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死にたがりの英雄 〜俺の間違いだらけの人生〜  作者: 武天 しあん


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12.広まる名声に恐怖する


夜中に、野盗はこなかった。

夜目が効く者は少ないし、月明かりが明るい日でないと、ライトの魔道具や松明を持っての移動になる。

そんな分かりやすい方法で近付くことは、いくら頭の悪い野盗でもしない。


その代わり、魔獣は何度か近寄って来た。

1体は小さなサーペント、もう1体はグリズリー。

いずれも彼らが起きてしまわないよう、音を立てないよう鳴き声を出す間を与えることなく喉を切り裂いて倒し、血抜きのために下に穴を掘って木に吊るしておいた。




朝の彼女への祈りを終えて少しすると、商人の男が起きた。


「あぁ、リオさんおはようございます。

昨晩は番をしていただいてありがとうございました。」

「あぁ。おはようございます。」




「ヒィィィイ!」


商人の男は俺に朝の挨拶をすると、森の奥へ用を足しに行って叫び声をあげた。


なんだ?魔獣か?野盗か?俺でも気付けない何かが来たのか?

急いで向かうと、木に吊された魔獣に驚き腰を抜かす男がいた。


「すまない。夜中に襲ってきた魔獣の血抜きをしていたんだ。言うのを忘れていた。驚かせるつもりはなかったんだが、申し訳ない。」


「なんだ!?」


商人の叫び声を聞いてプラートも起きて駆けてきた。


「すまない。俺のせいだ・・・。」

俺は彼らに夜中に襲ってきた魔獣を血抜きのために吊るしていたことを謝った。



俺は本当にダメな人間だ。情けない。

少し考えたら分かることなのに。

今も昔も思慮が浅いのは変わらないのか。

全く学習していない自分に、心底嫌気がさした。



「申し訳ない。」


俺は頭を下げた。


「いえ、俺こそ護衛なのに夜中に魔獣が来たことにも気付かず呑気に寝ていた。リオだけに戦わせて申し訳ない。」

「私こそ、リオさんがいてくれたから安全に眠れたのに、こんなことで騒いで申し訳なかった。」


「いえ、2人ともどうか頭を上げて下さい。」


頼む。俺のような人間に頭を下げるのはやめてくれ。


「分かった。しかしリオ、いつの間に倒したんだ?情けないことに俺は全く気付けなかった。」

「2人を起こさないよう、音を立てずに倒したから、気付かなくても仕方ない。」


「音を立てずに?鳴き声も聞こえなかったように思うが。」

「あぁ、鳴く前に喉を切り裂いて倒したからな。」


「やはりリオはただ者ではないんだな。」

「そんなことはない。」


「もしかしてリオ、あぁ、なるほどな。そうか。」


プラートが何かブツブツ呟いていたが、内容は聞き取れなかった。



「本当だ。よく見ると、グリズリーは喉にしか傷がない。サーペントも頭にしか傷がない。こんなに綺麗な状態で倒せるものなんですね。ぜひ買い取らせて下さい。」

「それは構わないがいいのか?」


「えぇ。これほど状態のいいものは確実に高く売れる。幸い荷台に空きもありますし。ぜひ!」

「あ、あぁ、分かった。」


距離をどんどん詰めてくる商人の気迫に、俺は了承するしか無かった。

元々血抜きはしてみたものの、何に使う宛ても無かったのだし、問題はない。


もう血抜きもできているだろう。

俺は魔獣を持ち上げて馬車まで運んだ。


魔獣を見た馬が少し暴れたが、死んでいることを伝えてどうどうと首筋を撫でてやると、すぐに落ち着きを取り戻した。


俺は馬まで怯えさせてしまった。

俺が迷惑をかけるのは、人だけではないようだ。

本当に情けないことだ。


今すぐに喉を切り裂いて詫びをしたいと思う気持ちはあるが、そんなことをすればもっと危ない奴になってしまうことくらいは分かる。

彼らに責任を感じさせたくもないし、彼らに人が死ぬところをわざわざ見せるような非道なことはできないと思うと、実行できなかった。


いや、ショートソードで首など上手く切れんだろう。俺はできもしないことを、バカバカしい。



翌日、少数の野盗が一度襲ってきたが、近付く前にサッと倒して終わった。

その後、1時間ほど進むと街が遠くに見えた。


やっと街にたどり着いたか。



