第99話 指名依頼1。勇者たち
防衛省のD関連室との有意義な会議を終え、俺と華ちゃんは日本で遊ぶこともなく屋敷に帰ってきた。
「いちおう一般人に成れた上、国家公務員に成ってしまったな。華ちゃんなんか女子高校生国家公務員だ。アッハッハッハ」
「岩永さん、よしてください」
そんなことを二人で話していたら、話し声を聞きつけたのか、リサが居間にやってきて、
「ご主人さま、お帰りなさいませ、ハナさん、お帰りなさい。お茶をお持ちしました」
「ただいま。ありがとう」「リサさんただいま。お茶ありがとう」
「子どもたちは?」
「4人がかりで洗濯しています」
「そうか。うーん。洗濯は大変だからそろそろ何とかしたいところだな。
やっぱりどこかの電気工事屋さんを頼んで、ポンプを入れて、物置小屋ももう少しちゃんとした方がいいよな」
「電気工事屋さんを呼んで大丈夫でしょうか?」
「それは、守秘的という意味かい?」
「はい」
「この前、エアコンの工事をホームセンターに頼んだんだから何とかなりそうではあるけど、国家公務員となった今、なんら制約はないと言われたものの節度は必要だよな。
そうだ! いいことを思いついたぞ!」
「なんですか?」
「いちおう俺たちは防衛省の職員だ。
職員の社宅は親方日の丸が住居環境についてなにがしかの補助をしてくれてもいいと思うんだ」
「はあ」
「ということで、川村室長を泣き落とせば、自衛隊の施設部隊でこの屋敷の近代化というか現代化がはかれるんじゃないか?」
「自衛隊の施設部隊がそういった仕事をしてくれるのか分かりませんが、頼んでみてダメならそれまでですから、頼んでみてもいいと思います」
「よーし、あまり頻繁に向こうに顔を出していると有難みが薄れるかも知れないから、来週にでも顔を出してやろう。いや、向うにいく2、3日前にスマホで野辺副室長に連絡して、それからいこう」
「そうですね」
その日はそんな感じで終え、翌朝。
華ちゃんに、
「日本にいくのは明日か明後日俺が向こうに跳んで連絡を入れてからだから。それまでの間、北のダンジョンにいってマトモなダンジョンの雰囲気を味わってこないか?」
「冒険者が沢山いるというお話でしたが、大丈夫でしょうか?」
「はっきり言って、華ちゃんより強い冒険者なんていないんじゃないか?」
「そんなことは」
「それはおいても華ちゃんも冒険者登録しておいた方がいい。
冒険者になったからと言って、たいしたご利益があるわけじゃないけど、最初のFランクからランクアップすると何だかんだで、嬉しいもんだからな。ご利益はないが醍醐味はあるってとこだ。
さっそく、冒険者ギルドにいって登録してしまおう」
「はい」
俺と華ちゃんは防具を着込んで冒険者ギルドバレンダンジョン支部の近くに転移した。
二人で開けっ放しのギルドの扉をくぐり、空いていた窓口カウンターに向かった。
俺たちの格好はいつもの戦闘服姿。少し黒ずんだ赤茶けた革鎧のほかは黒づくめのかなり渋い出で立ちなのだが、頭にかぶった銀色のヘルメットの輝きが妙に浮いているのがご愛敬だ。
一種異様な俺たちを目にして、ギルドのホールの中にいた連中が振り向いた。
だからと言って俺たちがどうするわけにもいかないし、他の連中もどうすることもなく、二人並んで窓口カウンターに向かった。
「冒険者ギルドにようこそ」
窓口のギルド嬢が定型文で迎えてくれた。前回俺を担当してくれた女性とは違う受付嬢だったがこちらも美形で同じように貫禄がある。
「冒険者の登録をお願いします」
「はい。
登録するのは、そちらのお嬢さんですね?」
「そうです」
「この用紙に必要事項をお書きください。登録料は銀貨三枚です。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
「華ちゃん、いま何歳?」
「16歳です」
「生年月日は?」
「10月12日」
「お姉さん、いま16歳で誕生日が10月12日だと何年生まれ?」
生年月日など適当でいいのだろうが、真面目に書いていないとあとあと困ることがあるので、ちゃんと確認した。
「634年になります」
受け取った用紙に、
名前:ハナ
出身:ニホン
性別:女
生年月日:634年10月12日
職業:魔法使い
特技:魔法全般
と、書いて受付嬢に渡した。
「ギルド証を作りますので、しばらくお待ちください」
あまり待つこともなく、ギルド証ができ上がった。
でき上がったギルド証を華ちゃんが受け取ったところで、型通りの説明を受けた。
説明を聞き終わった俺たちはギルドを出ようとしたのだが、Bランクの俺には指名依頼があるかもしれないので、掲示板を見るように言われていたことを思い出した。
「ちょっと、掲示板を見てみよう。Bランクの俺に指名依頼が入っているかもしれないからな」
華ちゃんを連れて、掲示板の前にいって、貼られた紙を見ていく。
「指名依頼、指名依頼、……」
「あっ! ありました。
ここです」
「ほんとだ。なになに?」
『Bランク冒険者、ゼンジロウ殿
依頼あり』
「これだけじゃ全然内容がわからないじゃないか。それでも見てしまった以上仕方がない。
他の連中は紙を持って受付にいっているようだから、面倒だが俺たちもそうしよう」
俺は、その指名依頼の書かれた紙を掲示板から外して再度受付に向かった。
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こちらは勇者山田圭子とレンジャーの田原一葉。相変わらず第1層から階段を300段下りた第2層の中で4面に扉の付いた部屋の探索を続けている。しかも毎日神殿から往復しているため探索は遅々として進んでいない。
レンジャーで探検Lv3を持つ田原一葉であるが、善次郎の持つオートマッピングスキルを持っていないため、手にしたバインダーの上の紙質の良くない紙にペンでマップを描き込んでいる。そのことも田原一葉を苛立たせている。
ただ、トーラス的ゲームの知識のない二人では、彼らのいる第2層がトーラス構造をしていることに気づけない可能性が高い。
「もう、この部屋一体いつまで続くの!?」
「知るわけないでしょ!」
二人ともかなり不機嫌だ。
二人の後ろには『赤き旋風』の4人が付き従っているが、もうじき契約終了なので心持ち気分は軽い。




