第469話 3角測量1。その日のオストラン宮殿
ハリト王国からいただく一等地は100メートル四方もあり結構広いので無駄にはしたくないのだが、結局いい利用法は俺を含めて誰からも出なかった。
明日からは、またコアを探してロイヤルアルバトロス号を走らせるわけだが、陸地が途切れるまで陸地沿いを進んでいく予定だ。ドローンを1000キロ、2000キロと先行させて、そこにロイヤルアルバトロス号を転送することもできるのだが、それほど急いでいるわけでもないので、普通に船を30ノットで走らせるだけで探索していくつもりだ。30ノットでも24時間走り続ければ1300キロ進むことになるので、明日の朝から明後日の朝までロイヤルアルバトロス号を走らせればいい線陸地を抜けて、海の上をコアに向けて航行できるようになると思う。
翌日。
早朝から陸地を左に見てロイヤルアルバトロス号を時速30ノットで進ませた。陸との距離は30キロを保っている。
ロイヤルアルバトロス号に指示を終えた俺は特に何もすることがなくなったので、屋敷の居間に戻って、朝食に呼ばれるのを待つことにした。
探索を再開したその日は何かしなければならないことは何もなかったので、結局フィットネスジムで軽くトレーニングしたり、アイテムボックスの中に収納中の段ボール箱に入ったコミックから適当なコミックを見つけて読んでみたり、アキナちゃんと超大型モニターでアニメを見たりして過ごした。
フィットネスジムで俺がベルトの上で走っていたとき、キリアがやってきて俺の隣りで走り始めた。
キリアはアスカ1号とよく稽古しているが、メタル警備ゴーレムの方がその方面についてはアスカより上のハズなので、メタル警備ゴーレムと訓練した方がいいかもしれない。
メタル警備ゴーレムはアスカたちと違ってダンジョン外では動くことはできないので、ダンジョン内に訓練場を作る必要がある。地面だけは土にしておいた方がいいか? いやどうせだから、ロイヤルアルバトロス号のデッキと同じで一見木の板に見えるプラスチック?製の床にしてしまおう。
ということで、ランニングを先に終わらせた俺は、コミック倉庫の先にキリア専用訓練場をコアに作ってもらった。広さは50メートル四方。天井の高さは10メートル。部屋全体はそれなりに明るくしている。
俺はキリアを新しくできた訓練場に連れていった。
「キリア、ここならメタル警備ゴーレムと訓練できるからな。
メタル警備ゴーレムならまだキリアより強いと思うから遠慮する必要ないから」
「はい」
キリアの訓練所用に2体のメタル警備ゴーレムを置いておいた。これまでキリアは訓練時もフレイムタンを振り回していたのだが、相手がメタル警備ゴーレムだと、へたをするとフレイムタンが折れてしまうかもしれないので、コアに形も重さもフレイムタンと同じ鋼の剣を作らせた。できた鋼の剣は俺が10本に増やしている。
フレイムタンも魔法の剣かもしれないがそこまで大層な魔法の剣には見えないので、錬金工房で試しにコピーしたら簡単にコピーできてしまった。そこらの鋼の剣ならダンジョンで振り回していれば成長するので、こんなことならそっち使わせておけば良かったかもしれない。とはいえ、フレイムタンのおかげで魔神の眷属を斃す糸口がつかめたのは事実だからちょっと言い過ぎか。
さっそくキリアは防具を着込んでメタル警備ゴーレム相手に訓練用の鋼の剣を振っていた。
キリアの訓練を少し眺めていた俺は、そのあと風呂に入った。
風呂に入りながらコアの位置について考えていたのだが、一度、ピョンちゃんを使ってコアの方向を確定した後、正確に90度右なり左に十分長い距離を航行して、そこからコアの方向を確かめれば、3角測量の要領でだいたいのコアの位置がつかめることに気が付いた。もう少し早く気付いていればよかった。
翌朝。
ロイヤルアルバトロス号は航行方向をほとんど変えないまま左手に陸地を見て進んでいた。これでハリトから1300キロ離れたことになる。左手の陸地以外に陸地は見えなかった。
そこで俺は昨日考えた3角測量を行なうため、朝食まえ、華ちゃんに頼んでピョンちゃんをロイヤルアルバトロス号のブリッジに連れてきてもらい、コアのある方向を確かめてもらった。
俺の予想だとロイヤルアルバトロス号の今現在の進行方向を0度とすると、左手50度から75度の間にコアがあると思っていたのだが、ピョンちゃんの向いたのは進行方向の左手60度だった。
まあそれはいいや。
その後俺は右に転舵してピョンちゃんの首がまっすぐ左を向くように船首を向けた。
「陸地からは遠ざかるけど、このまままっすぐ進んでみよう。今8時だから午後8時まで30ノットで進むと660キロ。そこでコアの方向をピョンちゃんで確かめれば、コアの位置ないしは下り階段の位置がつかめるだろう」
「さすがは岩永さん。わたしも気づきませんでした」
華ちゃんにそう言われると、俺も少し頭が良くなった気がし始めた。
