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街道沿いに進む旅は割と楽です

自由に使える井戸や竈が作ってあるところもあったり

物売りの人が通りかかったりもします

何日かごとに町や村もありますし

道沿いに行けば、ほぼ、道に迷うこともありません


大昔、古代の王国がまだあったころに整備されたという街道

王都を中心に、四方八方へと道は敷かれています

ずっと、規則正しく、煉瓦が並べられていて

どんな人々がこの道を作ったのか

今はもう想像しかできませんけれど

素晴らしい事業だと思います


けれど、この街道も、いずれ、途切れる場所があるそうです

王都から遠く遠く離れれば、そこには村も町もなく

人間はほとんど住んでいません

そこにあるのは、ドワーフやエルフの住む山や森です


このまま進み続ければいずれエルフの森に着くのでしょうか

食事時に何気なく、そう尋ねてみたのですが

シルワさんは、はっとした顔をなさって

それから少し困ったように微笑まれました


「エルフの森はまだまだ遠い場所ですから

 寒くなる前に、引き返すことになるのではありませんか」


「それは、残念です

 シルワさんの故郷を見てみたかったのですが」


「なら、距離を稼げるように、早足の術、かけとこう」


そう言ったのはミールムさんでした


「まあ、そんな術があるのですか?」


そう尋ねると、ミールムさんは、片目をつぶってみせました


「能力補助はフェアリー魔法の得意分野だからね

 この僕にかかれば、そんなのちょろいちょろい」


得意そうに言うと、ひょいっとロッドを回しました

くるくるくる、と光るロッドが回っていい香りがします


「さあ、これで魔法はもうかかったよ

 時間制限もない

 これで、さくさく、道も進むだろうよ」


「ずっと発動させ続けは、お疲れになるのでは?」


心配そうに言うシルワさんに、ミールムさんは笑いました


「心配いらない

 消費魔力は大したことないし

 妖精の魔力の総量はどの種族より大きいからね

 毎日、グランのご飯食べてりゃ、順調に回復もするし

 間違っても、倒れたりはしないよ」


「…それは…」


シルワさんは少し困ったように苦笑いしました


「しかし、エルフの森には迷いの術がかけてありますから

 なかなか辿り着けないそうですよ?」


「何、言うてはるのん?

 うちには、ちゃあんとエルフさんがおるやんか

 エルフには、迷いの術も効かへんのやろ?」


怪訝そうな顔でおっしゃったのはお師匠様でした

お師匠様はおたまをシルワさんにむけて続けました


「あんた、腐っても、エルフやんか?」


「…腐っても、って…

 まあ、半分腐っているも同然かもしれませんが…」


シルワさんが言い淀みます

それにはっとしたようにフィオーリさんがおっしゃいました


「もしかして、オークになりかけているから?

 シルワさんはもう、エルフじゃないんっすか?」


「そんなことはないでしょ

 完全にオークになってしまったんならともかく

 魔法だって普通に使ってんのに

 今のシルワはまだちゃんとエルフだよ」


ミールムさんはきっぱりと言いましたけれど

シルワさんは、さっきよりもっと困った顔をなさいました


「…はあ、まあ…

 一応、まだ、ちゃんと、エルフだと思いますけど…」


「マリエの涙でオーク化も止まってるんだし

 このままいけばオークになる心配もないよね?」


「…はい…

 あの、聖女様には、感謝しても感謝しきれません」


「だったら、何が問題?」


「もしかして、あれか?

 弟連れて逃げたから、故郷には帰り辛いとか?

 帰ったら、捕縛される、とか?」


お師匠様が心配そうにおっしゃいました

けれど、それにもミールムさんは首を振りました


「それも、ないよね?

 エルフはいい意味で個人主義だから

 家族が罪人だからって、咎められることなんかない

 シルワがオーク化したのって、郷を出てからなんでしょ?

 だったら、僕らが黙ってたら、誰にも分らないだろうし

 捕縛なんかされたりしないよ?」


「ミールムさんって、物知りっすねえ」


フィオーリさんは感心したようにミールムさんを見ました


「だてに長く生きてないんだよ」


ミールムさんはすっかり得意気です


「妖精族は、本当に不思議な種族ですね」


シルワさんも感心なさったようでした


「見た目も言動も一番幼いのにな

 このなかで一番お年寄りやとは」


「グランって一言余計だよね?」


ミールムさんはちょっと憮然として続けました


「とにかく、道にも迷わないし、捕縛もされない

 それなのに、帰れないのは、どうしてなの?」


シルワさんは言いにくそうに視線を逸らせました


「…それは…その…」


「マリエはさ、見てみたいんだって

 君の生まれたところを

 僕はさ、マリエの願いを叶えるためにここにいるんだ」


「まあ、そうだったのですか?」


ミールムさんの台詞に私は驚いてしまいました

それに、ミールムさんは思い切りむっとした顔になりました


「知らなかったの?

 妖精ってのはね、気に入った人間の願いを叶えるんだよ

 そのために実体化してついてきたんじゃないか」


「それは、まあ、何と申しましょうか…

 あの、お世話になります」


思わず頭を下げると、ミールムさんは思い切り苦笑しました


「何を今さら

 まあ、いいや

 とにかく、それがマリエの願いだ、ってんなら

 僕には叶える理由があるんだよ」


「それは、わたしも、同様の気持ちですよ

 聖女様の願い事であれば、なんでも叶えてさしあげたい

 そのためならば、できることはなんでもいたしましょう」


シルワさんはそうおっしゃいました


「エルフの森など、なにもないただの辺境の森ですけれど

 聖女様が御覧になりたいのならば、ご案内いたしましょう

 けれども、本当に、なにもないところですよ?」


「あとね、エルフは排他的だからね

 歓迎はされないかもしれない

 それはね、一応、言っておくよ

 もっとも、むやみに攻撃してくる人たちでもないから

 まあ、遠巻きにされるか

 家のなかに隠れて、無視されるか

 その程度のことは、あり得るけどね?」


ミールムさんの注意にシルワさんも苦笑なさいました


「悪気はないのですよ

 たとえ同族であっても、むやみに関わらない

 それがエルフの習性と申しましょうか

 ですから、お気を悪くなさいませんよう」


「そんなん、シルワさん見てたら分かってるし

 異種族を白い目で見るんは、どこ行っても一緒

 まあ、森の見物に行く、くらいに思うといたら

 大丈夫なんちゃうのん?」


「エルフの森って、なんか神秘的な響きっすよね

 おいら、楽しみっす」


というわけで

私たちの目的地はエルフの森ということになりました






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