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よい夢を、みました

とてもとても、よい夢でした

それで、今日もすっきり爽快

私は元気です


早朝、水汲みに行かれるおばあさんについて行きました


本当は、水汲みには、ノワゼットさんと私とで

行きますと、申したのですけれども

どうしても、これは自分が、と

おばあさんが、強くおっしゃったのです


それで、それじゃあ、朝の散歩をします

と言って、ついて行くことにしました


なんのかんの言って

ノワゼットさんは、おばあさんの手から

水汲み桶を取り上げてしまいました


そうして、片方の手に桶をぶら下げ

もう片方の手でおばあさんの手を引いて

意気揚々と歩いていらっしゃいました


ネムスさんはおじいさんの代わりに薪割りを

していらっしゃいます


薪割りは得意、なんだそうです


お食事をご馳走になった上に、泊めていただいて

いるのですから、このくらいは当然のことです


ネムスさんは、あとで森まで狩りに行くと

おっしゃってました

ノワゼットさんも、森へ、木の実や草の根を

取りに行くそうです


私もご一緒したいと申し上げたら、私がいると

道がはかどらないからダメと断られてしまいました


確かに、足手まといにならないという自信も

ありませんから、そこは素直に従うことに

いたしました


ここに残ってもきっと、おじいさんやおばあさんの

お手伝いはあると思うのです


井戸に着くと、釣瓶を使って水を汲み上げました


ここには、何度も、ヒノデさんとフィオーリさんと

往復いたしました

懐かしい井戸です


あのときには、ここの水は汚染されていて

飲んではいけない状態でした


けれども、今はすっかり浄化されて

思わず、桶から直接、手ですくって飲んでみました


森の泉の水と同じ、清浄な味がいたします

飲めば飲むほど、命の伸びるお水だと思いました


「帰るよ?

 マリエ」


いつまでもしげしげと井戸を覗き込んでいると

ノワゼットさんに声をかけられてしまいました


私は慌てて、お二人を追いかけます

そのとき、でした


ポケットの中で、なにか、ほんの一瞬だけ

熱くなるのを感じました


なんだろうとポケットを探ると

そこには、泉の精霊からもらった

手鏡が入っていました


そうだ!と思いました

以前、これで泉の精霊に話しかけようとしたら

ヒノデさんが現れたことがありました


もしかしたら、今、これに呼びかけてみたら

ヒノデさんがまた現れないでしょうか


試そうとしたところを、また、ノワゼットさんに

呼ばれました


ノワゼットさんは、おばあさんと、ずいぶん先に

行ってしまっていました


「マリエ!

 帰ってから朝食の支度もあるし

 今日はこの後もいろいろと忙しいんだよ?」


とうとう叱られてしまいました


すみません、と言って、慌てて追いかけました


手鏡を試すのは後にいたしましょう


朝食をたっぷりいただいた後

ネムスさんとノワゼットさんは

予定通りお出かけになりました


それから、おじいさんとおばあさんと三人で

軽くお家のお掃除をいたしました


お家が綺麗になると、おじいさんとおばあさんは

美味しいお茶を淹れてくださいました

素敵なお菓子もたっぷりあります


お二人にはさまれて、楽しい朝のお茶会です


なんだか、ネムスさんとノワゼットさんに

ちょっと申し訳ない気がいたします


お茶が済むと、おじいさんとおばあさんは

お部屋に戻って、一休みなさることになりました


ひとりになった私は、早速、井戸に行ってみることに

いたしました


井戸の祭壇は、綺麗に手入れがされて

お水とお花とお菓子がお供えしてありました


きっと、おじいさんとおばあさんが

きちんとお祭りなさっているのでしょう


祭壇で精霊に祈りを捧げました


神殿で祈りを捧げるとき、私たち神官はたいてい

大精霊様を思い描いて祈ります


この世界には精霊はたくさんいらっしゃるのですけれど

人間の前には滅多に姿を表してくださらないので

大精霊様をその代表にしているのです


けれど、今は、ヒノデさんを思い描きました

ヒノデさんのお姿も声も、よく存知ておりますから

難しいことではありませんでした


すると、また、あの手鏡が、少しだけ

熱くなったように感じました


お祈りが終わると、早速、手鏡を出してみました


今は、熱くもありませんし、光ったりもしていません


鏡を開こうとしたときでした


突然、背後から名前を呼ばれました


「マリエ!

 何をしてる?」


驚いて振り返ると、ノワゼットさんでした


「あ、れ?

