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第487話 マハリト5


 このダンジョンのコアを見つけたら聞いてみたいことが何個かあったのだが、残念ながらコアとの意思疎通ができなかった。思うにこのダンジョンのコアの思考は爬虫類的なもので人間の思考とは相容れないものだったのかもしれない。


『Zダンジョンはこのダンジョンの子どもである』説からすれば、Zダンジョンのコアも爬虫類的思考をしていてもおかしくないが、Zダンジョンでは爬虫類で進んだ思考をする者が現れず、代わりに人間が現れ、それで人間的思考ができるダンジョン・コアとして育ったのではないだろうか? あくまで俺の想像なので、Zダンジョンのコアにも真相は分からないだろう。



 俺は灰色のコアを眺めながら、そこまで思考を進めたところで、


「そろそろ帰るか」


「「はい」」「この大空洞の大きさとか知りたかったが残念じゃった。早くそこのコアが逝ってくれればいいのじゃが」


 アキナちゃんが(バチ)当たりなことを言い始めた。


「アキナちゃん、このコアは相当長いこと生きていたんだから、そんなこと言ってやるなよ」


「命とは長く生きていればよいというものではないのじゃ。

 生きているあいだに、何をなすかが大切なのじゃ」


「それは分かるけど、このコアは大空洞も作ってるわけだし十分すごいことしてるんじゃないか?」


「そうかもしれぬが、今となっては話もできぬ耄碌(もうろく)ジジイなのじゃ」


 女神さまにそこまで言われてはコアも立つ瀬がないのだろうが、そもそも人間のことばや思考を理解できないのなら関係ないか。やーいやーい、耄碌(もうろく)ジジイー。口に出してはいわないヨ。


 今回アスカ2号はコアルームで何もすることがなかったのだが、これも経験だ。


 メタル警備ゴーレムたちには、ここのコアを守るように命じてコアルームに残すことにした。俺はドローンとドローン用機材を収納した。その後みんなそろって新しくできたゆらぎからZダンジョンのコアルームに出てから、屋敷の玄関ホールに転移した。



 コア探索の旅があっけなく終わってしまった。ロイヤルアルバトロス号はコア探索という意味では宝の持ち腐れになるが、これから先コア方向に向かっていくとか、大空洞の広さを調べようといった気持ちは無くなってしまったのは確かだ。




 翌日。


 何もすることがなかったので、俺は何日かぶりにハリトの都マハリトに跳んでみることにした。


 日本の普段着からオストラン風のちょっといい服に着替えた。行き先は例の軽食屋なのだが、まだ時間が早かったので居間で時間調整をしていた。そろそろ店も空く時間だろうと靴を履いて転移しようとしたところで、アキナちゃんがやってきた。


「ゼンちゃん、こっちの服に着替えてどこに行くのじゃ?」


「ハリトの都がどうなってるか見てこようと思っているんだ」


「ならばわらわも付いていきたいのじゃ」


「別に構わないから、アキナちゃんもそれらしい格好に着替えてきてくれ」


「わらわはこれで十分なのじゃ。それよりゼンちゃんはもう少しピシッとした格好をした方が良いのではないか?」


「街の中でうわさ話を聞くのが目的なんだからあんまり大仰(おおぎょう)な格好はできないだろ」


「今日は大仰な格好の方が良いと思うのじゃが、まあそれでも良かろう」



 アキナちゃんを連れて跳んだ先は例の軽食屋の近くだったのだが、軽食屋は閉まっていた。それどころか通りに面した店は全部閉まっていた。しかも通りに人通りはなく、兵隊が数人ずつでパトロールしているだけだった。


「あれれ? さすがにもう店の開いている時間と思って跳んできたんだが、まだだったのか?」


「一軒も店が開いていないのはかなり奇妙なのじゃ」


「そうだよなー。ここには豆腐屋はないかもしれないが、朝早くから開いて早めに閉まる店って商店街には必ずあるものな」


 店も閉まっているし人も歩いていないのではうわさ話を聞くことはできない。


「仕方ないから、貰った土地がどうなっているかちょっとだけ見てから帰ろうか」


 転移で跳んでいってもよかったが、暇でもあったので二人して貰った土地に向けて通りをしばらく歩いていたら、前から歩いてきた3人組の兵隊に誰何(すいか)された。


「きさまたち、怪しいな。特におまえだ」


 アキナちゃんと比べれば、確かに俺の方が怪しいだろう。素直に納得してしまった。


「この辺りの者は皆どこかに逃げ出していたはずだが、おまえはどこの者だ?」


 この問いに対して俺はどう答えれば正解なんだ? そうだ! 俺はマハリトでは結構有名な召喚術師のゼンジーロさまだった。


「どこの者というわけではありませんが、召喚術師のゼンジーロと申します」


「なに!?」


 3人は俺の言葉を聞いて跳び退くように後ろに後ずさった。


 極端な反応だなー。ヒーローを前に横柄な態度をとったことを後悔しているのか? 俺はそんなことくらいで腹を立てるような小さな男じゃないから安心したまえ。


「う、嘘を言うな! ゼンジーロとヤツの召喚獣は今までわれらのマハリトへの侵攻に対して一度も現れていなかったぞ。ヤツの召喚したゴーレムはヤツの土地を守るだけでそこから外に出てこないし」


 あれ? この兵隊たちハリトの兵隊じゃないようだぞ。可能性が高いのはミルワの兵隊だ。ひょっとしてこのマハリトはミルワに占領されちゃってるわけ?


