第74話 食事回
オウムのピョンちゃんの具合が悪かったのは空腹のためだったようだ。応急処置でヒールポーションが効いてくれたので食べる元気が出たのだろうから、ヒールポーションさまさまだ。
「楽園リンゴはいいけれど、他のものは食べないのかな?
オウムは雑食かどうかわからないが、フライドチキンを買ってきたから食べさせてみるか?」
「オウムのピョンちゃんに鶏肉ですか?」
「ニワトリとオウムとではブタとヒトくらいの差はあると思うぞ」
「そう言われれば」
「それに、ピョンちゃんはダンジョン育ち。地球育ちのニワトリとは根本的に違う」
「確かに」
アイテムボックスからフライドチキンの入ったビニール袋を取り出し、中に入っていた紙箱の中から、念のため骨なしチキンを1つ取り出して、エサ箱の中に入れてやった。猫に骨付き鶏肉をやると、骨が喉に突き刺さるとか聞いたことがあるからな。
楽園リンゴをまるまる一つ食べて元気になったピョンちゃんは、止まり木に止まって羽づくろいをしてフライドチキンを見向きもしなかった。フライドチキンのスパイスの臭いはかなりきついものな。
食べないものをエサ箱の中に放ってはおけないので、骨なしフライドチキンはアイテムボックスに回収しておいた。素材ボックスに入れておけば、ハンバーガーか何かの肉に化けるだろう。
「ピョンちゃんもいちおう元気になったようだから、俺たちもそろそろ昼にしよう」
「「はい」」
みんな揃って食堂にいくと、ちょうどリサがサラダの入った深皿をテーブルの上に並べているところだった。
俺を見つけたリサが「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
子どもたちはすぐに台所に走っていって、残りのサラダとナイフやフォーク、それに取り皿を運んできた。
俺はケチャップのチューブをテーブルの上に出し、
「フライドポテトがあるから小皿も頼む」
子どもたちが小皿を運んできて、全員そろって席に着いた。
「それじゃあ、今日の昼食はフライドチキンとフライドポテトだ。足りなかったらハンバーガーがあるからな。フライドチキンは鶏肉を油で揚げたもので、周りに濃いめの味が付いてるからそのままがぶりと食べればいい。フライドポテトはいつものと変わらないと思う」
そう言って、フライドチキンセットの入った紙箱を二つテーブルの上に置き、フライドポテトの入った紙袋をみんなに配った。
「フライドチキンは一人2つだから、適当に取り皿にとって食べること。手でつかんでもいいが、手がべとべとになるから、この紙を使って掴めばいい」
そう言って店で付けてくれた紙ナプキンをみんなに配った。
「その紙が足りなくなったら、ティッシュを使えばいいからな」
テーブルの隅にはいつもティッシュの箱を置いているし、みんな使い方は分かっている。
「平べったくて同じ形をしたのは骨無しの鶏肉だ。さっきピョンちゃんに1つ出したから全部で8個。これは一人一個だな。俺的にはあまり好きじゃないので、誰か二つ食べたかったら俺のともう一つあるからな。
骨付肉を食べて残った骨はこの中に」
セットの箱が入っていたビニール袋をテーブルの上に広げておいた。
「飲み物は何にする? フライドチキンにはコーラが合うと思うぞ」
俺の好みを押し付けているようだが、押し付けているわけではなく俺の好みをみんなに教えているだけだ。
「「コーラで!」」
子どもたちは奴隷商館でそれなりの教育を受けてきたようで、世間のこともちゃんと知っているようだ。
ということなので、俺のも含めて500シーシー入りのペットボトルを人数分出した。もちろんペットボトルの蓋の開け方もみんな知っている。
「それじゃあ、いただきます!」
「「いただきます」」
俺が向こうで買ってきたちょっとお高いドレッシングの瓶が2本ほどテーブルの上に置いてあるので各自ドレッシングをサラダにかけて食べ始めた。
