表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/127

27

ひとりでにころころと転がっていく玉子を

急いで追いかけていきます

どういう仕掛けなのか、本当に不思議な玉子でした


玉子はときどき止まっては、右にくるり、左にくるり

奇妙に回転しては、また進み始めます

なんだかちょっとシルワさんの歩き方を思い出します

うっかりその回転を飛ばしてしまうと

その先で玉子を見失ってしまいます

細心の注意を払いながら、私たちはついていきました


「しっかし、エルフさんの迷宮ちゅうのは、こう、

 面倒くさいね?」


同じところをくるくる回るばかりでいっこうに先に進まない

どうしても、そんなふうに感じてしまいます

実際には進んでいるのかもしれませんけれど

森の景色は、見慣れていない私たちには

どちらをむいても同じように見えてしまうのです


「ここ、さっきも通らへんかったっけ?」


「うーん、ちょっとおいら、高いところへのぼって

 周り、見てきましょうか?」


「その間に玉子に置いて行かれたら困るだろ」


そう、あの玉子なのですけれど

最初に地面に転がしたら、後は全く手を触れないのに

ずっと転がり続けているのです

注意深くついていけば、置いていかれはしないけれど

うかうかすれば、見失うくらいの絶妙な速度…

よそ見をする暇はありませんでした


「ほんまにこれ、ついて行くだけでええんやろか…」


皆さん、同じことを疑いたくなっているようでした


と、ふと

玉子はまっしぐらに藪の中へ転がり込んでいきました

慌ててフィオーリさんが玉子を掴もうと

藪に手を突っ込みましたけれど

その手には何も握られていませんでした


「う、わ、やば

 どないしよ?

 早速、見失ってもうたん?」


それはまた見事に鬱蒼とした立派な藪で

背の低い木の枝が絡み合い、がっつりと壁になっています

とてもではないけれど

そこを通り抜けるのは無理、な感じがしました


「…こうしてる間にも、玉子、行ってしまうやん?」


焦ったように仲間を振り返ったお師匠様に

フィオーリさんは勢いよく手をあげました


「おいら、ちょっと、この藪の上、走ってみます!」


「へ?あ、ちょっと!」


引き留める暇もなくフィオーリさんは藪の上に飛び上がると

素晴らしい速さで風のように駆けていってしまいました


「…これ、上から見て、あの玉子、見つかるかなあ…」


フィオーリさんの背中を見送ってお師匠様は呟きました


「見つからなかったら、どうしようか?

 一度アイフィロスのところに戻ってみる?」


「合鍵、とか、ないんやろか?」


残った人たちがそんなことを話し合っていたときでした


「あったあったあった~!!!」


そんな叫び声が聞こえたかと思うと

フィオーリさんが意気揚々と走って戻ってきました


「ありましたよ!」


フィオーリさんは両腕になにやら大きなものを抱えています

見ると、大きな大きな鳥の巣?でした


「うわ、ちょ、あんた、何、持ってきてんのん?」


「親鳥に怒られるよ?

 いいから、拾ったところに返しておいでよ!」


お師匠様とミールムさんに、一斉に叱られています


「けど、これ、あの玉子じゃないっすか?」


フィオーリさんはそうおっしゃりながら

巣をこちらに傾けて見せました


「う、わ、ちょ、落としたらどないすんねんな…

 て、あれ?」


玉子を受けようとするかのように腕を伸ばしたお師匠様は

巣のなかを見て首を傾げました


「ひの、ふの、み…

 なんや、えらいぎょうさん入ってへんか?」


「増えてる?

 てかこれ、鍵じゃなくて、本物の鳥の卵でしょ?」


ミールムさんはフィオーリさんを責めるように見ました


すると、何を思ったのか、おもむろに

ノワゼットさんが、玉子をひとつ手に取ると

ぽい、っと地面にむかって投げつけました


「うわっ!

 って、あれ…?」


地面にぶつけられた玉子は、割れることもなく

またころころと転がり始めました


「うわっ、転がりだしたで?

 ついて行かなあかんやんか」


慌ててわいわいとついていきます

玉子はさっき来た道を戻る方向へと進みだしました


ぐるぐる、ぐるぐる、歩き回って…

そうして辿り着いたのは、もう一度あの藪でした

玉子は藪の前に来ると、ぴたりと止まってしまいました


「戻ってきてもうたな?」


お師匠様は首を傾げながら玉子を拾い上げました

玉子は今度は逃げようともせずに大人しく拾われました


ところが、改めて詳しく確かめようとした途端

玉子はお師匠様の目の前で、ぽひゅっと奇妙な音を立てて

ぱっくりふたつに割れてしまいました

割れた玉子の中には、小さな巻紙が入っていて

開いてみると、はずれ、と大きく書いてありました


「なんや、はずれ、て!」


「僕ら、遊ばれてる?」


お師匠様はちょっと顔をしかめました

反対にミールムさんはなんだか楽しそうに笑いました


ノワゼットさんは物も言わずに

次の玉子を取ろうとしました

それを邪魔したのはミールムさんでした


「待って待って!

 今度は、僕の番!」


ミールムさんは、どれにしようかな、としばらく迷ってから

ひとつ、玉子を選びました


「ふっふっふ

 妖精のラックの高さ、見せてやる!」


そう言って投げた瞬間!

ぼぼん、ぼんっ

玉子は派手な音を立てて割れ、そこから花火が上がりました


「これって、あたり?はずれ?」


ミールムさんは皆さんを見回して尋ねます


「はずれやろ

 迷宮の鍵やなかったんやから」


お師匠様は淡々と断言しました


そこへ、ひらひらとまた巻紙が落ちてきました

そこには大きく、はずれ、と書いてありました


「くそっ!」


ミールムさんは地団太を踏むと

巻紙をばらばらにしてあたりに撒き散らしました


「これこれ

 森にゴミ捨てたらあかんよ?」


「どっちみち森の材料で作った魔道具でしょ?

 そのまま森に還るよ」


お師匠様にたしなめられたミールムさんは

むっとして言い返しました


次の玉子は投げた途端に中から竜が飛び出しました

お師匠様とフィオーリさんは急いで剣を構えます

けれど一撃で、ぱんっ、と風船のように割れてしまいました


こうやって次々と玉子を試していきましたが

どれもこれも、はずればかり

そのうちにみなさん、少々くたびれてまいりました


「これが、あれか?

 アイフィロスさんの言うとった、トラップ?」


「おおお、そんなことも言ってましたねえ?」


「フィオーリ、君って、トラップ解除は得意だ、って

 言ってなかったっけ?」


ミールムさんに恨めしそうな目をむけられて

フィオーリさんはからからと笑いました


「すいません!こんなトラップは初めてっす!

 おいらもどうしていいか分かりません!」


「…胸張って言うてはる…」


お師匠様はため息を吐かれました


結局、巣に入っていた玉子、すべて投げてみましたけれど

それが全部、はずれでした


「なんということや!

 全部、はずれとは!」


膝を折って嘆くお師匠様に

フィオーリさんは元気よくおっしゃいました


「問題ないっす

 こんな巣、まだまだたくさん、ありましたから」


「いやそれ、大問題でしょ」


ミールムさんはうんざりしたようにおっしゃいました




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