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総勢七人、ぞろぞろと歩いておりますと
むこうから駆けてくる姿が見えました
「おお~い、みんな~、聖女様~!」
元気よくそう呼ぶのは、ネムスさんでした
「ネムスさ~ん!」
思わず嬉しくなって手を振り返しました
ついさっきまで一緒にいたのに、間に百年経っているなんて
ちょっと嘘みたいだと思いました
ネムスさんは私の前まで来ると
いきなり両脇に手を入れて
持ち上げ、よう、と…したのですけれど
持ち上がりませんでした
「あーあ、レディになんちゅうこと、しはんのやろ」
お師匠様が、横目で見て、にやり、と笑いました
ネムスさんは、そんなお師匠様のほうを見て
あ!と手を打ちました
「君が、ドワーフ族のお師匠様?
そして、そっちが、妖精族のミールムさんに
やあ、久しぶりだ!フィオーリ!!」
ネムスさんとフィオーリさんは
旧知の友のように、ハイタッチをしました
「え?なんでそこ、友だちなの?
てか、なんで、僕の名前、知ってんの?」
ミールムさんが不審そうに尋ねます
それに、ネムスさんは、明るく笑って答えました
「僕ら、ずっとずっと昔っから友だちなんだよ
それに、聖女様は僕の命の恩人なんだ
聖女様の旅の仲間のことは、昔、聖女様から
聞いたことあったから」
「は?え?どういうこと?」
首を傾げたミールムさんをそこへ放置して
ネムスさんは、もう一度、私のほうをむきました
「ずっと、君に会いたかった
ずっとずっと、君を探して、世界中を旅していたよ
だけど、きっとまた、会えるって、信じてた
だから、出来る限りのことをして、待ってた」
そうして、今度は、持ち上げようとはせずに
ふわり、と被さるように、抱きすくめました
「僕の聖女様、やっと、君に会えた
もう、ずっと、離れないよ」
え?
突然のことに驚いて、ちょっと固まってしまいました
それから、何故かシルワさんのことが気になって
そっと振り返ってみました
シルワさんは、いつものように、微笑みを浮かべて
こちらを御覧になっていました
ずっと、その身を案じていた弟さんが
こんなに元気にしていらっしゃるのですから
きっと、さぞかし、お喜びのことでしょう
ただ、気のせいかもしれませんが
その微笑みには、ほんの少し、淋しそうな陰が
混じっているようにも見えました
シルワさんは、弟さんの親代わりでもありましたから
もしかしたら、幼子が立派に育ったのを
喜びながらも、どこか淋しく感じるという
親心、のようなお気持ちでしょうか
「あー、はいはいはいはい」
そう言って、ミールムさんがネムスさんと私の間に
割り込みました
「うちの聖女様は、おさわり禁止、だから」
ミールムさんがネムスさんをちらっと睨むと
ネムスさんは、うん、分かった!と明るく頷きました
すると、ミールムさんは、聞えよがしにため息を吐きました
「…なに、こいつ?
素直なの?バカなの?」
え?
初対面で流石にバカ呼ばわりはちょっと…
「バカなんだよ」
ぼそっと後ろでおっしゃったのは
ノワゼットさんでした
「どうも、うちの不肖の弟が、すみませんねえ」
宥めに入ったのはシルワさんでした
「ネムス?
まずは、きちんと、ご挨拶なさいな」
「あ!そうだった!」
ネムスさんはまたぽんと手を叩くと
みなさんにむかって、丁寧にお辞儀をしました
「ネムス、です
エルフ、です
狩人、です
兄様の弟、です」
「…ほとんど情報量のないご挨拶、どうも有難う」
ぼそっと、ミールムさんが呟きます
「いやいや~
ネムスさん、本当にいい人っすから
みなさん、よろしくしてくださいねえ」
横からフィオーリさんがおっしゃいました
「わたしは、グラン、いいます
見ての通り、ドワーフ族や
仕事は細工師
趣味は料理
まあ、よろしゅう」
お師匠様はきちんとご挨拶を返されました
「やあやあ、みなさん、お揃いだねえ」
そこへようやく到着なさったのはアイフィロスさんでした
アイフィロスさんは、奇妙なスクーターのような乗り物に
乗っておいででした
「いや、こいつ、試しに乗ってみようとしたら
意外と扱いが難しくて…」
それは魔法の動力で動く乗り物のようでしたが
アイフィロスさんが足を乗せると
ひゅん、と勝手に動き出して
そのたびに、アイフィロスさんは
そこへ取り残されて
尻もちをついてしまうのでした
「それ、普通に歩いた方が早いんじゃないの?」
ノワゼットさんが呆れたようにおっしゃいます
「いやあ、滅多に家から出ないもんだから
たまに外を歩くと、腰が痛くって…」
アイフィロスさんは、とんとんと腰の辺りを
拳で叩いてみせました
それから、おもむろにシルワさんのほうをむくと
いきなりおっしゃいました
「いやもう、この状況見てもらえば分かると思うけどさ
シルワ、ネムスの棺が消えてしまったんだ」
シルワさんは、ええ、と頷いてから微笑みました
「おそらくは、わたしが時空を超えたときに
棺に送り込んでいた魔力が、いったん途切れた
のが原因でしょう
けれども、それもまた、大精霊様の思し召し
だったのかもしれません」
「大精霊様の思し召し?」
アイフィロスさんは首を傾げます
ええ、そうなんです、とシルワさんはあっさり答えました
「いよいよ、わたしも覚悟をして
ここからは、躊躇っている余裕はなくなりそうです」
そう答えたシルワさんは、少し、真面目な顔を
なさっていました




