第493話 オストラン王国国王戴冠式
戴冠式当日。
式は10時からなので、午前9時に屋敷のみんなを連れてオストラン神殿に跳んだ。アスカ1号と2号を一緒に連れてきている。
跳んだ先は、式次第にも書いてあったしローゼットさんも昨日使うように言われた以前使った家族部屋だ。
今の俺の格好は、ワーク〇ン謹製のZスーツだ。他の連中はそれぞれお出かけ用の服を着ている。ワーク〇ンのスーツが異世界とはいえ国家の晴れ舞台でその主人公がお召しになるわけだ。
戴冠式の様子を録画しておいて、日本のテレビ局に売ってやれば莫大な放送権料が手に入るような気もしたので、今日のアスカ1号、2号はカメラマンだ。特にアスカ2号はドローン3号機を操作して空撮することになっている。ドローン3号機にはマイクを取り付けているので音も拾える。アスカ1号の方は普通のビデオカメラだ。何せ超高性能美少女ゴーレムなので本職のカメラマン並みの映像を期待できるだろう。
アスカ1号とアスカ2号でドローン3号機とコントロール用の器材を式場である大ホールのステージの袖に持っていった。
アスカ2号はそのままそこでドローン3号機を操作する。
戻ってきたアスカ1号はそのままカメラマンになって俺たちの表情をビデオカメラに収め始めた。
こうなってくると、ちょっと緊張するな。うちのみんなも緊張している? 神さまだけはそうではないようだ。
「ゼンちゃん、茶菓子がまだなのだが、はよう持ってくるよう言ってはもらえぬか?」
神さまが緊張したらおかしいからな。これはこれでいいんじゃないか?
「アキナちゃん、そろそろ大ホールに移動しないといけない時間じゃないか?」
部屋の外からローゼットさんの声がした。
『ローゼットです。式場にご案内します』
時間だったようだ。
俺たちはローゼットさんの後をぞろぞろとついて歩いていき、奥の方から大ホールに入っていった。
大ホールはこの前の100年祭の時と同じように席が並べられていて、最前列の真ん中あたりを除いてすでに満員になっていた。100年祭の時は式の始まる前、会場はざわついていたが、今回は大ホールの中は静かだった。ホールの天井近くをドローン3号機が飛んでいるのだがほとんど音はしないし、会場の参列者も不思議と気にしていないようだった。
俺はステージの上の一段高くなった台の上の立派な椅子に座らされた。他のみんなはステージ正面の階段から下りて、ステージの真正面の席に並んで座らされた。
そろそろかと思っていたら、ブラウさんが100年祭の時着ていた神官服よりもさらに豪華な神官服を着て現れた。
ブラウさんの後には巫女さんたちが5人ほど付き従い、その中の一人が紫色の布の上に王冠らしきものを載せたトレイを捧げ持っていた。
ブラウさんがステージの真ん中に立って、その後ろに5人が並んだ。
そこでブラウさんが俺ではなく参列者たちに向かって祝詞のようなものを上げた。
俺はブラウさんが祝詞を上げているあいだ、巫女さんの一人が捧げ持っている王冠に目を凝らした。遠目ではあるがかなり立派な王冠に見える。そういえば瓶の蓋も王冠っていうけど、見た目もそんなに似てないよな。
くだらないことを考えている間にもありがたいことに式は進んでいく。
参列者たちに向かったブラウさんの祝詞が終わり、今度は俺に向かって祝詞が上げられ始めた。祝詞の言葉はニューワールド語の古語だそうで、俺のニューワールド語の能力ではほとんど理解できないものだった。参列者のほとんども理解できないだろう。
その祝詞の中で、たまに『~するか?』とか聞かれるのでその時だけ「はい」と答えておいた。
最後にブラウさんが、
「ゼンジロウ・イワナガにオストラン国王の証である王冠を授ける。
ゼンジロウ・イワナガはひざまずいて王冠を受けるよう」
言われた通り俺はブラウさんの前でひざまずいた。
王冠を捧げ持っていた巫女さんが一歩前に出て、ブラウさんが王冠を受けとり、それを参列者に見せるよう高く持ち上げて、それからひざまずいている俺の頭に乗っけてくれた。
「ゼンジロウ・イワナガはゼンジロウⅠ世としてオストラン王国国王となった」
ひざまずいていた俺はブラウさんの手で立ち上がらされた。
俺が立ち上がったと同時に参列者が一斉に立ち上がって「ゼンジロウⅠ世、万歳!」を唱え拍手した。
拍手がいったん止んだところで、俺はブラウさんに伴われてステージの階段を下りて大ホールの玄関の先で待つ馬車の方に歩いていった。
うちの連中は俺の後に2列になってついてくる。アスカ2号はドローンの操縦で動けないのでこのままオストラン神殿に残るが、アスカ1号は俺たちと一緒に馬車に乗って宮殿まで移動する。
