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あくる日、お供え物をたくさん持って

私たちは、ヒノデさんのお墓にお参りしました


ネムスさんが、どうしても、お参りしたい、と

おっしゃったのです


村長さんご夫妻も、一緒にいらっしゃいました


おばあさんは、口の中で小さく呪文を唱えると

墓石に手を当てて、ヒノデさんの姿を見せて

くださいました


その幻を見た途端に、ネムスさんは

大きなため息を吐いて、その前にひざまずきました


「間違いない

 この人は僕の命の恩人だ」


あのときのことは、よく覚えていました


お茶をご馳走になっている間

珍しく、ヒノデさんは黙っていらっしゃいました

いつもフィオーリさんと賑やかにおしゃべりして

いらっしゃいましたから、少し意外に思っていたのですが

それも、疫病の瘴気を感じて、その大元を探って

いらっしゃったからでした


ヒノデさんは、薬作りが失敗したのは

ベアが既に疫病の犯されていたからだ、と

見破ってくださいました


それでも、ネムスさんのオーク化は

止まりませんでした

そして、ヒノデさんは、自分と引き換えにして

ネムスさんを救ってくださったのでした


ネムスさんは、そのことを村長さんご夫妻に

話して聞かせました


村長さんご夫妻は、ヒノデさんの勇気ある行動に

とても感銘を受けられたようでした


「あの子のことを、わたしたちは、誇りに思います」

「本当に、立派な子だと思います」


お二人はしきりにそうおっしゃって

墓石を何度も何度も手で撫でていらっしゃいました


「本当に、そうでしょうか」


けれども、ノワゼットさんは、そのお二人のお言葉には

同意なさいませんでした


「ヒノデは、ネムスを助けたりなんかしなかったら

 また、この村に戻ってきていたら

 お二人にだって、会えたかもしれないのに」


いいえ、とおじいさんは、静かに首を振りました


「あの頃は、村の誰もが心を荒ませていました

 わたしたちとて、それは例外じゃなかった」


「エルフ族が疫病を広げるなどという噂をひろめて

 長年の友を陥れるような真似までしてしまったのです」


「そんなわたしたちには、あの子の姿は

 見えなかったかもしれません」


お二人は互いに視線を交わしてから

深いため息を吐かれました


お二人のお言葉を聞いて、私はふと

思い当たることがありました


そもそも、そんな嘘を、おばあさんが思い付かれたのは

ヒノデさんの見せた夢がきっかけだったはずです


もしかしたら、ヒノデさんは、夢の中で

ご両親に会いに来られたのかもしれません

けれど、悲しいことに、お二人には

それがお分かりにならなかったのかも…


ただ、そんなことはわざわざ口にすることでもないと

思いました


それにしても、ヒノデさんとお二人を

なんとか会わせて差し上げられないものでしょうか


精霊でも、幽霊でも、具現化する能力が

もしも、私に、あるのだとしたら

なんとしても、それを発動させる方法を

知りたいと思いました


「あの子は、村に水を運んでくれたのだと

 おっしゃいましたね?」


おじいさんは確かめるようにおっしゃいました


「それもきっと、あの子ひとりで叶うことでは

 なかったのでしょう?

 みなさんが、お力を貸してくださったからこそ

 そうできたのでしょう

 その恩返しをしたいと

 あの子なりに、思ったのかもしれません」


「ネムスさんが、それで助かった、と思ってくださるなら

 あの子は、よかった、と思っていると思います」


ネムスさんは、そんなお二人に歩み寄ると

いきなり二人まとめて抱き寄せて

わあわあと、声をあげて泣き始めました


ベアより大きなネムスさんの

丸太のような腕に、がっちりと捕まえられたご夫婦は

もちろん、身動きひとつできず

それでも、笑っていらっしゃいました


こんなにいい方たちが、悲しいまま、淋しいまま、だなんて

やっぱり、嫌だと思いました

なんとかできないかなと思いました

なんとかしたいと思いました


そのときでした


ポケットの中でまた手鏡が熱を持ち始めました


手鏡を取り出し、開くと

鏡の面に、ぐるぐると

不思議な渦が映っていました


「ノワゼットさん!

 これは…?」


私はノワゼットさんにそれを見せようとしました


なんだい?とノワゼットさんは

こちらに近づこうとなさいました


ぐるぐると、鏡はますます激しく渦巻き

そこから光さえ放ち始めました


???


これは!


「マリエ!」

「聖女様!」


ノワゼットさんとネムスさんが同時に

叫ぶのが聞こえました


そして、誰かが、私をぎゅっと抱きすくめました


けれど、分かっていたのは、そこまででした


すぅっと引き込まれるように

そのまま私は、気を失ってしまってました




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