第466話 ミルワ城塞都市開城。
俺はゼンジロウ1号用のYKZスーツを改造しながら考えてしまった。大召喚術師のコスチュームはあれはあれでよかったが、なごみはあったがすごみが若干足りなかった。お茶の間番組では限界があったようだ。
今後ミルワ側と何か交渉することがあるなら、YKZスーツを着てもいいかもしれない。なにせYKZだし。俺の後ろに控える、華ちゃん、アキナちゃん、キリアにエレギル、4人も揃いでYKZスーツを着ればすごみ抜群。どんな相手でもビビってしまうのではなかろうか? ついでに真っ白で首から垂らすと膝まで届くアッソウさんマフラーもいいかもしれない。
何はともあれ日本公式訪問の衣装は決まった。ゼンジロウ1号には正式な方の衣装に着替えさせアイテムボックスに収納しておいた。
そして翌日。
昼食を食べ終えた俺はロイヤルアルバトロス号のブリッジに跳んだ。
アスカ2号はちゃんとドローンのコントロール席に座ってモニターを眺めていた。偵察用カメラのモニターにはミルワ側の城塞都市が映っていた。
「アスカ2号、ご苦労」
「マスター、おはようございます。
下の城塞都市内では目だった動きはありませんでした。
夜間一度河口付近までドローンを移動し偵察しましたがこちらも目立った動きはありませんでした」
「了解」
俺は詳しい説明をアスカ2号にしていなかったが、ちゃんと目的を理解してドローンを運用していてくれたようだ。実に頼もしい。
今日の作戦は、ミルワ側に更に圧力を加えるため城塞都市上空50メートルでのメタルゴーレムドラゴンの乱舞だ。
俺はテラスに出てメタルゴーレムドラゴンを10匹ずつアイテムボックスから声の届く範囲の空中に排出してやり、転送されたら都市上空を高度50メートル程度でランダムに飛び回るよう命令して転送してやった。それを都合10回行ない最後に締めの1匹を転送して、101匹ドラちゃん大行進を完成させた。
さーて、どんな感じで乱舞してるかな?
ブリッジに戻って、アスカ2号の肩越しにモニターに映った光景を見たら、銀色のドラゴンがわちゃわちゃと城塞都市の上空というか頭上を飛び回っていた。ドラゴンたちだけを見ると壮観と言えば壮観なのだが、下の街では大騒動になってた。
昨日は攻撃を全く受けなかったが、今回は地上50メートルという低空なのでいたるところから矢が射られ、そのほかにも、ファイヤーアローやファイヤーボールといった魔法も打ち上げられた。メタルゴーレムドラゴンに命中したものもあったが、いずれも全く効果はなかった。特に打ち上げられた矢はいずれ落っこちてくるので相当危険だ。ミルワ側もすぐに気づいたようで矢による攻撃はなくなった。
街の住人たちといえば、とるものもとりあえず街から出ようと4つある街の門のうち橋に続く門以外の3つの門に向かって殺到し始めた。
一種のパニックになったように見える。へたをするとケガ人が出そうな危なさがある。
街の住人達には気の毒だが今回の威嚇はかなり効果があったようだ。
ちょっと行ってみるか。いや待て。もう少し威嚇してやろう。
俺は再度テラスに出て、テラスの上にメタル大蜘蛛をまず50匹出してやった。
テラスで銀色の蜘蛛たちが重なり合ってうごめいている。見るものが見れば感じるものがあるのだろうが、俺からすれば実に頼もしい。
「お前たち、これから城塞都市の中に転送するから、まとまって通りを練り歩け!」
そう言って50匹のメタル大蜘蛛を送り出した。
これも10回繰り返してやった。都合500匹の蜘蛛ちゃん大行進だ!