「リオさん、ありがとうございました。これは護衛の報酬と、魔獣の買取金額です。」


そう言って小さな布袋を渡された。

俺は中身は見ずそれをポケットに入れた。


「あぁ。では、俺は冒険者ギルドに寄る。あなたたちもこの先進むのであれば、どうかお気をつけて。」

「ありがとう。」



ギルドを探して街の中心まで歩いていくと、歌を歌っている人がおり、その周りには人だかりができていた。


あれが吟遊詩人というやつか。

吟遊詩人とは、あれほど人が集まるものなんだな。

俺も少し聴いてみるか。娯楽を興ずるなど、俺がしていいことではないが、別に楽しむために聴くわけではない。

ただ、前に俺のことが歌になったと聞いたから、どんな歌なのか内容が気になった。



『その名はリオ~』


は?いやまさかな。



「今の歌はどんな内容だったんだ?」


近くで歌を聞いていた老齢の男に尋ねた。


「お前さん終わりしか聞けなかったのか。残念じゃったな。最近流行りの英雄リオの歌だ。」

「英雄リオ?」


「あぁ。隣国で活躍した英雄がいるらしいんじゃ。わしは3つの物語しか知らんが。

ゴブリンを倒した話と、オークを倒した話があってな。オークを倒した話は2つあるんじゃ。

群を倒して街を救った話と、森で襲われた人を助けて怪我人に貴重なポーションを惜しみなく使って代金は要らんと言った話じゃ。」

「そ、そうか。」


「きっとまだまだ物語は増えるんじゃろう。わしも英雄リオを一眼でいいから見てみたいのう。」

「そうだな。」



なぜだ?俺は森を自力で走っていたのだから、街道を馬で駆ける人がいれば、情報が俺より先に届くのは不思議ではない。

いや、気になるのはそんなことじゃない。


なぜ俺のことが歌になっているんだ?そしてなぜゴブリンだけでなく、希望の翼を少し助けたことやオーク討伐に参加しただけのことまで歌になったんだ?

恐ろしい。


そうか。これも罰の一つか。

吊し上げて、注目を浴びせた上で、逃げ道を断ち、そして人々が恐怖するような悪名を与えられるんだろう。

そうに違いない。


俺の最期は、人々に軽蔑の目を向けられ、嬲り殺しにされるのかもしれないな。

それはそれでいい。酷い死に方ができるなら、それでもいい。

ただ、その日が来るまで、少しでも彼女に近づきたい。できることなら、彼女の墓前に花を手向けて死にたい。



しばらくは大人しくしていよう。目立つことをすればどうなるか分からない。

俺は足早にその場を去ると、冒険者ギルドへ向かった。


「地図を見たい。」

ギルドカードを受付に見せてそう言った。


「リオ?」


受付が口にした俺の名に、ギルド内が静まり返り皆が一斉に俺を見た。

なんだ?



「リオだと?あのリオか?」

「いや、ただ同じ名前なだけだろ。」

「だろうな。」

「あれは隣国の話だ。この国にいるわけがない。」

「いやしかし、リオは旅をしているんだろ?」

「そうだがあいつが英雄リオではないだろ。こんな何もない街に寄るわけがない。」

「そうだな。」



俺は今までに向けられたことのない、視線を向けられ、居心地の悪さを感じて顔を歪めた。


「あ、すみません。地図でしたね。クエスト掲示板の横に貼ってあるのでご自由にどうぞ。」

「あぁ。」


俺はさっさと確認してギルドを、この街を出ることにした。

ここのギルドではGランク掲示板の横に地図は貼ってあった。


帝国が荒れているようだし、もう少し南へ移動してから西に進むか。

あと5日も南へ移動すれば、帝国の手も届かないだろう。


俺は地図を確認すると、すぐにギルドから出て、そのまま街も出て、すぐに森に入った。




申し訳ございません。あなたを死に追いやった悪魔のような俺が英雄だなど、馬鹿げている。

人々の楽しみを奪いたいわけではないが、あのような歌はやめてほしい。どうせ最後は、いい人のような皮を被った悪党だったというオチなんだろう。

どこまで広がっているのか分からないのがまた怖い。


ギルドでは地図は掲示してあることが多い。カードを見せずに掲示板へ直接向かって地図を探せば今日のようなことは起きない。

次にギルドで地図を確認するときはそうしよう。探しても見つからない時だけ受付に聞けばいい。


閲覧ありがとうございます。

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