第496話 貨物船、鉄甲艦
メタルゴーレムオルカ101匹分の銀色のフィギュアを箱に入れて玉座の上に置いておいた。カフラン軍務卿が箱ごと持ち上げようとしたがそれなりに重たいものなので自分で運ぶことは諦めたようだ。
俺が見てても仕方がないので、
「それじゃあ、そろそろわたしは帰ります」
「陛下ありがとうございました。
次はいつごろお越しでしょうか?」
「それじゃあ、7日後の朝、ここにやってきます」
7日後は国賓として日本に招かれた日程の最終日だ。これでゼンジロウ1号が俺の代わりに日本に行くことが確定してしまった。実に残念だなー。
「かしこまりました。お待ちしております」
「それじゃあ」
俺は城を後にして屋敷に帰った。
戦の痛手は大きかったが、目途は立っているようで安心した。メタルゴーレムオルカで船が安全に航行できるようになれば利益は確実に底上げされる。
とにかくハリトはダンジョン内なのでゴーレムが使い放題なのが魅力だ。今回はメタルゴーレムオルカで船を護衛しろと言ったが、海賊などでは太刀打ちできないような商船を作ってしまえば護衛も不要になる。ガレー船の代わりに帆船、外輪船を飛ばして一気にスクリュー船か。一隻作ってしまえば後は量産できるわけだからイッチョウ作ってみるか? 正確にはアスカたちに作らせるけど、コピーは俺だものな。いや、船となると俺の材料のストックから考えると俺では厳しいか。コアにコピーを作らせればそれまでだ。先は見えたな。
俺はさっそくアスカ2号を探そうとコアルームの隣りのアスカ2号の倉庫兼作業場に跳んでいった。ちゃんとアスカ2号は倉庫兼作業場にいて資材の並べられた棚の整理をしていた。
「アスカ2号、貨物船を作ってくれないか? 要件は時速15ノット程度。1000トンの荷物が乗って、10人くらいの人間が30日くらい生活できる感じだ」
「喫水をどの程度取れるのか港を見てみないと分かりませんが、ロイヤルアルバトロス号のノウハウがありますので難しくはないと思います」
「すぐにでもマハリトの港に連れて行ってやるから、そこで水深なんかを確かめてくれ」
「はい」
俺はアスカ2号を連れてマハリトの港に跳んだ。
アスカ2号は、桟橋から水面をざっと見下ろして、
「確認しました。船の大きさの見当は付きましたので、これから製作にかかります」
「メタルゴーレムコマが必要になったら大きさと必要量を教えてくれ」
「直径46.5センチのものを2個お願いします」
「了解。戻ったら作業場で渡すよ。それじゃあ戻ろうか」
「はい」
アスカ2号を連れて倉庫兼作業場に戻った。そこで先ほど言われていた大きさになるようフィギュアゴーレムコマを2つ作ってアスカ2号に渡しておいた。
アスカ2号に任せておけば確実だ。俺にとっては完成したといってもいいだろう。
「マスターの要件を満たす船を造るのは容易ですが、海賊船などに遭遇した場合のことを考えるとなにがしかの武器を積んだ方が良くないですか?」
「速力が20ノットもあれば、相手はガレー船だし、よほどのことがなければ逃げ切れるだろう。
取り囲まれたりすると、逃げ切れないことも出るかも知れないから、戦闘要員として何体かメタル警備ゴーレムを置いておけば十分じゃないか?」
「それなら大丈夫だと思います」
アスカ2号は俺と話しているあいだに、メモ帳にボールペンで貨物船の簡単な諸元を書いてくれた。初めて意識したが、アスカ2号の書いた字はプリンターの印字というか、印刷物の文字そのものだった。
貨物船:
積載量1000トン貨物船
全長60メートル
船幅11メートル
喫水4メートル
最大速度時速15ノット
500kWメタルゴーレムコマエンジン(直径46.5センチ)2基=1000kW=1360馬力
船上構造物内にブリッジ、船長室、船室6人部屋×2、食堂、厨房、物置。(船長、副船長、航海士、見張り員×2、厨房員、雑役×6:定員12名)
他に荷物の出し入れ用にデリックが数カ所取り付けられている。
定員12名なのか。民間船として就航させた場合船員が余ってしまうな。余った船員さんは『船員さんいらっしゃーい!』で漏れなく海軍で面倒見てやれば一石二鳥だ! それで吸収できなければ、陸軍で吸収だ。
この船を改造して軍船にしてもいいが、他国に比べて圧倒的になってしまうだろうが圧倒的になってしまって悪いこともないか。大召喚術師ゼンジーロさまが国王をしてるくらいだから今さらだもんな。軍事力は抑止力。ハリトには手を出せないと、各国だけでなく海賊たちが認識してくれればしめたものだ。
武装として大砲を積むわけにはいかないけれど、メタル警備ゴーレムを10体ほど乗せて、砲丸を敵の船に投げつけてやるだけで、木造船など簡単に破壊できるだろう。護衛にメタルゴーレムオルカを付けていればもう鉄壁だ。
夢が膨らむなー。貨物船は最初海軍で運用するつもりだが、いずれ民間で運用することになる。これで海軍の船もレベルアップできる。海軍の船が民間船に追いつけないようではちょっとマズいから海軍専用の軍船を考えた方が良さそうな気がする。
「ところでアスカ2号。今回は貨物船だが、軍船はどうだ? 想定する敵船は木造のガレー船だ」
「敵船を沈めるのでしたら、衝角を付けて敵船にぶつかるのが最も効果的だと思います。敵の切り込みを許さないよう上甲板を含めて丈夫な装甲で覆ってしまえばいいでしょう。いわゆる鉄甲艦となります」
「ほほうー。なんか、カッコ良さそうだな。海底2万マイルのネモ船長が乗ってたノーチラス号みたいなもんだな」
「それについては知識がないのでコメントできません」
俺だったら、適当に相槌を打って誤魔化すのにアスカ2号は正直だな。
「マスター、鉄甲艦も建造しますか?」
「できるんなら頼む」
鉄甲艦:
排水量:1200トン
全長50メートル
船幅6メートル
喫水5メートル
最大速度時速25ノット
3300kWメタルゴーレムコマエンジン(直径70センチ、タンデム)2基=6600kW=9000馬力
船内に船長室、船室6人部屋×2、食堂、厨房、物置。(艦長、副長、航海士、見張り員×2、厨房員、雑役×6:定員12名)
鉄甲艦用のフィギュアゴーレムコマもアスカ2号に渡しておいた。
「外部に発注の必要な機材は積みませんので、すぐに建造に取りかかれます。
週末までには、どちらも完成していると思います」
「アスカ2号、さすがだな」
「はい。頑張ります」
どちらの船にも発電機を積み込み、海水を真水に変える造水装置と排水ポンプを取り付けるそうだ。