作業を終えた俺はブリッジに戻って、偵察カメラが送ってくる映像を見ていたら、通りを銀色の塊が動いていた。移動速度はそれほど速くはないが、人の走る速さ程度は出ている。さして広くもない城塞都市の中を銀色の塊があっちこっちで動きまわっているものだから、街の中はさらに混乱していった。
「ちょっとやり過ぎたか?」と、思っていたら、アスカ2号が、
「マスター、橋に面した門の上から場外に向けて白い布が下ろされました。
今、門も開かれました」
「降伏のつもり?」
「分かりませんが、おそらくそうだと思います」
「戦を止めたいだけだったんだが、これってどうすればいいんだ?」
「降伏を受け入れると、軍使を派遣するのではないでしょうか?」
「軍使か。
俺がいった方がいいだろうな。
今からじゃ華ちゃんたちを招集できないから、俺とアスカ2号、それにメタル警備ゴーレムでいってみよう。
アスカ2号、テラスまで付いて来てくれ」
「はい」
俺はどうせブリッジには誰も来ないだろうと思いその場でYKZスーツに着替えた。赤いペイズリー柄のネクタイを最後に締めて出来上がりだ。白いマフラーはなかったがそこは仕方がない。
その格好でアスカ2号を連れてテラスに出た俺は、メタル警備ゴーレム6体をアイテムボックスから排出して並ばせ、
「お前たちは俺の護衛をしてくれ」
「「……」」メタル警備ゴーレムは無言で右手を上げた。メタル警備ゴーレム口がないから仕方ない。
「先にお前たちを転送してから俺とアスカ2号が転移する。
転送!」
6体のメタル警備ゴーレムを橋につながる門の前に転送し、続いて俺は、警備ゴーレムの前方にアスカ2号を連れて転移した。
対岸のハリト側の城塞からでもミルワ側の城塞都市の上空を舞う銀色のドラゴンの姿は見えていたろうが、昨日の今日なので都からの使者はまだ到着していないだろうからハリト側でも警戒していたことだろう。こうなってしまった以上、ハリト側の城塞は無視して話を進めてしまおう。ハリトの宰相からも頼まれていることだしな。
俺たちが開いた門の前で待っていたら、城塞内から立派なひげを蓄えたおっさんが出てきた。着ている赤い服は軍服なのだろう。胸の辺りに飾りが沢山ついているのは何かの勲章のようだ。そのおっさんの後ろに同じく赤い服を着たおっさんが二人後ろに同行している。
「貴殿が召喚術師ゼンジーロ殿か?」
「いかにも、わたしがゼンジーロです」
「わたしは今回の出師の指揮を執るミルワ総軍のブソンです。
わが軍は、この城塞都市カイケを差し上げます。
速やかに、銀色のドラゴンと銀色の大蜘蛛をお引き願いたい」
城を貰っても仕方がないのだが、ここはもらっておく以外にない。
「了解しました。
ミルワ軍は速やかにこの城塞より退去してください。撤退中のミルワ軍に対して攻撃することはありません。
それとこの川の河口付近での兵の展開もお控えください」
「承りました。
ブソン内の兵は1時間以内にブソンより退去します。
この2名を人質として残します」
「人質は不要です」
そんなものをもらっても困るし、人質を処断する必要が出たりしたらなおさら困る。
俺とメタルモンスターたちは主従の関係で結ばれている関係で何となくメタル大蜘蛛もメタルゴーレムドラゴンも俺の声が聞こえなくても意思が伝わるような気がした。
「メタルゴーレムドラゴン、メタル大蜘蛛、集まれ!」
なるべく重厚な声を出したつもりだったが、自信はない。
ドラゴンたちはすぐ集合したので、メタル大蜘蛛もそのうち集まってくるだろう。
俺の頭上で舞うドラゴンたちをそのままの形でアイテムボックスに収納したところで、ミルワ軍の3人が引き上げていった。
そのうちぞろぞろとメタル大蜘蛛が集まってきたので、メタル大蜘蛛もそのままの形でアイテムボックスに収納してやった。
貰ってしまったブソンの街を放ってはおけないが、俺では放っておくしかないので、対岸のハリトの城塞都市に丸投げすることにした。
「ハリト側の城塞都市に行って事情を話し、ブソンを接収してもらおう」
アスカ2号と警備ゴーレム6体を連れた俺は橋の上を歩いてハリトの城塞都市に向かった。