 せっかくだから、ここは下手に出てこの兵隊たちから情報を引き出そう。ダメもとだし。


「えーと、みなさんはミルワ軍で、マハリトはミルワ軍に占領されてるんですか?」


「見れば分かるだろ!」


 いや、見ただけで分からないから聞いたんだが。


「そんなことより、おまえはゼンジーロなのか?」


 俺が召喚術師である証拠を見せないといけないのか。じゃあ、ゴーレム1型を出してやろう。身長が3メートルもあるから迫力だけはあるだろう。


 面白そうなので、俺から5歩も6歩も離れて立っている3人組の後ろにゴーレム1型をアイテムボックスから排出してやった。


 その後俺が、意味深に目配せしてやったら、3人は恐る恐る後ろを振り向いて、


「「出たー!」」


 叫びながら俺の脇を通り過ぎて逃げていった。いい逃げっぷりだった。


 アキナちゃんがその3人の後ろ姿を見て、


「あの連中は長生きしそうじゃの」と、一言。


 アキナちゃんのお墨付きが出た以上、あの3人は長生きするのだろう。運のいいヤツらだ。



 街が占領されても、城が落ちたかどうかは分からない。



 マハリト城が今どうなっているのか気になったので、俺たちはマハリト城に向かって歩いていった。


 マハリト城は堀で囲まれ、その堀は広めの道で囲まれているのだが、城に近づいていくと壊された建物が見受けられるようになってきた。


 堀の周りの道には多数のミルワ軍がマハリト城に向いて整列し、城を囲んでいるのが見えてきた。ミルワ軍からもノッシノッシと歩くメタルゴーレム1型を従えた俺たちの姿がよく見えているはずなのに何も反応ない。下手なちょっかいを出さない方がいいという思慮分別が働いたのだろう。というか、よく見れば明らかに動揺しているようで、後ろから近づく俺たちを振り返って見ていた。



 城の方は一見健在だが、救援が来なければ早晩陥落するだろう。俺の考えたシナリオ通りハリト海軍がミルワ海軍に敗れ、マハリトに上陸を許した結果こうなっているなら、ハリト軍の救援がマハリトに駆けつけたとしても、ミルワ軍は海から兵隊も物資も簡単に補給できるので、ハリト側から見て城の救援もマハリトの奪還も難しいだろう。


 知らないふりをしてもいいのだが、放っておけば籠城側に大きな被害が出る。


 無茶な侵攻をしたツケを払わされるわけだから自業自得ではあるが、会話を交わしたことのある連中が中にいる可能性もあるし、マハリトがミルワ軍のものになってしまうと、貰った土地はどうせ封鎖されるだろうから利用もなにも無くなってしまうだろう。仕方ない、一肌脱いでやるとするか。



 海賊団は丸ごと吹き飛ばしてやったが、目の前の兵隊たちに対してその類の攻撃をしたいわけではない。


 簡単な脅しで引いてくれれば万々歳だ。俺はアイテムボックスからメタルゴーレム1型を101体前面に並べていった。先頭だけ1体であと10×10の隊列だ。合わせてメタルゴーレムドラゴンを101匹上空に舞わせてやった。さらにメタル警備ゴーレムを6体俺たちの周りに並べて護衛させ、俺自身は普段着のままだが、如意棒だけは手に持った。アキナちゃんはいつも通り手ぶらだ。


「101体メタルゴーレム、大行進だ!」


 その隊形で、堀を渡る橋に向かって行進してやった。


 上空の異変に気づいたミルワ兵たちがとうとう堪えきれなくなったようで、あっという間に城の前面の包囲は崩れてしまった。101体メタルゴーレム大行進で俺たちが進んでいる方向の城の前にミルワ兵は誰もいなくなった。


 俺たちに向かって矢を射かける者もいないし、魔法で攻撃してくる者もいない。無人の野をいく何とやら状態だ。俺は101体のメタルゴーレム1型をミルワ兵たちがいた堀の前に並べておき、俺とアキナちゃんと警備ゴーレムだけ橋を渡った。橋の先の門の前から、中に向かって開門するよう大声で告げた。


「わたしは召喚術師ゼンジーロ。開門願う!」


 門の向こう側で人が動き回る気配がしてすぐに門が開かれた。



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