 森へ行かれたのでは?」


「嫌な予感がして、戻ってきた

 一人で何をしている?」


ノワゼットさんは、つかつかと歩み寄ってくると

私の手に持っていた手鏡を取り上げました


「…これは?」


「泉の精霊から頂いたものです

 それを使えば、泉の精霊と

 お話しができるのです」


「泉の精霊と?

 何を話そうとしていたの?」


「いいえ…今は、泉の精霊ではなく…」


私は、以前、この手鏡を使ったときに

ヒノデさんが姿を現したことをお話ししました


すると、ノワゼットさんは目をむいて叫びました


「井戸の精霊を?

 召喚しようとしていたの?」


「いえ、そんな、大それたことではなく…」


「まったく、なんてことだ

 戻ってきてよかったよ」


ノワゼットさんは、頭をかかえて

しゃがみこんでしまわれました


「そんな適当な方法で、精霊を召喚しようだなんて

 それにつけこんで変なのが出てきたら、どうするの?」


「変なの?

 いえ、そんな、変なのは、出ていらっしゃらないと

 思いますけれど…」


「無自覚か…

 君に魔法は絶対に使わせるな、と

 そういえば、シルワ師がおっしゃっていたな…」


ノワゼットさんは、何故か盛大なため息を

お吐きになりました


「もしかして、いつもシルワ師のなさるのを見ているから

 ものすごく簡単なことだと誤解してるとか?」


「シルワさんが?

 精霊召喚など、なさっていらっしゃいましたっけ?」


「やってるだろ

 泉の精霊の召喚」


「えっ?

 あれって、召喚だったのですか?」


「なんだと思ってたの?」


「…呼んだら、いらっしゃる?」


「それを、召喚、って言うんじゃないの?」


確かに言われてみれば、その通りです


ノワゼットさんは気持ちを切り替えるように

咳払いをなさいました


「一応、聞いておくけど

 精霊召喚の経験はあるの?」


「いいえ

 そんな大それたことは、いたしませんとも」


私とて、神官のはしくれ

精霊召喚など、滅多にしてはならないことくらいは

ちゃんと存知ております


「シルワさんって、そんなに高位の神官様

 だったのですね?」


「何を今さら

 君はシルワ師をなんだと思ってたの?」


「森の泉の番人さんで、魔法使い?」


「魔法使いってのは、君たちと旅をするときの方便だし

 それに、単なる泉の番人じゃない

 人間にしてみれば、王都の大聖堂の神官長?

 シルワ師は森にとってはそういう方なんだよ」


ええっ、と驚くと、ノワゼットさんは

思い切りため息を吐かれました


「人間の神殿の仕組みについてはよく知らないけど

 精霊召喚なんて、かなり高度な術なんじゃないの?

 見たところ、君は神官としての経験もまだまだのようだし

 精霊召喚など、簡単にしていいとは思えないんだけど」


「もちろんいたしませんとも

 お父様でも、一度もなさったことは

 ありませんから」


はっきりと申し上げると、何故かノワゼットさんは

もう一度、頭を抱えてしまわれました


「今、君は、その鏡を使って

 井戸の精霊を喚び出そうとしていたのでは?」


「ええ、はい、そうです…」


「それが、精霊召喚だ、と

 まさか、気づいていない、とか?」


「…あ…」


「バカなの?」


久しぶりにノワゼットさんにののしられてしまいました


けれど、すぐにノワゼットさんは、あ、と言って

自分の口を手で抑えました


「ごめん

 今のは撤回する

 少なくとも、君は一度

 その鏡を使って、井戸の精霊を召喚した

 それを、もう一度、やってみようと

 しただけだ」


ノワゼットさんは説明をするようにおっしゃってから

ひとつ、深呼吸をなさいました


「けど、それは、たまたま、うまくいっただけだ

 同じことがもう一度うまくいくとは限らない

 だとしたら、そんな危険なことを、見過ごすわけには

 いかない」


もちろんです


私は大急ぎで手鏡をポケットにしまいました


「…だけど、そうだな…」


けれど、隣でノワゼットさんはおっしゃいました


「今はまだ井戸水もあるし

 それに、ここはついこの間浄化されたばかりだ…」


「ええ!

 昨夜お風呂をいただいたときにも

 この井戸のお水はとても綺麗だと思いました」


「だとしたら、もしかすると…」


ノワゼットさんは、私のほうをじっと御覧になりました


「その井戸の精霊のこと

 もう少し詳しく話してもらえるかな?」


私は何度も頷きました










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