第51話 ダンジョンアタック1、出入り口の部屋
前回同様結構な料金を払ってレストランを後にし、俺たちは転移で屋敷に戻った。
みんなで食後の一服ということでスタンドの明かりで明るく照らされた居間のソファーで寛ぎながら、
「そう言えば、神殿での食事はどうだったんだ?」と、華ちゃんに聞いたところ、
「神殿で出された料理はおそらく高級な料理だったのでしょうが、料理はたいてい冷めてしまって、マズくはありませんでしたがおいしくもありませんでした。果物だけはおいしかったです。
屋敷でみんなと食べる食事の方がよほどおいしいと思います」
お世辞にしてもそう言ってもらえれば、リサも嬉しいだろう。
「それは良かった。
疲れも出てくるころだし、みんなそろそろ寝てもいいぞ」
「「はーい」」「「はい」」
まだ時間は8時過ぎだが、俺もそろそろ眠くなってきたので、2階にある俺の部屋に上がることにした。ベッドに入ってその日の日課をこなした俺はいつも通りぐっすり眠ることができた。
翌日。朝の日課を終えて、食事を済まし、錬金術師ギルドと冒険者ギルドに子どもたちを送り出したあと、俺は華ちゃんを連れてもう一度昨日いったダンジョンを調べることにした。恐らく、ダンジョンの外では神殿の兵隊たちの数が増えているだろうと思い、直接ダンジョンに乗り込むことにした。
「華ちゃん、いつも通り俺の手を持ってくれ」
華ちゃんは俺の手を握った。こうして2人で転移する時は俺の手のひらを華ちゃんは握るのだが、大勢の時は遠慮して手のひらを握ってくれない。女子高生の心理はそういうものかもしれないし、このことを本人に言ってしまうと本人も身もふたもなくなりそうなので、俺は気付いているような、いないような顔をして「転移!」と口にした。
転移した先は、昨日のなぜか明かりもないくせに様子を見ることのできた10メートル四方の石室だ。
「ここが、ダンジョンの中」
4面ある壁のうち1面だけ壁の真ん中に例の黒い鏡がある。
「あの黒い鏡が出口らしい。今出ると神殿の兵隊たちに出くわすだろうから、出ちゃだめだぞ」
「はい。分かってます。
この部屋の中、明かりになるような光源がないのにどうして見えるんでしょう?」
「俺もそこは不思議に思ってたんだが、影がはっきりとできていないところを見ると、この石自体が発光してるのかもしれないな」
「きっとそうですね。
でもこれくらいの明るさだと暗くありませんか?」
「そう言われれば、そうだな。明るい方がよく見えるから、松明でも作ってみるか? ランプでもいいが、ダンジョンの中なら松明の方が雰囲気でるぞ」
「いえ、いい魔術を知ってますので、それでいきましょう。ライト!」
華ちゃんがライトと唱えたら、華ちゃんの頭上に明るく青白く輝く光球が浮かんだ。
「ちょっと眩しいが凄いな」
「魔術レベルが3以上の者がこのライト(注1)を使うと隠されてた物も見えるようになるって聞いていたんですが、今まで隠された物がなかった関係で、本当に隠された物が見えるようになるのかわかりません」
「あれ? 鏡の反対側の壁が、揺らいでるように見えるぞ。華ちゃんどうだ?」
「わたしにもそう見えます?
あっ! 扉が現れてきた!」
華ちゃんが言うように木?でできた扉が正面の壁に現れた。
「昨日手で触って調べた時には木の扉の感触などなかったから、華ちゃんのライトで扉が見えるようになったというより、実体化したって感じだな」
「ライトは探検用の魔術だったんですね」
「華ちゃん、他に探検用の魔法を知らないか?」
「えーと、ダンジョンで見つけた罠の種類を特定するアイデンティファイトラップ。特定した罠を解除するディスアームトラップ。他に何があったかな? そうそう、鍵のかかった扉や箱を開けるノックとかもあります」
「罠を見つける魔法はないのかい?」
「罠を見つける魔術は探検のスキルを持つ田原さんがいたので、習いませんでした。済みません」
「華ちゃんが謝ることはないよ。
しかし、罠が見つからないとなんちゃらトラップとかいう魔法も使えないし、ダンジョンの中を歩き回るのは危ないよな」
「岩永さんが言っていたように魔術はイメージで何とかなるつもりで頑張ってみます」
「サーチトラップ!
えーと、岩永さん」
「なんだ?」
「いまのサーチトラップでわたしの中でイメージできた『落とし穴』だけは見つけることができると思いますが、他の罠をイメージできなかったので落とし穴しか分かりません」
「そこは仕方がない。
俺の思いつく罠だと、曲がり角に近づくと床に少し浮いた石がはめ込まれていてそいつを踏むと正面から毒矢が飛んでくるんだ。
そういうことで、特定の罠を探すというより、一般化してそういった『他とは違ったところ』いわば異常を探せばいいかもしれないな」
「なるほど、それならイメージしやすいので、何とかなりそうです。
もう一度やってみます。ディテクトアノマリー!」
高校生のくせに華ちゃんはアノマリーとか難しい単語をよく知ってるな。俺もアノマリーという言葉を知っているが、それはとある洋ゲー(注2)のおかげだ。
華ちゃんがデテクトアノマリーを唱えたら、扉が現れた壁に向かって右側の壁の真ん中あたりの50センチ四方が薄っすらと赤く点滅を始めた。
「華ちゃん、壁が赤く点滅を始めたけど」
「えーと、何でしょう?」
「何かあるのは確かだから、試しにアイデンティファイトラップをかけてみてくれ」
「アイデンティファイトラップ!
罠ではないみたいです。
トラップじゃないとするとディスアームトラップも意味ないし」
「扉じゃないけど、壁の中に何かありそうだから、試しに、ノックはどうだ?」
「やってみます。ノック!」
華ちゃんがノックを唱えたら、赤く点滅していた50センチ四方の壁の部分が床に崩れ落ちてその先に四角い空洞が現れた。空洞の底には首飾りが1つ置いてあった。
注1:ライト
WizardryでいうところのLOMILWAですな。MILWAと効果は同じで時間制限がないだけとかどこかに解説が載っていましたが、これがないとWiz#4でWerdnaは最初の部屋から出ることはできません。Werdna自身は魔法使いなのでLOMILWAを使えないため、必ずLOMILWAを使えるPriestを召喚し、戦闘時Priestが勝手にLOMILWAを唱えるのを待つ必要があります。
注2:とある洋ゲー
作者がStea○で買ったステラリ〇です。ひとことで言うと宇宙物陣取りゲーム。科学技術を発達させ経済力と軍事力を強化しつつ宇宙を探検し、競合各国と宇宙の覇権争いをしていきます。面白いですよ。私はアイドリング時間も含めて5300時間遊んでおります。ダハハ。




