表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/127

はじめまして

以前にお目にかかったことのある方は、お久しぶりです

長らくご無沙汰しております

マリエと申します

神官です


私たちのパーティも、出会ってから、おおよそ一年

語り手も一巡いたしました

そこで、そろそろ誰かに決めることになりました

お仲間のみなさんは、なかなか個性的でお話しの上手ばかり

どなたがなさっても、立派に務められそうです

その中で、よもやまさか、この私に白羽の矢が立とうとは!

しかし、これもきっと大精霊様のお導きに違いありません

一番の下手である私に上達の機会をお与え下さったのです

ならば、そのお心は有難く頂戴しなければなりません

私、一世一代の一念発起

僭越ながら、お引き受けすることにいたしました


いきなりご挨拶が長くなってしまいました

物語を語ることが語り手の最も優先すべき使命のはず

余計な文言など、蛇の足に無用の長物

しかし、まだまだ、私は未熟な語り手でございます

どうか、長い目で御覧いただければ、幸いに存じます


オークの砦でお三方と出会ったのはおおよそ一年前でした


エルフ族のシルワさん

ドワーフ族のお師匠様

ホビット族のフィオーリさんのお三方です


シルワさんは、魔法がお得意です

なんでも、王都の魔法学校の卒業生だとか

そこは国中から選りすぐりの魔術師の集う場所ですから

それはそれはご立派な経歴の持ち主です


ただ、魔法に必要な魔力が、万年不足気味なのが玉にきず

魔法を使うたびに、気を失い、崩れ落ち…

なんとも儚げな方でいらっしゃいます


色白の痩身はエルフ族の特徴なのでしょうか

いつもこう、少し、背中を丸くしていらっしゃいます

ですから、背はお高いのですけれど、圧迫感はございません

ほつれた後れ毛がいつも、はらり、とお顔にかかり

それがまた、一段と儚げな様相を醸し出します

口元にはいつも、穏やかな微笑みを湛えていて

どなたに対してもお優しく、とても丁寧に接されます

故郷では、聖なる泉の番人をなさっておられたとか

どこか神官のような雰囲気の漂うお方です


シルワさんには弟さんがひとりいらっしゃいました

シルワさんが親代わりになって育てられたのだそうです

しかし、弟さんは重大な禁忌を犯してしまいました。


この世界、重大な禁忌を犯した者は、オークになります

オークというのは暗闇に棲む恐ろしい怪物です

もう二度と、お日様を見ることは叶いません

強い光に当たると溶けてしまうからです


オークのからだは大きく、力も強く、足も速いし、水も泳ぐ

けれども、食べても食べても満たされることはありません

元の人だったころの記憶は失くしてしまうそうです

病気も怪我もしないし、年も取らず、死ぬこともない

ただ、暗闇を永遠に食べ物を求めてさまよい歩く

そういう怪物です


シルワさんの弟さんは、オークになりかけていました

エルフ族はオークになった同族には容赦がないそうです

最低限の食べ物だけ与えて、檻に入れておくのだとか

そのまま、お日様の光を浴びるまで、放置するのです

シルワさんは、その弟さんを連れて、郷を出奔なさいました


その後弟さんがどうなったのか、詳しいことは分かりません

シルワさんも、あえて話そうとはなさいません

ただ、出会ったとき、シルワさんはおひとりでしたから

推して知るべし、と申しましょうか


その旅の途中、シルワさんも禁忌を犯されたのだとか

ご自身もオークになりかかっているのだそうです

いつも具合が悪そうなのは、そのせいなのかもしれません


お次はお師匠様こと、グランさんです

私のお料理のお師匠様です

いいえ、お料理だけでなく、もっといろいろ…

人生全般の先生と言っても過言ではないかもしれません


お師匠様のお得意なのはお料理だけではありません。

諸々の細工物や道具等、お師匠様に作れない物はありません

私たちの服も靴も、日常で使ういろんな物も

ほとんどの物は、お師匠様のお手製です


長い間、ずっと旅から旅のお暮しをなさっていました

ですから、世界中のいろんな事をよくご存知です

