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木苺は持って帰れませんでしたけれど

他にも、美味しいものはたくさんありました

収穫はまずまずで、私たちはほくほくと戻ってまいりました

そろそろ、森は夕刻の薄闇に沈み始めていました

昼間とはまた違った、夜の時間の始まりです

蛍が、ちらほらと飛び始めます

光を放つコケや草が、ちらちらと光ります

梢のむこうには、大きなお月様も上りました


戻ると大きなテーブルにご馳走が並んでいました

新鮮な野草のサラダに、炒ってお塩をかけた木の実

粒粒した草の実は大きなボールに山盛りにしてあります

粉にした木の実とたっぷりのお砂糖を混ぜて焼いたクッキー

お芋や根っこをたくさん入れて煮込んだスープ

蒸し焼きにした鳥もありました


そこへ、シルワさんと集めてきたデザートを追加します

ボールにいっぱいの色とりどりの美味しい木の実

なんとなんと、見ているだけでもわくわくいたします


お椀もお皿もスプーンやフォークもみんな木でできています

カップは木の実の殻でした

そこへ森の泉の水をたっぷりと注ぎます

お師匠様はそこへ秘蔵のお酒を足しています


ミールムさんたちも戻ってきました

残念ながら、収穫はなかったようです


「やっぱ、地元の人にはかなわないよね?」


ミールムさんはそんなことを言いますけれど

それほど悔しそうな顔もしていませんでした


私は、あの素敵な木苺のことを話しました

それで、明日早速、みんなで行こうということになりました


「なになに?精霊苺?

 そんないいもの、どこにあったんだ?」


話を聞きつけたアイフィロスさんも話しに入ってきました


「苺狩りだって?

 そんなの、オレも行くに決まってる!」


もちろん、大歓迎です


みんな揃ったところで、乾杯になりました

和やかなお食事会が始まりました


「聖女様、サラダを取って差し上げましょう」


シルワさんは何かと世話を焼いてくださいます


「シルワさーん、おいらにも入れてください」

「あ、僕も」

「わたしのも、よろしゅう」

「あ、オレもオレも」


シルワさんの前にずらっとお皿が並びました


「そんじゃ、わたしはこっちの肉を切るとするか」


お師匠様は蒸し鳥を切り分けてくださいます


「んじゃ、おいら、この草の実を…」


「ああっ!君みたいな粗忽者、こぼすに決まってんだろ?」


ミールムさんに引き留められましたが

ちょっと遅かったみたいです

テーブルに盛大にぶちまけたフィオーリさんは

申し訳ないっす、とみんなに謝りました


「構わないさ

 森の恵ってのはそうやって拡げられていくもんだ」


アイフィロスさんは慰めるようにおっしゃいました


「生き物の食べこぼしが、次の種を撒く

 栗鼠が隠しておこうと土に埋めた木の実から

 大きな木が育つんだ」


「つまり、フィオーリは、猿か栗鼠、ってことだね?」


ミールムさんに言われて

フィオーリさんは、くるっとその場で宙返りしました


「うっきー!」


お猿さんの真似もお上手です

みんな笑い出しました


「…ったく…

 いいから、君はおとなしく食べてな?」


ミールムさんはフィオーリさんの手からスプーンを奪います

それから気前よくみんなのお皿に取り分けてくださいました


なんのかんの言って、みなさん世話好きなんです


と、そこへ、呼びかける声がしました


「こんばんは

 パーティは盛況なようですね?」


え?と振り返ると、ノワゼットさんがそこにいました

ノワゼットさんは両手に大きな包みを抱えていました


「パイを焼いたので、持ってきました」


「おおお、ノワゼットのパイは絶品なんだ!」


アイフィロスさんはいそいそと新しい席を作ります

フィオーリさんは席を指さして言いました


「どうぞどうぞ

 サラダもお肉もまだたっぷりありますよ」


「早く来ないと、フィオーリに全部食べられちゃうよ?」


「おいら、こう見えて、小食な方っすよ?」


「そんなの控え目に言わなくていいよ?

