのは、オレもよく分からないんだけどさ

 仮に遠くの森の入り口から入ったとして

 シルワを探すのに支障はないのか?」


「精霊界の世界の繋がり方は

 外の世界とまったく同じなわけじゃないけど

 まったく関わりがない、というわけでもない

 普通に、入り口が物理的に遠ければ

 この辺りの精霊界にも、近くはないよね

 僕らの移動のための時間だってかかるわけだし

 その間にシルワが移動することも考えたら

 まあ、世界をめぐって、人探しをする

 くらいの覚悟は必要かな」


「…それはまた、えらく壮大だな…」


アイフィロスさんは、うーん、と唸りました


「ここから入ることができれば、少しはマシなのかい?」


「少なくとも、シルワのいた場所は、この近くだろうから

 そりゃ、それに越したことはないよね」


ふむ、とアイフィロスさんは頷きました


「この木を一時的に成長させることは、不可能じゃない

 けど、そのままにはしておけないから

 またすぐ切るしかない

 そういうこと、あんまりやりたくないんだけど

 どうしても、必要だ、って言うんなら…」


「どうしても必要だよ」

「どうしても必要やねん」

「どうしても必要なんっす」

「どうしても必要です」


全員、揃って即答しておりました

アイフィロスさんは、思い切り苦笑なさいました


「…まあ、そう言うだろう、とは

 思ったけどね?」


「アイフィロスが魔法を使うなら

 魔法の痕跡が長老に知れないように

 わたしは、結界を作っておこう」


ノワゼットさんはそうおっしゃいました

アイフィロスさんは、えー、と小さく呟きました


「それって、もう、さ

 通報義務違反どころの話しじゃなくて

 完全に、共犯者、ってことになっちまうよ?」


「なにを今さら

 毒喰らわば皿まで

 シルワ師をお救いするために必要なら

 そうするまでだ」


「ひえ~

 なんか、案外怖い人だったんだね、ノワゼットって」


わざと巫山戯た口調のアイフィロスさんを

ノワゼットさんは無言でじろっと睨みました


アイフィロスさんは、ふう、と息をひとつ吐いてから

そっと切り株に手を触れました


「ごめんな

 何回も痛い思いをさせて、本当に申し訳ないんだけど

 君の力、貸してもらえるかな?」


私たちには、じっと動かない切り株にしか見えませんが

アイフィロスさんは、切り株となにやら

会話をしているようでした


「だよね?うん

 本当、君たちって、優しいよね

 いやいや、オレには何もできないよ

 郷を追い出されたくなくて、一度は君を切ったんだ

 ごめんな、本当に

 え?なに?

 あ、それくらいなら、お安い御用だよ

 君のお気に召すかは、自信ないけど

 分かった、約束する」


それから、こちらをむきなおっておっしゃいました


「力、貸してくれる、ってさ

 じゃあ、今から早速でいいかな?」


「え?今からですか?」


展開の速さにちょっと驚いてしまいましたけれど

他のみなさんは、全員、もちろん、と頷いておられました


「じゃ、ちょっと、場所、あけてもらえるかな?」


アイフィロスさんはそうおっしゃると

髪にさしてあった棒を引き抜きました


掌に収まるほどのサイズだった棒は

アイフィロスさんの手にくるくると回されるうちに

みるみる大きくなって、杖ほどの大きさになりました


その杖の先端から、アイフィロスさんの魔力が迸ります

ふわり、ふわり、と軌跡を描いて、それは目の前の切り株を

取り囲みました


まるで、指揮者のように杖を振りながら

アイフィロスさんは、魔法をかけていきます

切り株を取り囲む魔力は、きらきらと眩しさを増して

やがて、明るい光が弾けました


ひょこっ

にょきっ

にょにょにょにょにょ~ん


光の中、切り株に小さな芽が出たかと思うと

みるみるうちにそれは小さな木となって

それから、大きく育っていきました


あっという間に、目の前には、大きな木が一本

立っていました


アイフィロスさんは、あ~、疲れた、と

その場に座り込みました


「ごめん

 オレはちょっと休む」


ひらひらと手だけ振ってみせます


アイフィロスさんが魔法を使う間に

ノワゼットさんも、結界の魔法を使っていました


木の前に胡坐をかいて座り

細く目を開いて、瞑想をする神官のようにも見えます


透明の薄いドームのようなもので

その木と私たち全員とは、包まれていました


「わたしはここにいて、結界を維持しなくてはならない

 扉のむこうへ一緒に行くことはできない」


ノワゼットさんは淡々とおっしゃいました


「分かった

 後は任せておいてよ」


ミールムさんはそう言うと、指先から零れる粉を使って

木に直接扉を描きました


とんとんとん


扉をノックしながら、ミールムさんは、ごめんください、と

声をかけます

すると、確かに扉のむこうから、お入りなさい、と返事が聞こえました


「うん

 繋がったみたいだ」


振り返ったミールムさんに全員が注目します


「じゃあ、行くよ?」


みなさんが頷くとミールムさんは思い切って扉を開きました




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