第72話 異変
俺は日本用普段着を着て、いつものように台所への上り口に転移し、靴を脱いで部屋にあがった。
スイッチを入れたまま充電器に入れっぱなしにしていたスマホを充電器から外してポケットに入れておいた。当然スマホはフル充電だ。
俺の錬金工房ならスマホなど簡単にコピーできる。しかし、でき上ったコピーと元々のスマホは全く同じものなので、信号か何かがバッティングする可能性があるから同時にはアイテムボックスの外には出さない方がいいだろう。さらに言えば、入れ替えるたびに空白期間の情報を携帯会社に要求するような気がする。ちょっとマズそうなので、スマホのコピーは止めることにした。
電池を簡単に交換できる機種ならよかったが俺のスマホは少なくともショップに持っていく必要があったはずだ。世の中便利になっていくようで逆に不便になってるところがちらほらあるよな。
アパートでの用事はスマホだけだったので、再度玄関代わりの台所への上り口で靴を履いていたら、アイテムボックスに入れておいた生ごみのことを思い出した。今日は燃えるごみの収集日だったハズ。なんだか日本に帰ると急に所帯じみてしまうな。
アパートを出てドアに鍵をかけ、アパートの住人用のゴミ捨て場まで歩いていったら、ゴミ捨て場にごみ袋は一つも置いていなかった。
「あれっ? おかしいな。今日は燃えるゴミの日だったはずだが」
スマホを出して曜日を確認したら、ちゃんと燃えるごみの収集曜日だった。うちのゴミ捨て場のゴミ収集はいつも午後近くだったのでまだ収集車はきていないはずなのだが。
「おかしいなー。誰も燃えるゴミを出していないはずはないんだが。収集日が変わったとかで回覧板が回ってたのかな? 回覧板はみなかったけど、いつも不在だから俺を飛ばしたってことは十分あり得るからな。
俺だけ燃えるゴミを今日出してそれがずーっと残ってたらマズいし、今日はゴミを出すのはやめておこう」
ゴミ出しは諦め、俺はいつもの大型スーパーに転移した。
転移先はスーパー内のトイレの先だったのだが、辺りが暗い。非常灯しか点いていない?
「あれ? 今日は休みだったのか? おかしいなー」
食料品売り場まで歩いていき、そこから出入口を見たら確かにシャッターが閉まっている。
「ほんとに休みだったんだ。おかしいな。ここって朝の7時から開店して1年365日年中無休だったはずなのになー」
何だか様子が変だ。
「このスーパーで何かあったのかな? スマホでちょっと調べてみるか」
スマホでスーパー〇◇#を検索し、ホームページに飛んだら、臨時休業のお知らせが最初のページに載っていた。
『〇◇#、XXX店は避難指示地区に指定されたため、当分の間休業いたします』
XXX店は俺が今いるスーパーだ。
アパートからでた時見えた空は青かったと思うが、大型台風でもきているのか?
俺は何かニュースがないかと思い、webニュースをスマホで調べたところ、
黄金のピラミッド、ダンジョン、自衛隊、そういった言葉が躍っていた。
なんじゃー??? 俺は驚いて記事を読んだ。
「……。俺が向こうにいっている間にこんなことが起こっていたのか。日本もとうとうファンタジーの世界になってしまったなー。
とはいえ、このスーパーの系列も1店舗だけ閉まっているだけであとは開いているようだから、一応社会は落ち着いているってことだな」
「うん? 平均株価は上がってる? どうなってんだ?」
記事を見ると、ダンジョンこそは希少な資源を生む宝の山の可能性があるということだった。日本のダンジョンは実際のところどうなのかはわからないが、ニューワールドのダンジョンはそういった意味合いがあるかもしれない。可能性はいつだって無限大だからな。
他の記事も読んでみたが、ダンジョンに対する危機感は非常に薄いようで、現在の避難指示は明日、明後日には解除されるのではないかと言われているようだ。
肝心のピラミッドだが、その一つが俺のアパートに近い公園の中に出現したようだ。ということは俺のアパートは避難命令区域だったようだ。確かに走っている車を一台も見ていないような気がする。そういうことならゴミ収集車も来るわけないからゴミを出さなかったことは正解だった。
ピラミッドの出現した公園は結構広い公園なのだが、自衛隊が囲んでいるとなると周囲は自衛隊の車でいっぱいだろう。一度その金色ピラミッドを見てみたいが、一般人では近寄れないようなので今日は諦めるしかないな。
俺は当てにしていたスーパーが使えなくなったので、隣町のスーパーにいくことにした。そのスーパーは商業ビルの地下にあるのだがそのビルの中も含めてほとんど記憶にないので直接跳んでいけない。それでも近くには跳んでいけるから、そのスーパーである程度の物を買ってしまおう。商業ビルの近くにはフライドチキン屋もあったはずだ。寿司屋についてはこっちに帰ってきて駅を越えた反対側へ行けば天ぷら屋の並びに一軒あったはず。
隣街に転移して、そこから目当てのスーパーに向かったのだが、街の中はいたって普通。道には車もバスも走っているし、歩道の上には人が行き来している。ピラミッドとかダンジョンとか関係なく世の中が動いていることに安心した。ただ、俺の歩いている歩道が付いた道は国道だったと思うが、近くにピラミッドがあるせいかたまに自衛隊の車両が走っていた。自衛隊も緊急車両ならパトカーみたいにサイレンを鳴らすのかもしれないが、いたって普通に走っていった。
やってきたここのスーパーは食料品しか売っていないスーパーだ。扱っている商品はやや高級なものだし、うちの近くの大型スーパーのようなプライベートブランドばかりということはない。
俺は店のカートを押して目当ての牛乳、小麦粉をカートにかなりの量入れて、目に付いたバターもそれなりの量カートに入れておいた。
総菜コーナーに回ったら、いろいろ並んでいたがそっちはイマイチだったので手を出さなかった。
さして広くもないスーパー内を一回りしたが、他にはこれといって買うものもなかったので、そのままレジに回った俺は精算してすぐにそのスーパーを後にした。




