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あれから、いろんなことがありました


街をオークの襲撃から護ったり

シルワさんの昔馴染みの方とばったり出会ったり

フィオーリさんの故郷にも行きました

お師匠様が長年探しておられた方とも無事再会しました

ホビット族はなんとオークとも共存していました

本当に、つくづくこの世界は広いのです

そして、まだまだ私の知らないことがたくさんあるのです

それを実感する一年でした


パーティのお仲間はとても好い方ばかり

おかげさまで、私もなんとか旅を続けられております

その後、オークの集落は三つばかり、訪問しました

そして、精一杯のご馳走を作って差し上げました

最初のときのような失敗はもういたしません

なんと言っても、お師匠様がいらっしゃいますから


お腹いっぱいになったオークは、みんな笑って逝きました

眩しい朝の光に、きらきらと溶けてしまいました

それはいつも、少しばかり、心がしんとする光景でした

私はオークを退治しようと思ったわけではないのです

ただ、終わりのない苦しみを少し、和らげたかっただけです


私のしたことは、彼らの苦しみを終わらせた

みなさんそうおっしゃます

それは、単なる慰めというわけではないと思います

何より、光に溶けるとき、彼らの見せてくれるあの笑顔

それは、いつも、とても、綺麗だったから


それなのに、なにか心に過ぎる、この悲しさのようなもの

その正体は、分かりません

だとしても、そうすることが、彼らの救いとなるならば

この心の痛みなど、なにほどのものでしょう


けれど、これは本当に間違っていないのでしょうか

心の中で、いつも大精霊様に問いかけています

大精霊様は、何も応えてはくださいません

こうして悩み苦しむことも神官としての大切な修行

きっと、そうなのでしょう


オークはこの世界の悪

退治されるべきもの

それは、この世界の常識、ということになっています

実際に、いくつもの郷がオークの襲撃を受けています

お師匠様もフィオーリさんも、郷を壊された被害者です


人々にとって、オークは戦うべき相手

滅ぼされるべき怪物

人間もドワーフ族もホビット族も、オークとは戦います


あえて戦いを選ばないのは、エルフ族だけです

エルフ族の殺戒は、ことのほか重いからです

エルフ族は、食べるため以外の殺生を認めません

例え、それが誰かや自分の身を守るためでも、赦されない

襲われても、戦ってはならない

ただ、逃げることしかできません


殺戒が重いと言えば、妖精族も重い戒律を課せられています

たとえ食べるためだとしても命を奪うことは赦されません

ただし、妖精族は、オークだけは例外なのだそうです

むしろ、率先して滅ぼすべき、なのだとか

妖精族には他を攻撃する手段など何もないのですけれど

光が弱点のオークには、妖精の光こそ、最強の武器なのです


オークとは、罪を犯した人たちのなるものです

謝っても許されない、償うことのできない重い罪

悲しいことに、そんな罪を犯してしまう人たちはいます

そして、オークになってしまうのです

たとえ、何か事情があったとしても

そこには、微塵の容赦もありません


オークになることは、もしかしたら、罰なのかもしれません

それにしても、それはなんて重い罰なのでしょう


オークを見ると、いつも、とても恐ろしいと感じます

けれども、その全てが絶対的悪とは、言い切れない

私は次第にそう思うようになりました


それというのも、シルワさんのことがあったからです

シルワさんは、今も、オークになりかかっています

少しずつ、からだがオークへと変化していく

その途中にあるのだそうです


あの穏やかな方がいったいどれほどの罪を犯したのか

シルワさんの口から直接それを聞いたことはありません

けれど、オーク化している事実に、間違いはありません

それは、この目ではっきりと見たことだからです


ただ、シルワさんのオーク化は、今現在、止まっています

なんと私の涙に、それを止める効果があったのです

どうしてそんなことが可能なのかは分かりません

他の方に対しても同様なのかどうかも分かりません

もしもそうなら、素晴らしいことのようにも思いますけど

簡単に確かめられることでもありませんから


それ以来、私たちは定期的に玉ねぎ料理をいただいています

玉ねぎが目にしみた涙でも、効果は変わりません

みじん切りをするときには、精々、たっぷりと涙を流します

シルワさんがそれでご無事でいてくださるのならば

そのくらい、お安い御用なのです


シルワさんは、出会ったときからお優しい方です

それは、涙の効用とは関わりなく、最初からずっとです

ただ、私の涙のことを知ってから

なんだか私のことを、聖女様、と崇めておられるようです

どうかおやめください、とお願いしたのですけれど

どうしてもやめてくださらないのです


私は取り立ててなんの取り得もない、ただの神官です

それどころか、まともに神官魔法も使えない半人前です

呪文はいつも言い間違えるし

大事な呪具は壊してしまうし

聖水なしには治癒魔法も使えません

力仕事は得意ですけれど

勢い余って物を壊すことのほうが多い気がします


そんな私を、聖女様とは、また、とんでもない

何度もそう言ってみたのですけれど

シルワさんは、にっこり笑って首を振ります

お優しいようで、ときどきとても頑固になられるのです



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