今日は宮殿への出勤日なので、朝食を食べたあと一休みしてからアスカ1号を連れてオストラン神殿に跳びローゼットさんを拾って宮殿の執務室に跳んだ。
例のごとく書類に目を通しながらハンコを押していたら、ブラウさんがやってきた。
「陛下、戴冠式はきょうから5週間後ですからよろしくお願いします。
各国の大使の他、本国より皇太子並みの要人が列席しますのでよろしくお願いします。
前回お渡しした式次第は若干こちらで修正することがありましたので、新しく作り直しています」
そんなの見た覚えはなかったのだが、ブラウさんから新しい式次第の書かれた紙を受け取った。
その紙には式次第が細かく書かれていた。似たようなものを見たことがあるようなないような。ぜんぜん覚えていないところを見ると、貰っていないような気もするが、何となく見たことがあると言えば見たことがあるような。俺のあやふやの記憶力のことはとにかく、もらった式次第は大事にしよう。
「それで、戴冠式での陛下の衣装ですが、陛下のあの黒く輝く防具を着けての戴冠が成王の試合に勝利して王に成られた陛下にふさわしいのではと考えたのですがいかがでしょうか?」
「それは願ったり叶ったりですから、それで行きましょう」
「ではそういうことでお願いします。
それと、留学生についてですが、20名の人選は終わりましたので、名簿をエヴァ王女殿下にお渡ししています」
「了解しました」
留学生についても順調のようだ。
「それでは陛下、失礼します」
そう言ってブラウさんは帰っていった。
そういえば、戴冠式ということは冠があるって事だろう。それなりのラシイアイテムがなくて今までさんざん苦労させられたわけだが、そんなラシイアイテムがあるんならあるで、早く俺に寄こしてくれていればよかったのに。
よく考えたら戴冠式前に冠を俺が持ってたら結構おかしいものな。今俺が持っていないのは当たり前だった。
あと、日本語のスキルブックを補充しないと。このまえエレギルに使わせたら、留学生には1枚足りなくなってしまった。ここで昼食を食べたら、もう50枚ほど日本語のスキルブックをコアに創らせよう。
ハンコ仕事が終わったところで、ローゼットさんに、コミック図書館を宮殿内につくりたいので空いた部屋を探してくれと言ったところ、
「デスクライトと文房具などを置いた部屋の続きにまだ空き部屋がありましたので、その部屋を片付けてしまいましょう。片付けに1時間くらいかかるかもしれませんので、片付けの指示をしてまいります」
そう言って執務室から出ていった。
俺の方は仕事も終わっていたので、昨日読んでいたコミックの続きを読んでいた。
10分ほどしてローゼットさんが帰ってきて、片付けと掃除はあと30分ほどで終わると告げられた。
30分ほどコミックを読んでから、ローゼットさんと一緒に図書館用の空き部屋に向かった。
「ここならたくさんコミックが並べられるな」
俺はまず大型キャビネットを壁に沿って並べていった。
そのあと、アイテムボックスに入っている、コミック入り段ボール箱を並べて、箱の中からコミックをキャビネットに並べておいた。
「陛下、わたしもお手伝いします」
と、ローゼットさんが言ってくれたのだが、俺はコミックを順番に並べていくのが楽しいので、その申し出は断った。
「自分でするから大丈夫」
俺はアスカ1号に開いた段ボール箱を持たせて、そこからコミックを取り出してキャビネットに並べていく。少女漫画と一般漫画は別にしないといけない。少女漫画の入った箱は後回しにして一般漫画で並べていった。1巻から順に最終巻までしかも作者別で順番に箱の中に入っていたので、並べていくのに時間はかからなかった。
結局10分もかからず全部の段ボール箱からコミックを取り出して並べ終えた。俺とアスカ1号が作業しているあいだ、適当にコミックを読んでいればいいとローゼットさんに言ったのだが、遠慮してしまい、俺たちの作業を最後まで眺めていた。
「待たせたけど、コミックの数がそれほど多くなかったから予想以上に作業は早く片付いてしまった。それじゃあ部屋に戻ろうか」
執務室に帰ったところで、昼食の準備ができたから食堂に移動するよう侍女に言われた。
その日の昼食をローゼットさんととって、オストラン神殿に送ろうかと言ったら、仕事が少し残っているので、もう少し宮殿にいるということだった。
「ローゼットさんがまだ残っているなら、これから留学生用のスキルブックを創ってくるから、できたらブラウさんに持っていってください」
「はい。かしこまりました」
俺はアスカ1号を連れて、コアルームに跳び、日本語のスキルブックを50個ほど創らせた。来年以降の留学生が何人になるか分からないが、来年ぐらいまでは何とかなるだろう。
俺はスキルブックをアイテムボックスにしまって、宮殿の執務室に跳んで留学生用の20個のスキルブックを紙箱に入れて渡しておいた。
「それじゃあ、よろしく」
「はい」




