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賑やかなお食事会もおひらきになり

私たちは、シルワさんの小屋に戻ってまいりました


アイフィロスさんは、もっといてほしそうでしたけれど

仲間たちは長旅で疲れているからと

シルワさんはおっしゃったのです


申し訳ないことに、私も、お腹いっぱいになって

眠くて仕方ありませんでした

今日はいろんなことがあって

少しはしゃいでしまったようです


けれど、夜の泉の光景には、眠気も覚めてしまいました


泉には大きな月が映っていました

絶え間なく流れ出る清らかな水には

欠片になった月が溶けています

ちらちらと飛び散る水滴は、まるでお星様でした


これほど清らかな場所を見たことがありません

今までずっと世界で一番綺麗だと思っていた

故郷の神殿の精霊廟にすら

ここは勝るとも劣らないと思いました


シルワさんはずっとここの番人をしていたそうです

よほど、心を込めて、務めておられたのでしょう

その清らかなお人柄が、ここの景色にも現れている

そんな気がいたしました


いつまでも、一晩中でも眺めていたいと思いましたけれど

休まなければ、明日に差し支えます

シルワさんに促されて、私も小屋へむかいました


皆さん疲れていましたが、大急ぎで寝床を拵えました

今日はお天気がいいので、皆さん、外で寝られるそうです

あの泉を眺めながら眠れるなんて、なんて素敵

私もご一緒に、と申したのですけれど

私はシルワさんの寝台を使うようにと言われました


小屋のなかには寝台が二つありました

ひとつがシルワさんのもの

もうひとつは弟さんのものでしょう


寝台には、綺麗なシーツが敷いてありました

寝具もお日様に干した匂いがします

長年、手入れをされていなかった割りには

綺麗な状態でした


夜具に潜り込むと、ほんのりいい匂いがしました

これは、洗濯の石鹸の香り?

それとも、シルワさんの香りでしょうか

その香りに包まれていると幸せな気持ちになれました

そうしていつの間にか、ぐっすり眠っておりました


窓から差し込む朝日に目を覚ましました

今日もいいお天気のようです

鳥の声もいたします


小屋の外に出ると、お師匠様がいらっしゃいました

なかにあったテーブルはいつの間にか外に出されていました

朝食はもうできていて、テーブルに並べてありました


「申し訳ありません

 寝坊してしまいました」


よくよく見ると、お日様も結構高くまで上っています

うっかり寝過ごしてしまったようでした


「かまへん、かまへん、疲れてたんやろ

 壁と屋根のあるところで寝られるときくらい

 ゆっくり寝とったら、ええがな」


お師匠様はにこにこと言ってくださいます


「ああーーーっ!聖女様~~~」


遠くからフィオーリさんの声がしました

フィオーリさんは水汲みの手桶を持って走ってきました


「顔、洗ってもらおうと思って

 泉の水を汲んできました!」


「まあ!

 そんな神聖なお水で顔など洗ってもよろしいのですか?」


「かまいませんよ

 汲みだしたものならば

 むしろ、この水で洗えば、お肌の調子もよくなるとか

 わざわざ汲みに来る方もいらっしゃるのですよ?」


シルワさんにも勧められて

私は恐る恐る、手桶の水に手をつけました

すっきりして、ひんやりして、とても心地よい水です

ぱしゃりと顔にかけるとなんだか美人になれた気がしました


「ようよう、べっぴんさんや

 さあ、朝ごはん、おあがり」


お師匠様はにこにこと勧めてくださいました

皆さん、いそいそと席につかれました


「いただきます」


いつものごとく、声が揃います

もうずっと一緒に旅をしておりますけれど

何故か食事時のこれだけは、よく揃うのです


毎回、食事が宴みたいだと言われましたけれど

確かに、お食事はいつも賑やかです

ずらりと並ぶお師匠様のお料理も豪華ですし

それを取って、こっちをどうぞ、と

声とお料理も行き交うのです


今日も泉はきらきらと美しく

皆さんもにこにこと朗らかです

シルワさんも、穏やかに微笑んでおられます


なんだか、もうずっと、ここに、このまま、いたい

ふと、そんなことを思いました


もちろん、世界には、オークの脅威があって

今も困っている人はたくさんいます

自分だけ幸せならそれでいい

神官として、そのような考えではいけません


ただ、今だけ、もう少しだけ

このまま、この幸せな場所に、大切な人たちと、いたい

浅はかな願いかもしれませんが

そんなことを思ってしまいました


朝食が済むと、小屋の壁の修理が始まりました

平和で穏やかなこの場所に

たったひとつあまりにも似つかわしくない

壁についた傷は、そんなふうに思えました

そしてそれは

シルワさんの心についたままの傷のようにも見えました


お師匠様は傷の周囲を丁寧に切り取ると

やすりをかけて滑らかにしました

ぽっかりと円い穴が開いたようになって

むこうの景色が見えてしまいます

なんだか、小さな窓か、猫の出入り口のようでした


それから今度は板を慎重に測って

その穴にぴったり収まるように円く切っていきました


木の板を円く切るなんて技

なかなか普通の人には難しいと思うのです

けれども、お師匠様の手にかかると

木の板もパン生地のように円くなっていきました


フィオーリさんはお師匠様の助手をなさっています

言われた通りに板を抑えていたり

線を引くのを手伝ったり

足りない物を探してきたり

本当に大活躍でした


まだ旅の疲れが残っているミールムさんは

泉の畔で休んでおられました

この水には癒しの効果もあるらしく

そこにいると、小さな水しぶきがかかって

その分回復が早くなるんだそうです


シルワさんと私は、小屋の中のお掃除をしておりました

しばらく滞在するのなら、綺麗にして使いたい

シルワさんがそう強く主張なさったのです


それほど汚れているというわけではありませんでしたけれど

ずいぶん長い間使っていなかったので

いろんな物を、洗ったり、干したり、拭いたりしました


そうしてお日様が高くなるころには

どちらもこちらも、すっかり居心地よく整えられていました




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