第465話 魔術レベルマックス。YKZスーツ
華ちゃんが魔術スキルマックス=Lv7になったところで、二人してロイヤルアルバトロス号のブリッジに跳んだ。ドローンをコントロール中のアスカ2号に、
「何か壊していいような目標が街の中にあるかな?」
「たいていのものは壊してしまえばそれなりに困る人がでると思います」
アスカ2号に正論で返されてしまった。
「岩永さん、別に魔術がドローンのカメラ越しに発動できるかどうか調べるだけだから、空に向かってファイヤーボールを撃ってもいいですから」
「確かにそうだな。それでは華ちゃん。盛大なファイヤーボール頼みます」
「街の上空、500メートルくらいで爆発する感じで。
魔術が発動したら、ドローンの偵察用カメラから魔術が放たれたように見えるはずです」
「それは、ファイヤーボールがどんな感じで飛んでいくか見られて好都合だな」
「じゃあ、行きまーす。
ファイヤーボール!」
ドローンの偵察用カメラが一瞬ホワイトアウトして、それが戻らないまましばらくして画像が大きく揺れた。
「うまくいったようだが、全く見えなかったな。
アスカ2号、画像が大きく揺れたのは、爆発のせいなのか?」
「そのようです」
「音がなかったから迫力が今一だったが、相当威力があったんじゃないか?」
「マスター、爆発の直下と思われる建物数軒の屋根が破損しています。窓については不明です」
地上では上空での爆発に驚いたのか、建物からワラワラと人が通りに出て騒ぎ始めた。
「ファイヤーアローにしとけばよかったか。いや、それだと地面に到達して何かを吹っ飛ばしたろうから、これでよかったのか。ケガ人が出たかもしれないが、仕方がない。
これでいろいろなことが可能になる」
「これでいいですか?」
「うん。華ちゃんご苦労さま」
「わたしは屋敷に戻ってオリヴィアのピアノを見ています」
華ちゃんはそう言って屋敷に戻るためブリッジから下に下りていった。
「だいぶ脅しは効いたと思うが、効いたかどうか確かめようがないところが問題だな。
ミルワのお偉いさんが街の中にいるなら直接出向いて決着をつけてやるんだが、どこにいるか全く見当もつかないし、ちょっと無理だな。
ドラゴンたちがこのまま街の上空に居座っていたら住民の生活にもかなり支障が出るだろうからそろそろ撤収するか。
アスカ2号、ドローンの偵察カメラでドラゴンの編隊を捉えてくれるか?」
「はい」
すぐにドラゴン10匹が見事なデルタフォーメーションで街の上空を飛んでいるところがモニターに映った。
「収納」
一度に10匹丸ごと収納できた。そういえばさっき転送するのも10匹丸ごと転送できた。俺の転移スキルもアイテムボックススキルもレベルがマックスなので数字には現れないが、レベルアップしているのかもしれない。
「アスカ2号、ドローンは高度を3000まで上げて城塞都市の上を旋回させておいてくれ」
「はい」
河口付近にもメタルゴーレムオルカを送ってやろうかと思ったが、よく考えたら、地味なメタルゴーレムオルカより派手なメタルゴーレムドラゴンを送り込んだ方がインパクトがあるような気がしたので、それについては止めておいた。メタルゴーレムオルカの場合ドローンから見つけることは難しいので回収も厄介だし。
華ちゃんのカメラ越しの遠隔魔法実験も成功した。こうなってくると、ドローンは戦略爆撃機だな。見えない敵からミサイルを撃ち込まれたらアウトだから撃たれ弱いだろうが、こっちが相手を見つけてしまえば楽勝だ。
それから俺はいい気持でロイヤルアルバトロス号の風呂に入った。
湯舟の中でふと思いついたのだが、
これまで、人の入った状態で乗り物などをアイテムボックスに収納しようとしたことはないのだが、そのとき人はどういった状態で投げ出されるのだろうか?
具体的には服を着たままなのか? それとも真っ裸なのか? 大きな問題だ。俺のアイテムボックスはかなり高性能だからおそらく着衣のままのハズだが試してみないと分からないよな。そのうち試して見よう。とはいうものの真っ裸になっては大変なので、簡単には試せないな。頼めると言えば親父ぐらいか。そのうちタートル号で試してやるか。
俺は風呂から出て、子どもたちにロイヤルアルバトロス号の風呂に入るように言い、ホームポジションである屋敷の居間の電気をつけていないコタツに入ってミカンを食べながら待機していた。そこに銀座の仕立て屋と靴屋から荷物が送られてきたとアスカ3号が大きな箱と小さな箱をマンションから持ってきてくれた。
ゼンジロウ1号が銀座で仕立てた服と靴だ。
荷物を受け取った俺は、自室に戻って大きな箱の中からまずはでき上ったスーツを出してみた。そして靴も箱から出してみた。
箱から出てきたスーツは妙にテカった黒い生地に、白のストライプのダブルのスリーピース。絹のワイシャツ。他に小箱に入って赤いペイズリー柄のネクタイと黒いベルトも中に入っていた。箱から取り出した靴は黒のピカピカのエナメルの革靴。フォーマルと言えばフォーマルかもしれないが、これはどう見てもその道の方々の制服ではなかろうか?
