第491話 ハリト国王4
「一箱に金貨が5000枚入っています。箱の総数が605箱。金貨の数は302万5千枚になります」
運ぶことまでは考えなかったが金貨1枚20グラムとして5000枚なら一箱100キロもある。こんな持ちにくそうなもの一人では持ち上がらないよな。台車かなんかに4人がかりくらいで乗っけて運び出すんだろう。しかし段ボール箱って丈夫だよな。一番下の段は4.5トンを段ボール箱10個で支えてるんだものな。
「箱の中には金貨が25枚ずつまとめて束にしたものが200個入っているんで、一箱があんまり重くて持ち出すのが大変なら、中身を一つずつ出していけばいいです」
「はい。
前王がいない今、国庫収入は黒字ですので、これから先ハリトは立ち直ることができます。
ありがとうございます」
俺と宰相が金貨について話をしていたらカフラン軍務卿が宝物庫に帰ってきた。
「この箱の山が全て金貨なのですか?」
「上まで上って開けてみてくれてもいいけど」
「いえ、それには」
まあ、上るのも大変だしな。
「それでは陛下、一度会議室に戻りましょう」
カフラン軍務卿が最後に宝物庫から出て鍵をかけた。
会議室に戻ると、すぐに侍女がやってきてお茶を置いて帰っていった。
俺の座る椅子の前にはテーブルはなくて横に小さな長四角のテーブルが置いてありそこに置かれたお茶を一口飲んだ。
俺用に特別に残してあったのかもしれないが、借金生活を続けていた割にいいお茶っ葉を使っている。
これまで借金のせいで思うような政治はできなかったのだろうが、今回のミルク補給で、借金生活から脱して、国を良くしていくための政治ができるようになるだろう。
あとは、軍の立て直しか。これは金も必要だろうが、金だけじゃないからな。
「わたしがいる以上よその国が攻めてくることはないと思いますが、国民に負担がかからない程度でいいので、少しずつ軍の立て直しもやっていきましょう」
「「はい」」
なんであれ、ある程度目途は立った。Zダンジョンのコアの力は使ったけど、金だけの問題で済んだようなので、意外とチョロかった。言い換えれば、前王がこの国のガンだったわけだ。
前王の国民への迷惑度合は海賊たち以上だ。そうなると海賊たちを有無を言わさずきれいさっぱり吹っ飛ばした俺からすれば、前王の斬首にうなずかざるを得ない。
国王の務めとして、前王の斬首に立ち会わないといけないのだろう。そういえば前王は妃や妾妃たちを連れて逃げたという話だから、そういった連中はどうなるのだろうか? 一蓮托生なのか? やっぱりそうだよな。
「今回の騒動で親を亡くして孤児になった子もいると思うので、そういった子は成人するまで国で面倒を見てください」
「はい」
「できれば、読み書き計算ができるよう」
「はい」
「一般の子どもにも無償で読み書き計算を教える施設を作ってやりたいけど、それは国に余裕が生れてからでいいでしょう」
「はい。
陛下」
「何?」
「陛下は昨日王になられたばかりなのに、これほどまでにこの国の将来のことをお考えになっていらっしゃるとは。
わたしも、カフランも、そして国民も幸運でした」
『幸運』? あっ! これって、もしかして? ……。やっぱ、そうだよな。
今回は俺たちじゃなくてハリト国民に対して発動したってわけか。巡り巡ってエレギルも喜ぶだろうし。
ということは、前王ってアキナちゃんの言ってた流れの淀みだったってことか。俺にも理解できて来たぞ。国語力が一夜にしてアップしたようだ。この調子で記憶力もアップしてくれればありがたいのだが、そうはいかないんだろうな。
「ほかに何かありますか?」
「陛下には本当のお住まいがおありなのでしょうが、城内にも用意いたします」
「一部屋だけあれば十分です」
「そうはまいりません。国王には体裁というものがあります。
城の奥向きには、前王の後宮がありました。そこを整理します」
「じゃあ、任せました」
使うことはほぼないだろうが、後宮という言葉に引かれるものがないではない。とはいえ、屋敷に帰れば美女、美少女に囲まれているわけだから似たようなものか。世間さまから見れば俺もハーレム王だものな。
それに妙なことを考えれば、アキナちゃんに一発で筒抜けだもの。
波風立てないよう平和に暮らしていくのが一番。
「そろそろわたしは帰ります。あとはよろしく」
「陛下、次はいつ城にお越しでしょうか?」
「どうしようかなー。今ここも大変な時だから来た方がいいんだろうなー」
アキナちゃんは俺が暇していると思っているようだけど結構俺も忙しいんだよなー。明々後日は俺の戴冠式だし。その次は防衛省だし。
「5日後の朝、玉座の間に現れます」
「お待ちしております」
5日後城に行くことになった。その次からは7日おきでいいな。とうとう俺は週勤3日制の男になってしまったのだ。親父に報告したら喜んでくれるだろうか?
屋敷に帰って、そのまま俺はロイヤルアルバトロス号の風呂に入った。ロイヤルアルバトロス号は3×3アイランズの最初の島近くに停泊中だ。
わずかにロイヤルアルバトロス号は波に揺れているが、ほとんど気にならない。
週勤3日か。サラリーマンは週休2日。週に5日も働いている。しかも自宅と会社との往復で1時間から2時間かけている。俺は往復実質ゼロ秒だ。俺ってホントに恵まれているんだ。と、つくづく思う。感謝のしるしに神棚を買ってきて屋敷の居間にでも飾っておくか? お札代わりにアキナちゃんのブロマイドを神棚の中に入れておけばご利益が50パーセントアップするかもしれない。




