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会津遊一 ホラー短編集

私は遭難した。

作者: 会津遊一

私は遭難した。


5人の友達と登山をしていたのだが。


その途中で、猛吹雪に襲われてしまったのだ。


粉のような雪だったので、ゴーグルを付けていても視界はゼロだった。


 しかし、幸いな事に。


なんとか吹雪がしのげそうな小屋を見つける事が出来たのだ。


私達は、これで助かると喜び合い、救助が来るまでここで過ごす事にした。


小屋には何も置いてなかったが、私は大丈夫だろうと楽観的に考えていた。




 だが、それから数日経っても、助けが来る事はなかった。


運が悪い事に台風までもが重なってしまったのだ。


私達は、本当に助かるのだろうかと不安で夜も眠れなかった。


夜は死ぬほど寒かったので、友達同士で寄り添って暖め合った。




 更に数日後。


友達同士で喧嘩が始まった。


何故こんな所に連れてきたのだとか、食料がないのにどうするんだとか。


そう、私を含めた6人は、お互いを罵り合った。


私達は仲が良かったのに、お互いの事を本気で憎みだしてた。


最後は、小屋の中で同じ空気を吸っている事さえ嫌になっていた。




 そんな中。


2人が死んだ。


小屋には毛布がなかったので、どうしても寒さに絶えられなかったようだ。


朝起きたら、氷のように固まっている友達の姿があった。


生き残った私達は、2人の服を脱がして平等に分けた。




 その次の日。


また2人が死んだ。


小さな言い争いから、お互いが首を絞めた殺し合いにまでなったのだ。


弱っている私には、顔をダルマのように真っ赤にさせている友達を止める事は出来なかった。


とりあえず、その2人の服を脱がせると、生き残った者で平等に分けた。




 その次の日。


最後の友人が、こんな事を言い出した。


「映画とかで遭難した人間が、先に死んだ奴の肉を食べるって話あるよな」


と。


私はゾッとした。


そんな事を考えた友人にではない。


その時、空腹からクゥーと胃が鳴った自分に対してだ。


私は友人に、そんな恐ろしい事は出来ないと言った。


それはまるで、自分に言い聞かせているような気がしていた。




 その次の日。


最後の友人が死んでいた。


死体に噛み付いたまま凍死していたのだった。


その顔は満面の笑みに包まれており、とても幸せそうに見えた。


私は服を脱がせると、壁の隙間から風が入ってこないように詰め込んでおいた。




 その次の日。


私はもう限界だった。


梅干しのように縮まった胃と、死ぬかもしれないという恐怖で気が狂いそうだった。


あの感情を掻き消すように何度も頭を壁に打ち付けた。


だが、頭に浮かぶのは友人のあの言葉だけで合った。


私は歯を食いしばり、嗚咽おえつらしても耐えた。




その次の日。


私は食べた。




救助が来たのは、その日から更に4日後だった。


私は救急ヘリで輸送され、病院に入院する事になる。


検査の結果、かなり衰弱していたが異常は無かったらしい。


 ただ右手が熱いのですが、と私は往診に来た医者に伝えた。


「アナタには不整脈の予兆がありますので、それが原因でしょう」


そう笑顔で説明してくれた。


その顔。


心配してくれている顔を見た時。


私の中で、何かがぷつりと切れた。


抑えられず、医者に小屋で合った事を全て話した。


友達を食べた事も。


 だが。


聞き終えた医者はいぶかしむ。


「それは変な話ですね。見つかった死体は全て綺麗なものでしたよ。歯形は一つだけありましたが」


そう説明され、私は混乱した。


それでは、あの雪山での出来事は、どういう事なのだろう。


何が。


どうして。


熱い。


 ふと、私は熱くなっている右手を見た。


すると、親指と人差し指の間から、もう一本指が生えていたのだ。

  

 これは誰の指だ。


私はそう呟いて、気絶したのだった。  

  

 

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― 新着の感想 ―
[一言] これはホラーというより、ミステリーのように感じてしまいました。 それはきっと、私がわかっていないせいだと思います(笑) 六本目の指が強いインパクトを放っていますが、それが生えてきたという状況…
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