それでも、ちゃんと身に着けた状態で客観的に評価しようと思い、ゼンジロウ1号をアイテムボックスから出して、自分で選んだ衣装を着るように言った。
ゼンジロウ1号が自分で選んだ衣装に身を包んだ。ビシッと決まってはいるのだが、決まり過ぎなのだ。たしかにYKZスーツである。ゼンジロウ1号はアキナちゃんの広島弁の映画を見ていないはずだが、どうしてこうなった?
ゼンジロウ1号が買い物から帰って来た時受け取ったおつりは5万円弱だった。渡したお金は100万円だったのだが。
いくら影武者が着るとはいえちょっと引っかかるものがある。とはいえ買ってしまったものは買ってしまったものだから、無駄にはできない。
ゼンジロウ1号のセンスのあまりの場違い感に現実逃避してしまったのか、ここで俺は考えた。
国賓として俺が日本に招かれるとして、どんな感じで登場すればいいんだろう? これまでの国賓は基本的に島国日本に飛行機で到着したはずだ。
オストラン王国と日本はいわば陸続き。実質的な距離は100メートルしかない。俺はYKZスーツ姿で日本人町のゲートからダンジョン内を100メートル歩いて、山陰の山の中のゲートから出てくるのだろうか?
そこからタクシーで迎えに来てもらい、空港に移動して羽田まで? いいのかよ?
さすがに迎えの車は日本側で用意してくれるのだろうが、何となく締まらない。そもそも国賓が随員も連れずフラフラ一人で歩いているという発想がおかしかった。随員をそれなりの数揃えて登場すればそれなりの風格も出るだろう。その辺りは日本側と打ち合わせが必要だ。随員が多すぎて迎えの車にあぶれたりしたらかわいそうだし。
俺一人が頭の中で考えていても仕方がないので、正式に国賓要請されたら、またエヴァにこっちの担当者になってもらおう。
話を元に戻して、目の前のゼンジロウ1号の着ているスーツをどうするかだ。YKZスーツでも、ダイヤモンドをちりばめたプラチナネックレスをかければそれなりに締まるのでは?
そう思って、ネックレスをゼンジロウ1号に渡して首からかけさせたところ、確かにYKZ感は薄らいだ。そのかわり、ダイヤモンドをちりばめたプラチナネックレスが妙にチープに見え始め、今度は成金おじさんっぽく見えてきた。
「ゼンジロウ1号、だいたいのことは分かった。元の普段着に戻ってくれ」
ゼンジロウ1号が普段着に着替えたところで、スーツ一式を収納しておき、ゼンジロウ1号もアイテムボックスに収納しておいた。最初からそのまま収納しても同じだった。
生地は上等なものだろうし、あつらえたものだからちゃんとフィットしているのは確かだ。形ではない。いや、ダブルもちょっとアレだが、元凶は白のストライプだ。白のストライプが全てを台無しにしている。
一度YKZスーツをコピーしてレシピを作り、それを元に同じ形で色違いのスーツを作ってみた。まずは白いストライプをなくしただけの真っ黒なスーツ。もう一つはその真っ黒をダークグレーに変えたもの。絹のワイシャツはちょっと派手に見えたが、そのままの形で着替え用に4枚ほど増やしておいた。靴ももう1足増やしておいた。
せっかく色違いというか、模様違いのスーツを作ったので、もう一度ゼンジロウ1号をアイテムボックスから出して、黒のスーツ姿に着替えさせた。
さっきよりよほどましだが、素材が素材なのでこれ以上欲張ってもしかたがない。
ゼンジロウ1号は黒のスーツ姿のままアイテムボックスにしまっておいた。
スーツも何着か必要だろうから、出立時にはスーツケースを用意して荷物の整理をしなくてはならない。
移動の前日に自分で荷物の整理をする国賓は少ないかもしれない。宮中の晩餐会の席で、そういった話をしてやれば、周りの人たちに受けそうだ。そのうちこの話が広まって、オストラン国王は茶目っ気と親しみのある王さまだと日本国民にアピールできるかもしれない。
国賓として日本に招かれるのは影武者ゼンジロウ1号の予定なので、こういった諸々の記憶をゼンジロウ1号に植え付けるため出立前にゼンジロウ1号の頭脳をアップデートする必要がある。