「じゃあ、これを食べてみるね」と、オリヴィアがフライドチキンに手を出した。
「わたしはこれ」「じゃあ、わたしはこれ」、……。
みんな、骨付きフライドチキンに手を出した。
「ちょっと変わった味だけど、すごくおいしい」
「わたし、これ好き」「わたしも」
「ゲプッ!」
フライドチキンも好評だった。
ピョンちゃんのことですっかり忘れていたのだが、
「華ちゃん、実は、……」
華ちゃんに日本に出現したピラミッドとダンジョンの話をしておいた。
「そんなことがあったんだ。
あそこの公園は学校への行きかえりに駅までの近道だから通ってたんですよね。
でも、大ごとになっていないようでよかった」
「まったくだ。
ここでの生活が快適なのは、日本の社会が落ちついてくれているからだものな」
「これから、日本ってどうなるんでしょう?」
「俺のラノベ知識からいって、日本でも一般市民が日銭稼ぎに冒険者に成ってダンジョンに入ってモンスターを斃したり、財宝や貴重な資源を持ち帰るようになるんじゃないか。
そのうち冒険者の中でも才能のあるやつは抜きんでてくるだろうから、メディアにスターに祭り上げられて、チヤホヤされると思うぞ」
「でも、あくまで一般人ですよね」
「そうだな、俺達みたいなスキルを持っていない以上、ただの一般人だが、俺たちの持っているスキルブックみたいなのがそのうち発見されて、スキル持ちが現れるかもしれないぞ。俺たちには今のところ使い方がわからなかったけど、何せ向こうは大人数で寄ってたかって研究できるわけだから、すぐに使い方なんてわかってしまいそうだものな。
もしそうなら、俺たちもその情報を使えるからありがたいじゃないか」
「岩永さんは凄いスキルを持っているわりに無茶な使い方をしていないけど、スキルを手にしたら人が変わって無茶をする人も多く出るかも知れませんよ」
「俺も大概無茶をしているとは思うが、人に迷惑をかける気はない。という意味ではおとなしいからな。
色々な人間が出てくればルールは必要になるのは当然だから、なにがしかの公的な組織ができるかもな。公益法人『日本冒険者協会』とかな」
「ありそうですね」
俺と華ちゃんがそんな話をしていたら、普段口数の少ないイオナがめずらしく、
「ご主人さまの国ってどんなところなんですか?」と、聞いてきた。
「そうだな。色々な物品で溢れかえっていて、お金さえあればすごく便利な国だ。人の数もとてつもなく多い。
居間にあるアニメを映している機械は俺の国のものじゃないかもしれないが、俺の国でも作っている。たまに見ているアニメも俺の国で作っている」
「いってみたいなー」
「そうだなー。お前たちを連れていってやれないこともないんだが、大人だったらどんな服装をしていようが誰も何も言わないが、子どもが変わった格好をしていると、虐待ととられかねないからな。まずは着るものを揃えないといけないな。それに、4人も顔形の似ていない女の子を俺のようなおっさんが連れ歩いてたらいつ通報されるか分からないしな」
「通報って?」
「官憲に、あの人は犯罪者かもしれないって報告することだ」
「そうなんだ」
「でも、わたしが4人に付いていれば大丈夫でしょう」と、華ちゃん。
「それもそうか。焦る必要はないから、少しずつ準備しておこう。まずは子ども服からだ。揃えておいて無駄にはならないだろう。
だけど、華ちゃんだってあの界隈を歩き回れば、華ちゃんを知ってる人に会うんじゃないか?
というか、今まですっかり忘れていたけれど、華ちゃんたち3人が失踪中だというんで、3人の顔写真があのスーパーの掲示板に出てたぞ」
「さすがに失踪届が出てますよね。
こんど日本にいくことがあれば、変装した方がいいでしょうか?」
「今さらだが、本当にうちに帰らなくていいのか? 学校だってあるのに」
「良いんです」
「好きにしてくれていいことはいいんだがな」




