第464話 偵察2
ドローンはアスカ2号の操縦のもと、ハリトとミルワの国境をなす川を遡りながら偵察を続けた。
川を遡り始めて30分ほど経ったところで前方に橋が見えてきた。その橋の両端には各々城壁をめぐらした城塞都市が広がっており、橋を抜けるためには城塞都市を通ることになる。ドローンはそこで高度を1000メートルまで落とし旋回しながら詳しく偵察を始めた。
城塞の外に軍隊は見当たらなかった。そして橋の上を通行しているものは誰もいなかった。両国ともに城塞都市の橋側の城門を閉じて通行禁止にしているのだろう。緊張が高まっている証拠だ。
城壁内を偵察したところやはり城門は閉じられていた。そして両国とも城壁内に兵を入れているようだった。実数は分からないが、ミルワ側の城塞内の兵数が格段に多かった。
ドローンは再度高度を3000メートルに上げて川を遡っていった。
「お父さん、昼食の準備ができました」
アスカ2号の肩越しにモニターを覗き込んでいたら、エヴァが昼食の準備ができたと知らせに来てくれた。
「エヴァ、ありがとう。
アスカ2号、あとは任せた。両国の軍隊に急な動きがあるようなら教えてくれ」
「はい」
あとはアスカ2号に任せ、俺はエヴァと屋敷の食堂に向かった。
「「いただきます」」
食事中、先ほどまでの偵察結果をみんなに話しておくことにした。
「ドローンで両国の国境の川を河口から遡って偵察したところ、ミルワ側で大規模な軍隊の動きは確認できていない。その代り、河口近くの川岸には船が多数係留されていた。おそらく渡河用の船と思う。こいつらを壊せば渡河を断念せざるを得なくなるだろうが、戦が始まる前から壊すわけにもいかないと今は放っておいた。
エレギルが言っていた通り川の中流に橋があった。橋の両側のどちらにも城塞都市があって、橋に向いた門を閉じていて、橋の上には人っ子一人通っていなかった。
そこまでが今のところの偵察結果だ。ドローンを操縦しているアスカ2号に、ミルワ側で具体的な動きがあるようなら知らせるように言っておいた」
「岩永さん、具体的動きって?」
「軍隊が橋を渡り始めるとか、川を渡るために船の前に集結する。そんなところだな」
「そういった動きがあったら具体的にどうするんですか?」
「そうだなー。船に乗り込もうとしたら、メタルゴーレムオルカで片端から船を沈める。
橋を渡ろうとしたら、橋をゴーレムで封鎖する。
そのあとで、101匹ドラゴン大行進で威嚇する。
あとは、そうだなー。空からビラを撒くのも手だな。
こんな感じで、
『大召喚術師ゼンジーロが命じる。
戦の準備を速やかに停止せよ。
戦の準備を続けるようなら、われが召喚するドラゴンたちにより実力行使に移る』
どうかな?」
大召喚術師ゼンジーロで、事情を知っている華ちゃんたちは笑い顔になって、事情を知らない連中にその辺りを説明してやっていた。
「その作戦でいいんじゃないでしょうか。ドラゴンの群れを見て何かしようとする人がいるとはとても思えませんから」
「じゃあ、この線でいこう」
「でも肝心のドラゴンやオルカをそういった場所にすぐに送れるんですか?」
「まだちゃんと話していなかったか。実はドローンが詳しく観察した場所に転移で飛んでいけることはマハリトに跳んで行ったから分かっていると思うけど、同じように転送もできるんだ。だから河口にも橋の近くにもゴーレムを転送できる」
「それって全然知りませんでした。たしかに、いつの間に岩永さんがマハリトの街のことを転移できるくらい知ってたんだろうとは思いましたが、岩永さんだからと勝手に思ってました」
「アハハハ! それはわらわも同じじゃ」
「わたしは違いまーす。
わたしは、さすがはお父さんと思っていました!」と、キリア。
キリアが一途だということだけはよーく分かった。
昼食のデザートに出された島パイナップルを食べて、午後から俺はA4のコピー用紙を使って食事中考えたビラの文言をハリト語で書いてやった。
われながら、芸術的に字が汚い。こんなのを人に見せたら失笑確実だ。ということで俺はコアルームに跳んで、コアに清書してもらうことにした。
「コア、サンキュウ」
コアに創ってもらったビラは活字で印刷したようなビラだった。これなら大召喚術師ゼンジーロの名に恥じないだろう。
元はA4で作ったビラだったが空から降らすにはちょっと大きいような気がしたので4分の1の大きさのA6にしておいた。これなら紙吹雪のようで降らせたとききれいだろうし、広範囲に広がっていくだろう。
俺の錬金工房は知らぬ間にレベルアップしたのか、最初からそうだったのか、今となっては分からないが、ビラのような軽いものなら一度に1万単位でコピーできる。なので1万単位で100個ほどビラの束を作ってやった。これを上空500メートルあたりから落としてやればいい塩梅に広がりながら落ちていくだろう。
ビラ撒きはゴミをばら撒くことかもしれないが、こちらが行動する前にビラを撒いておけば、こちらの行動の意図が十分伝わるだろう。
