第497話 別荘計画
アスカ2号に貨物船と鉄甲艦の建造を任せたので一安心だ。これで海運と海軍のテコ入れができる。陸軍の方は、ゴーレムを適当に配置すれば当面の格好は付く。
週が始まってまだ2日だというのに目が回るような忙しさだ。明日からの予定は、週末ゼンジロウ1号が日本に旅立つ前に、記憶を共有するくらいなので暇にはなってしまう。バレン南ダンジョンのコアは意思疎通不能なので謎は残ったままだが、だからといって今さら大空洞の探索をしたいわけでもない。
風呂にでも入ってゆっくり考えるか。
ロイヤルアルバトロス号の脱衣場に跳んでいったら、上の方から重低音が聞こえていた。
これはなんだ? これは聞いたことのある曲だなー、ベートーベンの運命と一緒で最初のさびしか知らないけれどたしか『ツァラトゥストラかく語りき』だったはずだ。この曲が流れているということは、……。まっ、いいや。いまはもう2020年代だしな。昔のSFの設定をどんどん現実の時間が追い越していくけど、現実の世界は全然だものな。ずいぶん地球は遅れているってことか。
ロイヤルアルバトロス号の風呂の湯舟に浸かって、ボーっとしていたら、いいことを思いついた。
家を建てるなら自然の中の方がいいが、普通大自然の中で家を建てるのは大変だ。
しかーし、ダンジョンマスターである俺は、コアに命じれば、Zダンジョン内ならたいていのものは創れるのだ! 一度コアルーム横の造船所を拡張してモデルルームというか家を作ってやろう。しっかりした土台の上に建てたものなら土台ごと収納してしまって、そいつを水平にしっかり固めた地面の上におけば、ちゃんとした家になるはずだ。
風呂から出たら、アスカ3号に家のパンフレットや説明書を調べさせて、それを元にコアにレディーメードの家を創らせよう。まずは楽園に一つだな。超高性能ゴーレムコマ発電機搭載で浄化槽なんかもセットで欲しいところだ。ガスボンベもセットであればいい。これぞ置くだけオールインワン住宅だ!
妄想を膨らませた俺は風呂から出て、次のお風呂の準備をしてやり子どもたちに風呂に入るように言ってから、アスカ3号がいそうなマンションに向かった。
「アスカ3号、いるかー?」
『はい、マスター』
アスカ3号が居間の方から玄関にやってきた。玄関で立ち話はないので俺は靴を脱いで上がり込んで居間のソファーに座った。
アスカ3号は俺の前に立っているので、座れよ。と、言ったが、自分はゴーレムなので立っていても座っていても変わりはないと言われてしまった。そうかもしれないけれど、俺が座ってアスカ3号に上から頭頂部を見下ろされるのはどうなの? と、思うんだよ。
「まっ、いいから座れよ」
俺の向かいに座ったアスカ3号にオールイン住宅を作りたいので、コアがそれを見て創れるよう、その辺の資料を集めてくれるように頼んでおいた。
「了解しました。
資料を集め終えたら、マスターに報告した後、コアに渡しておきます」
「それならそれでよろしく頼む」
「はい。マスター」
良ーしこれでこの件も軌道に乗った。
人工衛星をロケットに詰め込んで軌道に乗っけるのは大変そうだが、うちにはアスカたちがいるので仕事を丸投げするだけで何事も軌道に乗ってくれるのだ!
すっかり安心した俺はホームポジションの屋敷の居間の座卓に戻って夕食の準備ができたと呼ばれるのを待つことにした。
夕食を食べながら、みんなに別荘を作ることを話して、どこに別荘を置きたいかアンケートをとることにした。
「どこに別荘を置きたい?」
「どこでもいいんですか?」と、はるかさん。
「ダンジョンの中ならどこでもいいです。ダンジョンの外なら俺の親父の持ってる土地限定です」
「だったら楽園か、行ったことはないけど果物島。かな?」
「ほかにご意見はありませんかー?」
「どうせゼンちゃんはゆらぎでこの屋敷と繋げてしまうのじゃろうから、どこでもよいのじゃ」
「じゃあ、楽園と果物島の両方に置こう。楽園の候補地はあの泉の近くだと決めているけれど、果物島はまだなんで、明日にでも候補地を探しにいかないか?」
「最初の廃墟の辺りでよいのではないか? 果物林からも近いし海は見えぬが、海はロイヤルアルバトロス号があるし」
「それもそうだな。わざわざ探しに行くほどでもなかったか」
結局アスカたちに仕事を丸投げしたので俺の仕事はなくなってしまった。明日から何していようか? ああ、それが問題だ。
翌日、文字表示をニューワールド仕様としたソーラー電卓が納入された。最初のロットとして1万個。小箱に入った電卓100個入りの段ボールで100個。
アスカ3号から知らせが来たので運搬係の俺はさっそくマンションの駐車場に跳んで積み上げられた段ボール箱を収納した。段ボール箱ごとコピーしておいたので、いくらでも増やすことができるのだが、全部で10万個発注しているので、オストラン国内の官吏たち一人一人に配ったとしても余るだろう。
電卓の仕様説明書ははるかさんが作ったそうで、電卓の入った小箱の中に入っている。説明書を読んで適当に使っていれば、少なくとも四則は問題なく使えるようになるだろう。
俺はさっそくオストラン神殿に跳んで、ローゼットさんを呼んでもらった。
「電卓ができたのでさっそく持ってきました。
神殿でも計算くらいしているでしょうから、ここにも100個置いておきましょう」
そう言って大ホールの床の上に電卓100個入りの段ボール箱をアイテムボックスの中から取り出して置いておいた。神殿の侍女が運んでいった。
「段ボールでまだ100個あるんで、宮殿の例の文房具置き場に置いてきます。明日からでも配ってください。使い方はニューワールドの言葉で書かれた説明書が箱の中に入っているので、それを見ながら使っていれば自然に覚えるでしょう」
「陛下、わざわざ、ありがとうございます。
先ほど神殿に頂いたものでわたしが勉強してあす電卓を配り、使い方がどうしても分からない人がいれば教えるようにします」
「任せました。わたしはこれで」
俺はその場で段ボール箱100個を宮殿の文房具置き場に転送しておいた。
これで電卓についてもほぼ片付いた。そのうち各地の出先などに配ることになるだろうが、そのころには日本との交易も始まっている。
俺には何をしたという自覚は何もないのだがここまで来てしまった。オストランの文化というか時代を一気に進めることになるわけで、なにがしかの弊害も起こるだろう。今までの産業が淘汰され、そこで失業が生れることもあるだろう。うまく新たな産業に労働力を回していかなければならないが、教育水準がある程度ないとどうしても転職は難しい。ある程度簡単な仕事も用意してやる必要もある。
日本とオストランとの関係が軌道に乗り、ハリトが独り立ちすれば、週勤3日の生活を引退して、悠々自適の余生を送るのだ!




