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第521話 魔神のハンマー6、宇宙船希望号1


 防衛省での会議も休会しており、世界各国からの情報はほとんど手に入らなくなった。分かっているのは各国の主要都市が荒廃しきってしまったことだけだ。


 そういった中、俺と華ちゃんはマンションのベランダから空気が澄んだことと、街の明かりがほとんど消えているおかげで星の数がやたらと多くなった日本の夜空を見上げていた。


 週末を前にしているが特にロマンティックな状況というわけではない。夜空に輝くパサント彗星を何とかできないか二人で実物を見ながら考えようと華ちゃんに提案されたからだ。衝突予想日まであと10日を切っている。


「あの彗星だけど、俺の指輪がおかしくなって、アキナちゃんもなんだか頭が痛くなったって話したことがあっただろ? あの彗星が地球に衝突すると分かった2日くらい前だったかな」


「はい」


「あのとき、魔神が最期に何かしたんじゃないかって話になったけど、あの彗星の軌道をねじ曲げたんじゃないかって俺は思うんだ。だって、あの彗星は地球から200万キロ離れたところを通過するハズだったんだろ?」


「そうでしたね。可能性は高いかもしれません」


「もしそうならあの彗星は『魔神のハンマー』だな」


「確かに」


「真相がどうであれ、今となってはどうでもいいけどな。

 パサント彗星の収納は無理になってしまったが、なんとかして破壊できないかな?」


「夜間なら今みたいにパサント彗星がはっきり見えますから位置は分かるんですよね」


「映画だとロケットで彗星に乗り込んで爆弾で吹っ飛ばしたけど、どこの国もロケットを打ち上げるどころじゃなくなってるみたいだしな」


「核ミサイルの管理だけはしっかりしてもらいたいですが、彗星が衝突すれば核戦争どころじゃなくなるわけだから、核ミサイルの脅威もある意味薄れましたね」


「どこかの狂人が、愉快犯的に核のスイッチを押すかもしれないがあまり意味はないものな。

 そういえば華ちゃん」


「何ですか?」


「今思い付いたんだけどな、6角柱覚えているだろ? 長さ10キロの」


「はい」


「あれって、華ちゃんの重力魔法で空に向かってどんどん飛んでいったじゃないか」


「そうでしたね。ネガティブグラヴィティーで引っこ抜いたらどんどん加速していきましたものね」


「あれってどこまで加速するのかなー?」


「全力でやれば地球の重力に逆らっても10Gで10分は加速するんじゃないかな」


「ということは毎秒98メートル、丸めて毎秒100メートルとして、600秒だから、秒速6万メートル=秒速60キロ。アキナちゃん効果とアキナちゃんの祝福で華ちゃんの魔法の威力は2倍強。秒速120キロ」


 いつぞや最終速度を秒速1000メートルとしたときの6角柱の運動エネルギーから生まれる破壊エネルギーはTNT換算で確か20キロトンくらいだったハズ。


 スマホを取り出してチョンチョンチョン。


 秒速120キロとなると運動エネルギーは120×120で14400倍。


 20×14400=288000キロトン=TNT換算288メガトン。これだけあれば彗星を破壊するのに十分じゃないだろうか?


 華ちゃんに大体の計算結果を教えてやり、


「華ちゃん、彗星に6角柱をぶつけてみないか?」


「やってみましょう。

 もしこれがうまくいったら6角柱って惑星に衝突する彗星を壊すために誰かが創った道具だったのかもしれませんね」


「そうかもな」


「岩永さん、今彗星は見えていますが、地球は自転も公転もしているから、撃ちだした6角柱はそういったベクトルを全部持ってるわけですよね。そして、彗星は10日後に地球が通る軌道上の位置に向かってるんですよね」


「その通りだ。となると、ここから彗星に向けて6角柱を撃ち出してもとてもじゃないが命中しないよな」


「本当にギリギリまで粘って撃ち込まないと外れちゃうでしょうし、真ん中に命中しないと彗星の端の方が削れるだけで残った部分ははそのまま地球に突っ込んでくるような」


「確かに。そうとう難しいな。

 彗星は大西洋に落っこちるわけだから、落っこちる直前だと日本からじゃ見えないし。うまく命中するか分からないがやるなら前日の夜間に決行するしかないか」


「宇宙まで飛んでいけたら、確実だと思うんですけど」


「宇宙かー。ロケットは用意できないらしいしうまくいかないな」


「岩永さん、ロケット作っちゃいませんか?」


「え? ロケット作っちゃうの?」


「密閉した筒の中に入って、そこから筒に向かってネガティブグラヴィティーを発動させれば筒は6角柱と同じように飛んでいくはずだから簡単です。

 筒自体は空気が漏れなくて1日分くらいの空気さえあればいいわけですから、岩永さんがコアに頼んで、周りが良く見えるように丈夫で透明なプラスチックか何かで作ってしまえばいいんじゃないでしょうか? 筒の重力を操れば操縦は簡単でしょうから彗星の正面に回り込んで、そこから6角柱を撃ち込めば確実に命中します。6角柱を撃つ前に宇宙から彗星を見て岩永さんが彗星を収納できればそれまでですし。

 帰りは円筒を乗り捨てて岩永さんの転移で二人で地球に戻ればいいだけだし」


「確かにいい方法に思えるが、問題は華ちゃんを宇宙に連れて行くことだな」


「失敗しても、岩永さんの転移でいつでも逃げられるわけだからそれほど危険じゃないと思います」


「うーん。

 取りあえずその宇宙船を作ってみようか? 宇宙船が思ったように飛ばなければ何もできないわけだし」


「はい」


 その日俺はアスカ3号に言って酸素ボンベと二酸化炭素の濃度計を発注するよう頼んだが、購入できませんでした。と、アスカ3号に言われてしまった。さすがにインパクトまであと10日。無理だったようだ。ドローン3号機用に用意した酸素濃度計でなんとか誤魔化すしかない。




 翌日。俺は華ちゃんを連れて、宇宙船を作るためコアルームに跳んだ。


「直径4メートル、高さ10メートルほどの中空の円筒を作ってくれるか。材質は丈夫で透明な樹脂で頼む。真空中でも空気が漏れないようにな。それとある程度の加速度に耐える強度も必要だ。5Gくらいかな。構造材があった方がいいなら鋼材か何かで適当に補強してくれ。

 床には二人分の椅子を頼む。椅子は床に固定な。それと椅子にはシートベルトを付けてくれ」


 アキナちゃんが同行してくれれば心強いが、出発前に祝福だけしてもらおう。ということで座席は俺と華ちゃんの二人分だけだ。


「できました」


 思っていた以上にでっかい宇宙船が目の前に立っていた。宇宙船の底にちょこんと椅子が2つ並んでいた。


「こうして見るとすごく大きいですね」


「中に空気が沢山あった方がいいと思って」


 容積は120立方メートルだ。人が1日に吸う空気は15立方メートルくらいだそうだから、二人合わせて30立方メートル。4倍もあれば十分だろ。


「そうでしたね」


「こいつは人類の希望だから名まえは宇宙船希望号だな」


「岩永さんらしくない名まえですね」


「変だったかな?」


「いえ、すごくいい名まえです」


 俺の命名センスの評価が高くないことは知っていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 人は避難したけど、動物たちは置いとかれたのかな?
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