3台の馬車に分乗した俺たちは、兵隊たちを従えてオストラン神殿から王宮、宮殿までパレードした。
王宮の中に馬車が入っていき宮殿の玄関前で止まった。そこから玉座の間まで歩いていった。
玉座の間の正面に俺が立つと、サッっと扉が開かれた、玉座の間の真ん中のカーペットの両脇には文官、武官たちが整列していた。
俺たちがカーペットの上を歩いていくと、文官、武官たちが拍手を始めた。一段高くなった玉座のある一段高いステージに向かい俺が玉座に着くまで拍手が続いた。
俺が玉座に座り、俺の身内が玉座の左右に立ったところで、拍手が止んだ。そして、
「ゼンジロウⅠ世陛下万歳、オストラン王国万歳」の声で戴冠式は終了した。
このあと各国の要人たちが玉座の間に現れて祝辞を述べてくれることになっているのだが俺自身飽きてきた。それでもここでゼンジロウ1号にバトンタッチできないので我慢して座っていた。俺は座り心地が悪いといっても椅子に座って楽なのだが、子どもたちが可哀そうだ。
ということでみんなにスタミナポーションを配ろうとしたら、華ちゃんにダメだしされた。
玉座の間で王族一同が一本いっちゃまずいものな。
その代り華ちゃんがみんなにスタミナの魔法をこっそりかけてくれた。俺は特に疲れてはいなかったが、ちゃんと俺にもスタミナの魔法をかけてくれた。一時は俺だけ座っているからのけ者にされるのかと思ったが、心優しい華ちゃんは、思った通り俺にも優しかった。
ブラウさんは神官服からいつもの宰相服?に着替えている。神官服はコートのような作りだったようで、神官服を脱いだらそのままいつもの格好になっていた。脱いだ服は神殿の巫女さん、宮殿でブラウさんの秘書を務めている人が持っていった。
そんなに待たされることなく、各国の要人たちが国の格式と本人の地位に従って順番に玉座の間に通され、俺の前まで進んで祝辞を述べてくれた。
玉座の間に入る時、国名と地位と名まえの他、今回の俺の即位に対しての贈答品の目録が述べられる。これが結構時間をとる。
もちろん彼らが帰国する際には返礼品を持たせて送り帰すことになる。
型どおりのことだが、国と国との付き合いは型どおりが一番大切だ。ということくらい俺も理解している。
「XXX殿、わが国と貴国との友好が今後末永く続くことを願います」
XXX殿と名まえを言わなければならないのだが、ちゃんと俺の横に立っている華ちゃんが小声で教えてくれるので何とか乗り切ることができた。
結局、各国の要人たちのあいさつを受け終わったときには2時間近く経って午後2時を回っていた。その間華ちゃんは2回スタミナの魔法をかけている。
最後のあいさつが終わったあと、官僚たちは玉座の間から退出していった。
そして祝宴が王宮の庭園で行なわれることになっている。雨天ではどうなったのかは分からないが運のいいことに今日は快晴だ。
今日は俺の方からも差し入れとして寿司と天ぷら、それに日本酒を出そうと思っている。最初のうちはどうやって食べればいいのか分からないだろうが、うちの連中が食べているところを見れば、みんなマネして食べるだろう。
ブラウさんに連れられて俺たちは宮殿を出て庭園に向かった。
ブラウさんの話では祝宴には1000人ほどを招いているそうだ。庭園の中のいたるところにテーブルが置かれ、料理や飲み物が置かれていた。祝宴は昼過ぎから始まっているそうだ。俺たちが現れると、一斉に拍手が起こった。
もはや式次第はないので、俺はよくわからないまま軽く手を振っておいた。そうしたらますます大きな拍手が起こった。正解だったようだ。
うちの連中は王室用に設えられた特別席に座って飲み食いを始めたのでテーブルの空いたところに寿司と天ぷら、日本酒、各種ジュース類を置いてやった。割りばしと取り皿、醤油にワサビ天つゆの入った天つゆ皿も忘れずに置いている。
俺だけはブラウさんに連れられて一塊になって歓談しているグループに軽く手を振ったり握手したりして歩き回っていた。そこかしこで料理の減ってきたテーブルに給仕係が料理や飲み物を運んでくるので、テーブルを何個か追加してその上に寿司と天ぷら、それに日本酒。醤油用の小皿に天つゆ皿を並べておいた。食べ方の説明は面倒だったので王女たちのマネをするように言っておいた。うちの連中は箸を使って食べているので、ちょっと違うが大したことはないだろう。
さすがの俺も気疲れでぐったりしてきたようだ。
日本の皇族の方々の大変さがちょっとだけ分かったような。




