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第524話 魔神のハンマー9。パサント彗星


 華ちゃんは別に怒っていたわけではなかったようでそれから雑談をしたりしているうちに、作戦決行の2時間前、日本時間の午前6時半になった。


 その間に俺たちは水代わりにスタミナポーションをストローで飲んでいる。無重力状態でのは何とかなったが、の方はまだ試していない。


「華ちゃん、何か食べる?」


「いえ、いいです」


「ホントに?」


「はい」


 華ちゃんも食べないようだ。無重力状態で食べるのはなかなか難しそうだし、喉が詰まったりしたら大変なので作戦決行まであと2時間だから控えておいた方が無難だよな。


 俺は食べることから話題を変えて、


「見た感じ違いは分からないけどだいぶ近づいてきたはずだから、アイテムボックスに収納できるか試してみる」


 俺は頭上のパサント彗星に向かって収納を試みたが収納できなかった。引っ掛かりがないというか、何かがすっぽ抜けたというか変な感じだ。


 仕方ない。10万キロまで近づいて、そこでもう一度試してそれでダメなら6角柱攻撃だ。


「やっぱり収納できなかった」


「できない以上仕方ないですから。

 6角柱で砕いてから地球に落っこちそうな破片に収納を試してみればイケるかもしれませんよ」


「それもそうだな」




 日本時間で午前8時30分になった。距離計やレーダーなど何もないので時間だけが頼りの作戦だが、とにかく希望号はパサント彗星まであと10万キロまで迫ったはずだ。天井から見えるパサント彗星に収納を試したが前同様収納できなかった。


「収納はやはりできなかった。

 華ちゃん、6角柱攻撃いくぞ」


「はい」


 二人揃って頭上の彗星を見つめ、俺は6角柱がまっすぐ彗星に向くよう希望号の真上に6角柱を排出した。


「排出!」


 うまくいった。6角柱は希望号と同じ速度で飛んでいるので、ただ頭の上にまっすぐ立っているように見える。


「アクセラレーション!」


 華ちゃんの声と同時に6角柱が遠ざかり始め、20秒ほどで見えなくなってしまった。



 それから15分が経過した。パサント彗星がぼやけて見え、それからゆっくりと膨らみ始めた。そしてはっきりとバラバラになって広がっていった。


「やった! あとは地球に落っこちそうな破片の処理だ」


「彗星とこの希望号との距離は10万キロ-30キロ×(15分=900秒)=7.3万キロですから、7.3万キロ÷30≒2400秒。あと40分ちょっとで破片が近くを通ります」


「できれば大きい破片から収納したいが、横に広がった破片はどう見ても地球に落っこちそうにないから、広がらずに飛んでる破片だよな。そうだ! 双眼鏡があった。アレで見ながら収納を試してやろう」


 双眼鏡で希望号の天井越しに6角柱攻撃で砕けたパサント彗星を見上げると、横方向の動きが極端に遅い破片が5、6個あった。こいつらはおそらく地球に衝突する。


 試しに一つ収納を試みたところ、うまく収納できた。残りも試したら全部収納できた。アイテムボックスの中を確かめたら、一番大きいもので長さで5キロはあった。小さいもので2キロ。


 次に比較的ゆっくり横方向に移動している破片を20個ほど収納してやったらもうそれ以上破片をアイテムボックスに収納できなかった。俺のアイテムボックスが満杯になったことは初めてだ。満杯と言っても隙間はあるだろうから、今まで通りの使い方は可能と思う。


 あとの破片はずいぶん横方向に逸れている。本当に小型の破片は地球の大気で燃え尽きるだろうから、これでミッションコンプリートと言っていいだろう。


「やったな」


「はい。善次郎さん」



 俺たちはそれから2時間ほど二人きりで星の世界を楽しんでいたら、だれかのお腹の虫が可愛らしく鳴ったので、希望号には悪いがそこで乗り捨てて新屋敷の玄関ホールに転移で戻った。



 玄関ホールにはなぜかアキナちゃんが待っていた。


「もう少しゆっくりしてくると思っておったのじゃが? やることは、……。ふーん。

 まっ、その程度でも大進歩じゃ。二人ともよかったの」


 それまで俺の手を握っていた華ちゃんが手を放し、若干顔を赤らめて2階へ駆け上がっていった。


 俺も何となく気まずかったので、


「ちょっと疲れたから上で横になってくる」


 そう言って階段を上っていった。


 後ろからアキナちゃんのヒャッヒャ笑いが聞こえた。



 それから間をおかず昼食になり、今回の彗星破壊の一連についてみんなに話しをしておいた。


 親父は意味が分かっていなかったのか「ほー」の、一言だけだった。


 当然最後の2時間については話してはいない。アキナちゃんは目だけで笑っていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 パサント彗星が砕け多くの破片が消失したことは日本からでは観測できなかったが地球の裏側でまだ生きていた数カ所の天文台がこれを観測し、全世界に向けて短波放送した。その電波は日本でも受信された。


 防衛省でも最後まで市ヶ谷の庁舎に残っていた防衛省情報本部の電波部部員によってその電波を受信しており、同じく最後まで庁舎に残っていたD関連局の職員を通じて、善次郎のスマホに問い合わせが届いたのだが善次郎のスマホはアイテムボックスの中だったので繋がらなかった。


 ちなみに日本国内の通信インフラは、規模は縮小されていたが維持されていた。



 その後、防衛省では善次郎のマンションにある固定電話に連絡を入れたところ、岩永アミカを名乗る善次郎の秘書が応対し、善次郎に折り返し連絡させるということになった。





『マスター。アスカ3号です』


 部屋の外から声が聞こえた。俺はベッドに横になって今日の出来事を反芻はんすうしていただけで、寝ていたわけではなかったのですぐに起き上がり、


「入ってくれ」


 部屋に入ってきたアスカ3号が、


「マスター、防衛省D関連局の野辺次長から電話がありました。折り返し連絡が欲しいとのことでした」


「サンキュウ」


 アイテムボックスの中からスマホを取り出して見たら、野辺次長から電話とメールが届いていた。内容は今のアスカ3号の報告と同じだった。


「はい、岩永です。何かありましたか?」


『岩永さん、お聞きしたいことがあってお電話しました』


「なんでしょう? わたしに答えられることなら」


『パサント彗星が砕けてしまい、同時に多くの破片が消えてしまった。という情報が入ったんですが、何か心当たりありませんか?』


「あっ、言い忘れてました。

 ちょっとパサント彗星の近くまで三千院さんと二人でいって、以前話した10キロの棒をパサント彗星にぶつけてみました。彗星がうまく砕けてくれたので、地球に向かって飛んでいきそうな破片をできる限りアイテムボックスの中に収納しておきました。うまくいって良かったです」


『そ、そうだったんですね。ではパサント彗星の脅威は去ったという理解でよろしいんですね』


「はい。小さな破片が地球の引力に吸い寄せられて落っこちてくるかもしれませんが大きなものは地球に落っこちないと思います」


『フー。

 ありがとうございます。どのような手段で宇宙に行かれたのかは分かりませんが、本当にありがとうございます』


「まっ、地球は今のままの形であった方がいいですものね」


『そうですね。わたしはこれから忙しくなりますので失礼します』


「はい。頑張ってください」



 避難先だいくうどうから地上への帰還は翌日午後から始まり2週間かけて完了した。



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