 小食なホビットなんているもんか

 君は立派な大食いだ」


賑やかに言い合いを始めるミールムさんとフィオーリさん

ノワゼットさんはそのやり取りに笑いながら席につきました


「まあ、少々、うるさいかもしれんけど

 ゆっくりしていってな」


お師匠様はノワゼットさんのお皿にいろいろと取り分けます

ミールムさんはあんなことをおっしゃってましたけど

大丈夫、まだちゃんとお料理はたっぷりありました


「それでは失礼して

 こちらのパイも切り分けましょうかね?」


シルワさんはノワゼットさんのパイを受け取ると

包みを開けて歓声をあげました


「まあ、なんてよい香りなのでしょう

 木の実のパイですね?」


その香りは私の鼻にも飛び込んできました

なんともいえない美味しそうな匂い

もうかなりご馳走をいただいていたのですが

このパイならまだまだ入りそうでした


「宴など、大袈裟なことはするな、と

 シルワ師はおっしゃいましたけれど

 アイフィロスの家に炊きの煙が立っているのを見て

 居ても立っても居られなくなって…」


「それは申し訳ありません

 宴、のつもりはなかったのですけれど

 もっともこの皆さんとなら

 いつものお食事も毎回、宴のように賑やかです」


「いいじゃないか、賑やかなのも

 オレみたいに家族のないやつは

 いっつもひとりの淋しい飯だからね

 自慢の料理の腕も、振るう相手がいなけりゃ宝の持ち腐れ

 普段はろくに料理もせずに、木の実をそのまま齧ってる

 だから、こういう賑やかな食事はすっげえ楽しい」


アイフィロスさんは本当に楽しそうでした


「アイフィロスさんは、おひとり暮らしなのですか?」


「そうなんだ、聖女ちゃん

 万年花嫁募集中

 よかったら、うちに嫁に来ない?」


「まあ、なんてことを!

 聖女様はいけませんよ?」


大急ぎでシルワさんは私を背中に隠します

それにアイフィロスさんは、にやっと笑いました


「ちぇっ

 じゃあ、百歩譲って、君で我慢しといてやるよ、シルワ

 飯作ってやるから、うちに来いよ?」


「お料理はしてくださるかもしれませんけれど

 片付けも、お掃除も、お洗濯も、身の回りの世話も

 料理以外、全部、わたしの仕事になりますから

 遠慮しておきます」


シルワさんに断られて

アイフィロスさんはまたちぇっと言いました


「そうだ、ノワゼット、如何です?

 アイフィロスはこう見えて、結構いいやつですよ?」


シルワさんは何気なくノワゼットさんに話を振りました

ノワゼットさんは、ちょっと顔を強張らせて首を振りました


「いいえ

 わたしは遠慮しておきます」


「あら、振られましたね?」


シルワさんはあっけらかんと笑いましたけれど

ノワゼットさんはなんだか怒ったような顔をしていました


アイフィロスさんは、はあ、とため息を吐いてみせました


「シルワ

 オレの世話が面倒だからって

 他所のやつに押し付けることないだろ?」


「申し訳ありません

 余計なお世話でしたね

 あやうく、ノワゼットを不幸にするところでした」


「はあ?不幸?不幸って、どういうことだ?」


「だって、こんなに手のかかる伴侶なんて

 よほどの覚悟が必要でしょう?」


「うるさいな

 分かった、風呂くらいは、これからは自分で入る」


「ひとつ減ったところで…

 ああ、いえ、なんでもありません

 まあ、ご自分で、なんて、進歩なさいましたね?

 そうやって少しずつ、改良なさっていけば

 いずれ、あなたにも、ぴったりの伴侶が現れますよ?」


「…改良って…ったく、言い放題だな…」


アイフィロスさんは苦笑しておられます

シルワさんがいつになくつけつけとおっしゃられるのに

私はちょっと驚いておりましたけれども

これも、互いの信頼の証

本当によいお友だちなのだろうなあと思っておりました




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