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なんだか、みんなしてお団子のようになってしまった

その翌朝


明るい陽射しの元を、私は朝のお散歩を

しておりました


厨房で、お師匠様は腕を振るっておられます

是非とも、一緒にお料理をしたい、と申し出たのですが

今日くらいは、のんびりしとき、と

断られてしまいました


まだ昨日、着いたばかりなのに

もうずっとここにいた気がします

故郷とはそういうものなのでしょうか


懐かしくて、どこかほっとする

そんな感覚を存分に味わっておりました


「おはようございます、聖女様

 昨夜はよくお休みになれましたか?」


木陰から姿を現したシルワさんが

そう声をかけてくれました


「おはようございます、シルワさん

 私は、ぐっすり、よく眠れました

 シルワさんも、よくお休みになりましたか?」


神殿には他所から来られたお客様をお泊めする

施設もあります

昨日はみなさんそれぞれのお部屋で

ゆっくりなさったはずです


「それが、ですねえ…」


軽く首を傾げて、シルワさんは続けました


「すっかり、野宿や狭い床に雑魚寝するのに慣れてしまって

 広いベットに一人で寝ていると、なんだか淋しい…

 というか…物足りない?というか…」


まあ、と私は笑い出してしまいました

シルワさんも、一緒に笑っていらっしゃいます


「あのまま、森にいたら、こんな感覚は

 きっと、知らなかったでしょうね」


シルワさんは遠く遠くを見つめるようになさいました

その視線の先には、ずっと遠くのエルフの森が

映っている気がしました


「聖女様の故郷は、とてもよいところですね?」


シルワさんはその目を戻しておっしゃいました

私は、はい、と頷きました


「昨夜はお父様と遅くまでお話しでしたね?」


「御高師様は、本当に素晴らしい方です

 いくらでも、お話しを伺っていたいと思います」


シルワさんは深く頷きました


「昔、神官の修行をしていたときに出会えていたら

 きっと、わたしの道は違っていたでしょう

 あんなふうに、森に逃げ帰ることもなかったかも

 しれません」


けれど、とシルワさんは首を振りました


「違う道を歩んでいたら、聖女様とは出会えなかった

 かもしれません

 だとしたら、やはり、この道でよかった

 ひ弱で弱虫で、故郷に逃げ帰ったことも

 うまく弟を育てられなかったことも

 弟とふたり、故郷を捨てて、さ迷い歩いたことも

 そのなにもかもが、ここへ繋がる道の一部なら

 たとえ、オークになりかけたことですら

 よかった、と思うのです」


シルワさんは私のほうへ手を差し伸べました

私は、ごく自然に、その手に手を重ねていました


そっと、丁寧に、私の手を取って、シルワさんは

ゆっくりと歩きます

それはまるで、王宮の貴婦人にするように

なんだか、お姫様にでもなったような気がして

どきどきしてきました


「あなたにお会いできて本当によかった

 辛かったこともすべて、このためだというのなら

 それに耐えてきた自分を、褒めてやろうと思います」


シルワさんの細い指は、のせているだけだった私の手を

きゅっと握りました


「だから、もう、この手は離さない

 全ての不幸をも幸せに変えてしまうほど

 あなたは、わたしにとって、大きな大きな幸福だから

 今度こそ、これを失ったら、もう生きてはいけない」


シルワさんはそこへ膝をついて

私の手を握ったまま、見上げるようにしました


「聖女様が再び旅に出られるのだとしても

 もしも、このまま、ここに残られるのだとしても

 どちらにしても、わたしも、また

 聖女様と共にいたいのです

 どうか、それをお許しください、聖女様」


びっくりして、ちょっとお返事ができませんでした

どうにもこういうのには慣れません


少し眩しそうに目を細めてこちらを見上げるシルワさんの

笑顔が眩しいです


いつか、ここで、シルワさんにお父様の跡を継いで頂いて

ふたりで、神殿を守っていく…

昔していたそんな妄想を、ちらりと思い出しました


けれども、私は頭を振って、それは追い出しました


いつか、もしかしたら、もっとずっと先に

そんな日がくるかもしれないけれど

今はまだ、そうではありません


シルワさんの病も小康状態にあるとはいえ

完治したわけではないのです


それに…


「シルワさん

 もし、私の涙がオークになりかけている人たちの

 救いになるのなら…

 私は、やはり行かなければならないと思うのです」


「…そう、おっしゃるかな、と思っておりました」


シルワさんは、かすかに微笑まれました


「自分だけ救われればそれでいい

 そんなさもしい考えでは

 とうてい、聖女様のお傍に侍る資格はありません

 聖女様の行こうとしていらっしゃるその道は

 楽な道ではないかもしれませんけれど

 先の露を払い、雨のときは傘になり

 風を防ぐ盾となれるよう、精進いたしますゆえ

 どうぞ、お連れくださいませ」


「ま~た、抜け駆け、してるし」

「そんなん、いちいち、確認せんかて」

「聖女様、おいらたち、ずーっとずーっと

 一緒っすよね?」


木陰から転がるようにしてお三方の姿が現れました


「朝ご飯やで?

 ええから、早、おいで」

「わざわざ呼びに来てあげたんだからね?

 早く来ないと、マリエのデザート、もらっちゃうよ?」

「あ、それはダメっすよ?」


わいわいと騒ぎながら先に立って歩き出されます

慌てて、シルワさんと私もそれを追いかけました





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