ということで、俺はロイヤルアルバトロス号のブリッジに立ったまま、ミルワ側の城塞都市の上空から5万枚チラシを撒いてやった。いったん上流目指して飛行を続けていたドローンも引き返してミルワ側の城塞都市上空を旋回していたので、モニターにチラシが広がりながらヒラヒラと降っていくのが実にきれいだった。次回ビラをまくことがあるなら、色紙にしておこう。
河口付近のミルワ側の川岸辺りには1万枚ずつ1キロ間隔で10カ所ビラを撒いてやった。こちらはドローンはいないので、どんな感じにビラが広がって落ちていったのかは分からない。
もちろんビラだけではただの怪異現象なので、10匹デルタフォーメーションになるよう、テラスからメタルゴーレムドラゴンを声の届くあたりに排出してやり、
「これからお前たちを城塞都市の上空に転送する。上空100メートルあたりを舞っていろ!」
そう言ってドラゴンたちをミルワ側の城塞都市の上空というか頭上100メートルに転送してやった。
転送したメタルゴーレムドラゴンが街の上を旋回しているところが、上空1000メートルで旋回するドローンの偵察用カメラに映った。なかなかいい感じで飛んでいる。飛びながらしっぽが揺れるところが妙に生々しい。
空を見上げて何か叫んでいる者。俺が撒いたビラを持って走り回っている者。1000メートル上空からでも良く見える。
銀色に輝くドラゴンを見たことがある者はいないだろう。それが頭上をデルタフォーメーションで舞っているのだ。自衛隊のブルーインパルスの展示飛行と違って、明らかに自分たちに対する威嚇飛行ということがビラから分かるから、それは怖いだろう。
メタルゴーレムドラゴンは正解だった。このままずーと飛ばしておくと、何もできないのではないかと侮られる恐れがあるので、何か壊してもいいものがあれば壊して実力を見せてやりたいのだが何かないか?
よく考えたら、ドラゴンたちに命令を伝える手段がなかった。放っておいたら何日だろうが何年だろうが街の上を旋回することになる。ドローンでドラゴンたちは把握しているのでアイテムボックスの中に収納し、ロイヤルアルバトロス号の上空に排出して口頭指示してから、転送という方法はとれるがちょっとスマートさに欠ける。とはいえ、今のところそれしか思いつかない。
何かいい手はないか考えながらドローンで上空から街を観察していたら、俺はすごいことを思いついてしまった。
俺がドローンの目を通して転移やアイテムボックスが使えるくらいなら、華ちゃんは魔法を使えるんじゃないか?
華ちゃんが、俺みたいにドローン越しに魔法を発動できたらエライことになる。単純な攻撃もし放題だし、前回、重力魔法で海賊とレングスト島の兵たちを一緒くたに身動きさせなかったように城塞内の人間をまとめて身動きできなくすることもできる。
俺はその場をアスカ2号に任せ、華ちゃんのいそうな屋敷の居間に跳んでいったら、華ちゃんとオリヴィアがちょうど休憩中のようでグランドピアノの椅子に座るオリヴィアと隣に立つ華ちゃんとで談笑していた。
「華ちゃん、ちょっといいかな?」
「はい。何でしょう?」
「実は、……。
どう思う?」
「やって見なければ分かりませんが、ちょっと無理っぽいような。自信はありません」
「華ちゃんが自信がないとは。
そうだ! 華ちゃんの魔法のレベルって今6くらいだったろ?」
「はい」
「魔法をマックスまで上げたらいけるんじゃないか? 幸いダンジョンポイントは沢山あるはずだから簡単に魔法のスキルブックは作れるし」
「それじゃあ試してみましょうか」
「一緒にコアルームに跳んで、スキルブックを作ってどんなものか様子を見てみよう」
「はい」
俺たち二人はそのままコアルームに跳んだ。
「コア、魔法のスキルブックを4つ作ってくれるか?」
「魔術のスキルブックは創れますが、魔法スキルを知りません」
「悪い。魔術でいいんだ」
「了解しました。
できました」
例の台座がせり上がってきてその上にスキルブックが4つ乗っていた。
「それじゃあ、華ちゃん、やっちゃってください」
「はい」
華ちゃんがスキルブックを一つ手に取って、両手で折った。折れたスキルブックは砂のように崩れていき消えていった。
華ちゃんを人物鑑定したところ、
魔術LvMax、錬金術Lv1、鑑定Lv1、片手武器Lv1、打撃武器Lv2、アイテムボックスLv1、ハリト語
と、なっていた。
「華ちゃん、魔術はレベルマックスになってた。どうやら魔術のレベルマックスは7だったみたいだな。魔術のスキルブックが余ってしまった。アイテムボックスに収納しておこ。そのうち贈答に使ってもいいしな。
それで、華ちゃん。どんな感じだ?」
「何でもできちゃう? なんだかそんな感じがします。これならドローンの目を通して魔術を発動できるかも」
「よし、それじゃあ試して見よう。
ロイヤルアルバトロス号のブリッジでドローンの撮影している画像がモニターに出ているから行ってみよう」
「はい」




