第488話 マハリト6。ハリト国王1
マハリト城に続く門が開き、俺とアキナちゃんと警備ゴーレム6体が門の中に入っていった。メタルゴーレムたちは橋を守るように堀の向こう側で横に広がって向こう側に向いている。ミルワ兵たちは逃げ散ってしまい少なくとも城のこちら側にはいなくなってしまった。城の上空には101匹のメタルゴーレムドラゴンが華麗に乱舞している。ドラゴンたちに特に指示したわけではないが、今日はだいぶ高いところを飛んでいる。
俺たちが門の中に入ったところですぐに門は閉じられた。城門から革鎧を着たおじさん二人が走り出てきた。スカラム宰相とカフラン軍務卿だった。
「ゼンジーロ殿。よくぞいらしてくれた」
いきなり宰相が両手にはめていた革手袋を取った。俺の右手は宰相の素手の両手でがっしりと握られてしまい、そのまま城の中の部屋に連れ込まれてしまった。
アキナちゃんのほか護衛の警備ゴーレムは2体だけ部屋に入った。
勧められるまま俺とアキナちゃんがテーブルの席に着くと、向かいに二人が座った。ゴーレムは俺とアキナちゃんの後ろに立っている。2体とも銀色のゴーレムなのでかなり存在感はあると思う。その2体を連れた俺は大物感を少しは醸し出しているハズだ。
そうしたらいきなり宰相が、俺の目を見て、
「こうしてゼンジーロ殿がミルワ兵を蹴散らしてこの城にお越しいただいたということは、われわれのために戦っていただけるということでしょうか?」
俺は宰相の問いに直接答えず、質問で返した。
「久しぶりにこの街にやってきたところ、街は占領されていたし城も包囲されていたので驚きました。それで実際のところどういった状況なんですか?」
「お恥ずかしいことですが、ミルワへの無理な出兵で大敗し、さらに海でも大敗を喫しました。その結果、このマハリトで海からの侵攻を許してしまいました。
海からのミルワ軍はマハリトの市街を占領した後、この城を囲んだだけで力攻めをしていません。わが軍を蹴散らした主力の到着を待っているようです。
われわれはこうやって城に立てこもっていますが、援軍の当てはなく兵糧が尽きるのが先か、ミルワの主力が到着して総がかりで攻め落とされるか、そのどちらかです」
「うーん。せっかくミルワとの戦が起こることを未然に防いだはずなのに、こっちから攻めていったのでは戦を止めた意味なんかなかったですよね?」
「面目ありません。われわれでは国王を止めることができませんでした」
国王が暴走したとかこの前聞いていたが、やはり本当だったのか?
確かめることはできるのだろうか? 目の前の宰相たちが俺に嘘を言っている可能性もゼロではない以上、王さまに直接聞いてみるか。ちゃんとした理由で戦を始めたのなら少しは考えてやってもいいし。
「王さまに会わせていただけますか?」
「申し訳ありません。上陸したミルワ兵の進撃を軍が何とか食い止めているあいだに国王は王妃と妾妃たちを連れていち早くマハリトから脱出しています」
あれ? 王さまってそんなんでいいの? 王さまだってわが身と家族が大事というのは分かるが、ここにいる二人を始め多くの連中を置き去りでいいの?
「もしゼンちゃんがこの城を囲むミルワ軍を蹴散らして、マハリトからミルワ軍を追いだしたら王さまは何食わぬ顔でこの城に戻ってくると思うのじゃが?」と、アキナちゃんが相変わらず機嫌が良さそうに、宰相たちに向かってたずねた。
宰相は額の汗を拭きながら、
「おそらくそうなるでしょう」
城に取り残されて死ぬか敵の捕虜になる覚悟を決めた連中からすると、腹の立つことのような気がする。この温厚を絵にかいたような俺でさえ他人事ながら腹が立つものな。
「戻ってくれば、今回のことを反省するのかな?」
「おそらくそれはないかと。
ゼンジーロ殿、事ここに至ってしまえば、われわれも腹をくくります」
「腹をくくるとは?」
「ゼンジーロ殿の力でマハリトからミルワ軍が駆逐された暁には、われわれは戻ってきた国王を捕縛して新王をいただきます」
まともな新王の当てがあるならこの国もいい国になるんじゃないか。仕方ない。一肌脱いでやるか。大召喚術師の俺にとってミルワ兵を追い出すことはそこまで手間ではないはずだし。
「分かりました、何とかしましょう。
ドラゴンとゴーレムで脅せばミルワ軍も引くでしょう」
脅しで引いてくれればいいが、引かない場合はどうするかなー。ミルワの都にドラゴンを送り込んでやるか。
俺が黙ってミルワ軍を追い出す方法を考えていたら、部屋の扉がノックされた。
「どうした?」
『はい。火急のご報告に参りました』
「ゼンジーロ殿、失礼します」
そう言ってカフラン軍務卿が立ち上がって、部屋のドアを開けた。
部屋の出入り口でカフラン軍務卿は兵隊から報告を受けた。
報告を終えた兵士は帰っていき、カフラン軍務卿は扉を閉めて席に着いた。
「失礼しました。
報告によりますと、城を囲んでいたミルワ軍が港に向けて撤退し始めたとのことです。
それ以外のミルワ軍については今のところ不明です」
なんだ。101匹ドラゴンの脅しで十分だったようだ。
「ゼンジーロ殿。ありがとうございます。おそらくマハリト内のミルワ兵も撤退するでしょうし、マハリトに向かって国内を進撃中のミルワ軍も回れ右して国元に戻ることでしょう」
「それは良かった。これからは無茶なことはせず、国民が安心して暮らせる国を作ってください」
よかった、よかった。これでこの前貰った土地も安泰だ。
「それでは、わたしは失礼します」
俺が半分立ち上がったところで、
「いえゼンジーロ殿。お待ちください。
こうしてマハリトが守られたのはゼンジーロ殿のおかげです。
どうかゼンジーロ殿、この国の王にお就きください」
新王って俺のことだったのか? どうするかなー。ってそんなのになりたいわけないだろ!
「いや、わたしは国王になどなる気はないので、お二人で適当に王さまを決めてください」
「この国をまとめ上げるためには、どうしてもゼンジーロさまのお名まえが必要なのです。
ゼンジーロさまが新たな王に就き、この国に君臨していただけば、国民も安心して暮らせますし、隣国もわが国に対して食指を伸ばすことはありません。
お願いします。ゼンジーロさま、わがハリトの国民のため、この国の王にお就きください」
俺が席を立とうとしたとき、立つそぶりもなかったアキナちゃんだが、再度アキナちゃんを見ると、椅子に腰を浅くかけて背もたれに背中を預け一見ふんぞり返っていた。一見ではなく明らかにふんぞり返っている。そしてニヨニヨ笑っていた。
そういうことだったのか。
「わかりました。この国の王ということで名まえだけはお貸ししましょう。たまには城に顔を出しますが、実務はお二人に任せます」
「「ありがとうございます」」
二人が深々と俺に頭を下げた。
暇にしていたから様子を見にきただけなのに、仕事が増えるなー。
それから俺たちは玉座に案内された。そこに座らされた俺の前に、城に残っていた重臣たちと城を守っていた軍の指揮官たちが集められた。
「ゼンジーロ王、万歳。ハリト万歳」
こうして俺はハリト国王になってしまった。俺の座る玉座の隣りに立つアキナちゃんは終始ニヨニヨ笑っていた。ハリト王になったことは俺にとってもきっといいことなのだろうと自分を納得させることにした。