不便な暮らしにも慣れていて、無いなら作る、が信条だとか


作るには手間や時間が膨大にかかる物もあります

そういった物は、市場で買ったりもなさいます

それに必要なお金は、ご自身で作った物を売られます

お師匠様の作る細工物はかなりお高く売れるらしいです


ドワーフ族なのにお髭ははやしておられません

だから、ぱっと見は、大柄なホビット族にも見えます

言葉遣いも少し、変わっています

昔、一緒に旅をした方の影響だそうです


オークをお腹いっぱいにするために、旅を続けます

そう言う私にお師匠様はついてきてくださいました

私のお料理が、あまりにも下手くそだからだと思います

食材を無駄にするのだけは許されへん、とおっしゃいます

けど、本当は、心配してくださっているのかもしれません


面倒見がよくて、いつもどっしり構えていてくれる

そんなお師匠様を、みなさんとても頼りにしておられます

パーティの大黒柱のような方です


お師匠様は、昔馴染みの方を探しておられました

その方は、ずっと行方が分からず…

もしかしたら、オークになった可能性もありました

いいえ

オークになっていなかったら、もうとっくに生きていない

そのくらい長い間、探して歩いていらっしゃるそうです


三人目は、ホビット族のフィオーリさん

お三方のなかでは、一番、年若く見えます

もっとも、異種族ですから、本当の年は分かりません

私よりは確実に長く生きているはずなのですけれど

一緒にいると、ついつい、弟のように接してしまいます


くるくるした巻き毛にきらきらの瞳

いつも明るく元気いっぱい

ホビット族ですから、背は当然、私よりも小さいです

すばしっこくて、気が付くと、いつもすぐ近くにいます

そうして、私の手を、ぎゅっと、握ります

その手は、すごくあったかくて、ちょっと湿っています

それから、私を見上げて、にこっと笑うんです


私の手を引いて、いろんなところへ連れて行ってくれます

お天気のいい丘の上だったり

不思議な青い水を湛えた森の池だったり

怪物の潜んでいそうな深い洞窟だったり

それはいつも、素敵な場所ばかりです


マントを手足に括りつけて、木の上から飛び降りてみたり

険しい崖だって、ひょいひょいと気軽に登ってしまいます

なにより、風のように早く駆けることもできます


フィオーリさんは、きっと退屈することを知りません

世界中がフィオーリさんにとっては楽しいことだらけ


フィオーリさんを見ていると、はらはらすることも多いです

だけど、どうしてか、最後にはいつも笑ってしまいます

どんなピンチも最後には笑いに変える

それが、フィオーリさんの一族のモットーなんだそうです


フィオーリさんは、故郷をオークに襲われました

オークは食べ物を奪うために、ときどき、郷を襲うのです

そのとき、フィオーリさんは、攫われてきたのだそうです

そうして、鉱山で働かされていました


オークはよく廃墟となった鉱山に棲みつきます

そうして、捕虜を連れてきては、そこを掘らせます

何のためにそんなことをするのかは分かりません

けれど、何かを探しているらしいと言われています


このお三方と旅をしていて、ミールムさんと出会いました

ミールムさんは妖精族です

ミールムさんと出会ったのは、とある森の中でした


私は、うっかり森の主を倒してしまっていました

本当に、そんなつもりなんか、欠片もなかったのです

それでも、森は私を閉じ込めてしまいました

一緒にいたお仲間たちもろともです

主を誰か他のものに譲らない限り、私は森から出られない

そんなときに、ミールムさんと出会いました


はじめは、私にしか、その姿は見えませんでした

けれど、みなさん、私の話しを信じてくださいました

ミールムさんのおかげで、無事、主を譲ることも叶いました

ちゃんとした正当な後継者が選ばれて本当によかった

ミールムさんは、私の守護者になってくれました

そして、そのまま、一緒に旅をすることになりました


実体化したミールムさんは皆に見えるようになりました

そうして、私たちのパーティは五人になったのです




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