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アイフィロスさんのお話しを伺った私たちは
迷宮を目指して出発することになりました
「シルワの逃げた先は分からないけど
迷宮目指して歩いてたら
きっと合流してくる気がする」
ミールムさんのご意見に、全員、納得いたしました
アイフィロスさんも一緒に行きたいとおっしゃいましたが
あまりにもお怪我が酷いので、それは引き留めました
「あの迷宮には、いろんな仕掛けがあるんだ
オレがいれば解除できるんだけど…」
アイフィロスさんはどこか気掛かりなようでした
「この鍵の他に必要な物、あるんっすか?」
「いや、必要な物、はないよ
ただ侵入避けのトラップをあちこちに仕掛けてあって…」
「トラップ解除なら、おいら、得意っすよ?」
フィオーリさんはにこにことおっしゃいました
「…ほかにも、本気試しの番人とか…」
「そいつは、そないに強いのん?」
「いや、そこまで強くはないけど…」
「ほなまあ、わたしもおるし、なんとかなるやろ」
お師匠様もおっしゃいました
「わたしも一緒に行く」
ノワゼットさんはそうおっしゃいました
「それは有難いなあ
ここじゃ聖水の補充もきかんし
ヒール魔法使える人がおったら何かと助かる」
ノワゼットさんが来てくださるのは大歓迎でした
「そういうことだから
まあ君は余計な心配はしないで晩御飯作って待っててよ」
ミールムさんは軽い感じに
アイフィロスさんにおっしゃいました
「シルワは僕らで連れ戻してくる
なんでこんなことしたのか、取り囲んで尋ねてやろう」
私もそれは同じ気持ちでした
いったん、荷物を取りに、泉の小屋に戻りました
そこで、あの木彫りのベアを持ってきてしまったことに
気づきました
いつの間にかしっかり抱きかかえていたみたいです
返しに行こうかとも思いましたけれど
それでは出発が遅れてしまいます
迷宮に行くなら明るいうちがいい
皆さんもそうおっしゃいました
「まあ、どうせそれ、そんなすぐ要るモンちゃうんやろ?」
「ずっとあの小屋に放り込んであった物だろうし」
「帰ってきたときに返せばいいっすよ」
皆さんにそう言われて、私も、そうしようと思いました
けれど、持って行くのを忘れては困りますから
ちゃんと大切にリュックの中にしまいました
「嬢ちゃん、重しがないと飛んでいきそうなくらい
足元、ふわふわになっとったからなあ」
「聖女様にこんな思いさせるなんて
シルワさん帰ってきたら罰ゲームっすね?」
「それは面白そうだ
何させるか、ゆっくり考えておかないと」
皆さん、ちょっと意地悪く笑っていらっしゃいました
ノワゼットさんは、ずっと黙ったきり
なかなか話しの輪には入ってこられませんでした
こういうときはいつも、お師匠様かフィオーリさんが
積極的に話しかけてくださるのですけれど
何故か、今回はそれをなさいません
私は恐る恐る、ご挨拶をしました
「あの、ノワゼットさん、よろしくお願いします」
「…うん」
「…あの、みなさん、善い方ばかりですから
ご心配なく、というのも、変ですけど…」
「…うん」
なんだか、会話が続きません
そこへミールムさんがおっしゃいました
「マリエ、空き瓶にそこの泉の水を汲んでいきな
あれ、聖水じゃないけど、効果は近いものがあるから」
なるほど!
それはよいご意見です
「そんじゃ、おいら、手伝いますよ」
フィオーリさんはそう言って、ついてきてくださいました
フィオーリさんのおかげで、水もこぼすことなく
瓶に詰めることができました
私一人では、きっとこぼしまくったでしょうから
とても助かりました
水を汲みながらフィオーリさんがおっしゃいました
「聖女様
大丈夫っす
シルワさんは、ちゃんと取り戻しますよ」
こっちをむいてにこっと微笑むフィオーリさんを見たら
何故だか、ほろりと涙が零れてしまいました
フィオーリさんはちょっと背伸びをして
私の頭を撫でてくださいました
「泣かないでください、聖女様
その涙は、シルワさんに会った時のために
とっておかないと?」
…確かに、そうでした
いざというときちゃんと泣けないと
シルワさんを助けることはできないのですから
私はぐしぐしと手の甲で涙を払いました
すると、フィオーリさんは、ちょっと笑って
私の手を引き留めました
「そんなにこすっちゃ赤くなっちゃいますよ?」
へへっ、と笑って、ご自分の指でそっと拭ってくださいます
「大丈夫
聖女様、大丈夫」
呪文のようにそう何度も繰り返し
目が合うと、にこっと笑ってくださいました
優しいお仲間たちがいてくださって、本当によかった
私はつくづくそう思いました
こんな善い方たちですから
ノワゼットさんもきっとすぐに打ち解けられるでしょう
そうも思いました
皆さん身支度が整うと、代表してお師匠様が
小屋の前であの玉子を転がしました
玉子は、思ったよりもころころと
森の中へと転がって行きました




