第428話 探索再開と「?」
謎の6角棒はなんだかわからないうちに俺のアイテムボックスにおさまってしまった。アイテムボックスに入った今も長さが分かったくらいで謎のままなのは変わらない。
「いくか」
「「はい」」「アレはいったい何だったんじゃろうな?」
普通のものなら、少なくともそれが何なのか、詳しいことは分からなくても大まかな名前くらいわかるものだが、長さが10キロもある棒となると見当などつくわけない。
巨人の槍くらいしか思いつかない。両端はひらっべったいので、槍ではなく棒か。俺の真っ黒い相棒と違って孫悟空の如意棒はどこまでも伸びていくそうだから、まさに巨人の如意棒だ。アレを振り回すことができれば、鬼に金棒間違いなし。バットの形をしていたら宇宙から彗星が落ちてきてもかっ飛ばせそうだ。
俺たちは屋敷のホールに戻り、そこで防具を脱いで片付けた。
そのあと、俺と華ちゃんはピョンちゃんを連れてロイヤルアルバトロス号のキャビンの居間に戻り、華ちゃんがピョンちゃんをブリッジの舵輪の上に止まらせた。
「ピョンちゃん、コアの方向に向いていてね」
「ピヨン」
「それじゃあ、コアに向けて出発だ。
ロイヤルアルバトロス号、出発準備」
「はい、マスター」
錨が巻き上げられていった。華ちゃんはピョンちゃんの頭を一度なでてブリッジから下のキャビンに下りていった。舵輪の下にはピョンちゃんが好きな時に食べられるように楽園イチゴと楽園リンゴをカゴに入れて置いている。
「出発準備完了しました」
「ロイヤルアルバトロス号、出発!」
ロイヤルアルバトロス号が動き始めた。ロイヤルアルバトロス号が湾を抜けたところでピョンちゃんの顔の向きに船首が向くよう転舵指示を出し、
「RA号、ヨーソロー」
「了解」
「RA号、速力30ノットまで増速」
「了解」
ここはテレグラフのチンチン音が欲しかった。そこは仕方ない。
外洋を進むロイヤルアルバトロス号の前方には水平線しかない。左手に見える果物島は少しずつ遠ざかっていくが、いつまでたっても見えなくなることはなかった。
忘れていたが双眼鏡を持っていたんだった。
アイテムボックスから双眼鏡を取り出して、スイッチを入れ窓越しだが海を眺める。果物島と海と空しか見えなかった。
双眼鏡は今のところ意味がなかった。アスカが作ってくれた椅子に座ってぼんやりと前方を眺めていたら、足の下の方からスピーカーの音が響いてきた。アキナちゃんが何かの円盤を見始めたようだ。
そのうち予想通り広島弁の怒声が聞こえてきた。華ちゃんとキリアも一緒になって見ているはずだ。まっ、いいけどね。
「RA号、陸地が見えたら、接近して適当なところで停船してくれ」
「了解」
俺は、ブリッジから後方のテラスに出て、アイテムボックスから取り出したビーチチェアに寝っ転がった。ブリッジの陰に隠れている関係で30ノットの風が直接テラスを吹き抜けるわけではないが、広島弁は聞こえてこなかった。
出発することを船外放送すればよかったのだが、失念していた。それでも上空に2匹のメタルゴーレムドラゴンが舞っていた。3頭のメタルゴーレムオルカが漏れなく付いてきているかどうか自信はないが、きっとついて来てくれているだろう。
ロイヤルアルバトロス号が湾を抜けてコアに直進し始めて、1時間半ほど経った。
この間に7、80キロ移動したことになるが、左後方にまだ果物島はわずかに見えていた。
ブリッジに戻ると、広島弁は聞こえなくなっていた。映画は終わったようだ。
この海の広さを考えると、あと何日航海を続けることになるか見当もつかない。これからは、無人のままコア方向にロイヤルアルバトロス号を走らせていてもいいかもしれない。コアへの道がまさか海上にはないだろうから、そのうち陸地が見つかるだろう。
ブリッジに備え付けられた椅子に座って前方をぼんやり眺めていたら、華ちゃんがブリッジに上がってきて隣の席に座った。
「華ちゃん、アキナちゃんの映画はどうだった?」
「すごく面白かったんですが、あの系統よりも、もう少しほのぼのした方が好みかな」
「アキナちゃんが特別なんだろう。
キリアは?」
「下のフィットネスジムでランニングしてくると言って居間から出ていって戻ってきていないからまだ走っているかも」
「キリアは純粋なファイタータイプだから、ちょっとやそっとじゃ疲れそうにないものな」
「岩永さん、この海どれくらい広いと思いますか?
そんなことはないと思うけど、このままこの海がどこまでも広がっていたらロマンチックだと思いませんか?」
「ロマンチックかどうかは全く分からないけど、
ひょっとしたら、Zダンジョンの大空洞より広いんじゃないかと思い始めているんだ。それどころか桁違いに広い予感がするんだよな。それでも海の中にコアはないと思うから、いずれ陸地に到達するハズだけどな」
「岩永さんですものね」
そう言って華ちゃんは立ち上がって、一度ピョンちゃんの頭をなでてブリッジから出ていった。
俺は華ちゃんの気に障るようなことを何か言ったのだろうか?
華ちゃんが出ていったブリッジでそのまま前を向いて座席に座っていたら、今度はアキナちゃんがやってきた。
「ハナちゃんが上に上がっていったから、そろそろかと思うておったのじゃが、すぐに下りてきて居間から出ていったのじゃ。
ゼンちゃん、おぬしは何をしておったのじゃ?」
「前を見てる?」
「そう答えると思うておったのじゃ」
そう言い残して、アキナちゃんもブリッジから下りていった。
「なんだ?
???」




