第44話 進め! タートル号。1
昼食を終えた俺は、裏庭に出て今日の午前中駐車場でコピーした大型車を取り出してみた。
デカい! 車輪もでっかいので、凸凹道も平気そうだ。いわゆるオフロードカーっていうやつかもしれない。いや、クロスカントリー車だったか? どうでもいいけど。
車の正面に付いている自動車会社のエンブレムはト〇タ車だな。ということは目の前の車は、中東などで活躍しているラン○ルの高級バージョンのような気がする。
キーはもちろんどこにもない。車本体を作った以上、車内のロック関係の機構も当然作っているので、キーくらい作成できるはずと思って念じたら、簡単にキーができ上った。さすがは錬金術Lvマックスだ。でき上ったキーをドアノブの脇の鍵穴に差し込んでひねりドアを開けた。
運転席に座って、パネルの中の距離計を見たらまだ100キロも走っていない、新車同然の車だった。それはいいのだが、ハンドル周りやダッシュボードを見たがキーを差し込むところがどこにもない。あったのは、ダッシュボードの端の方にENGINE START STOPと書かれた丸いボタンだけだ。
「これを押せばいいんだな」
そう思ってそのボタンを押し込んだものの、うんともすんとも言わない。
そこらの配線をいじればエンジンを起動することも可能かもしれないが、こういったセキュリティーがしっかりした車では無理だろう。そもそも、相手がどういった車であれ俺にそういったスキルは当然ない。あるわけない。
「これって、どうすんの?
まさか、この車。俺しか積んでないけど、詰んでるんじゃね?」
一人ダジャレを言ったところで状況が改善されるわけもなく。
俺が教習所で習った時の車はキーを突っ込んで回すタイプだったが、今の世の中、キーがいらない世の中になったのか? 世の中の移り変わりは激しいなー。というか教習所の車が古すぎたようだ。
車から降りた俺は、いったんランク〇をアイテムボックスに収納して、今後の方針について思案した。
『ここまできた以上車は欲しいよな。
とはいえ、今どきの車じゃなくって、キーを回してエンジンをかける自動車じゃないとダメだ』
『そういった車で、オフロードをバンバン走れる車となると。……』
『どこでも走れるという意味ではキャタピラーが付いてる車両だが、それは逆の意味で使いにくい。そう考えると自衛隊の車両が一番だろう』
『俺のアパートから近くはないがそれほど遠くないところに自衛隊の駐屯地があったはずだ。陸上自衛隊の見学コースがあったので一度見学に行ったとき見つけたものだ。見つけたと言っても見学コースの隣が駐屯地だっただけだけどな。たしかその駐屯地の構内で緑ががった灰色に塗装されたでっかい自動車が走っていた。
あれだ!』
『よーく思い出せば、あの見学コースの前に転移できるかも? ……。
よーし、きた、きた、きた、きた。はっきり思い出せてきた! これならいける。いくぞ! 転移!』
やって来たのは陸上自衛隊の見学コース『りっくんランド』の前。その隣が陸上自衛隊の駐屯地だ。道路に面した歩道を歩いて、駐屯地の中がよく見える場所まで歩いていった。鉄格子のフェンス越しに中の様子がよく見える。いたいた。
幅広の4輪車が構内に駐車していた。俺に扱えるかわからないが、とにかくカッコいい。別に俺はミリオタではないが使い込んだ感じがなかなかだ。
フェンス越しにその車をアイテムボックスに収納。複製ボックスに素早く移し、コピー。オリジナルは元の場所に。
10秒くらいに感じたが、おそらく実際は5秒ほど世の中から消えたその車の異変は、誰にも気付かれなかったようだ。気付かれたところでどうなるわけでもないし、いずれ目の錯覚で片付けられるだけのことだ。
俺はほくほく顔で、屋敷の裏庭に転移で戻っていった。
ラン〇ルを先ほど出した場所に、こんどは自衛隊の車両をコピった車両を排出した。こいつはあのデカいラン〇ルの比じゃないほどデカかった。
運転席のドアには鍵がかかっておらず、ドアを開けて中を見たらもちろんキーは付いていなかった。そのかわりハンドルの右側、ダッシュボードの下あたりに鍵穴があった。これなら大丈夫のハズ。
「いでよ、わが愛車のキーよ!」
今のところこの車に名まえを付けていないのだが、既にこの車は俺の愛車なのだ。
ラ〇クルでドアのキーができた以上、わが愛車のキーもできるはずと思ったら、ちゃんとキーができた。今度こそフツーのキーだ。ありがたや、ありがたや。
運転席に乗り込んでキーを鍵穴に差し込んで回したら、簡単にエンジンがかかった。
それと同時に、インパネの中のタコメーターと燃料計のメーターも動いた。燃料は半分くらい入っていた。水温計のメーターは動いたのかどうかはわからなかった。警告灯の類は点いてはいない。
燃料はガソリンではなく軽油のハズなので、燃料タンクを意識し中に入っていた燃料をアイテムボックスに移してコピーし、燃料タンクが満タンになるようコピーした燃料をタンクの中に直接入れてやった。
これで燃料計の針はFを指した。俺の体感だが、わが愛車の燃料タンクは100リットルはあるようだ。
裏庭に俺の愛車をだしたままにしておくとかなり邪魔なので、車から降りた俺は、アイテムボックスに収納しておいた。
愛車、愛車というのも言いづらいが、普通車でも車種など分からない俺に自衛隊の車両の車種など分かるはずはないので、名まえは適当にタートル号としておいた。以前読んだweb小説に出てきた名まえだ。あの小説(注1)も面白かったなー。
明日は、ドライブを兼ねたピクニックだ! 明日の天気が気になるところだが、これまで大雨に遭ったことはないし、大抵は青空だった。今も青空だし明日もたぶん青空だろう。
注1:あの小説
もちろん『常闇の女神シリーズ』その2『常闇の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー』https://ncode.syosetu.com/n0271gt/ でございます。ことあるごとに宣伝して申し訳ありません。サブタイトルは『常闇の女神~』の中のものと同じにしました。




