第413話 フィットネスジム
翌日、アスカ3号が俺のところにやってきた。フィットネスジム用具と船内図書館用キャビネットがマンションに届いたそうだ。ウェイトトレーニング用の機械だけはエレベーターに入るようなものではなく駐車場に置いたままだったがその他のものはマンションのテラスに置いてるそうだ。
最初にマンションの駐車場に跳び、駐車場の脇に置いてあった荷物を収納し、その後テラスに置かれていた荷物を収納してロイヤルアルバトロス号に跳んだ。フィットネスジム用具を先に並べて、その後図書館用のキャビネットを図書館に置いてやった。
図書館用のキャビネットは、大型キャビネット1つと台のようなキャビネットだったので大型キャビネットを先にコピーして並べてやり、その後の隙間に台の形をしたキャビネットを置いた。ジム用具もキャビネットも固定させる必要があるが、アスカ2号が帰ってきたらやってくれるだろう。
昼食時。はるかさんにジム用具が届いたのでロイヤルアルバトロス号のフィットネスジムに置いたことと、アキナちゃんに図書館用キャビネットが届いたので図書館に並べたことを伝えておいた。
フィットネスジムはいつ使ってもいいが、キャビネットは固定してから、本や円盤を入れた方がいいと言っておいた。
「アスカ3号に言いつけてすぐにキャビネットを固定させるから問題ないのじゃ。
コミックはわらわが一冊ずつ丁寧に並べるのじゃ」
「昼からのトレードはいいのかい?」
「放っておいてもちゃんと儲かるようになっておるゆえ問題ない」
「そいつはよかった」
午後に入りしばらくしたらアスカ3号がやってきてロイヤルアルバトロス号の図書館に置いてあったキャビネットと、フィットネスジムの用具を固定したと報告を受けた。アスカたち、やはり優秀だ。はるかさんにもフィットネスジムが使えるようになったと、伝えておくよう言っておいた。
「アスカ3号、よくやった」
俺はロイヤルアルバトロス号に跳んで生まれて初めてフィットネスジムでひと汗流すことにした。
ウェイトトレーニング用の器具もあるが、一応ベルトの上で走る機械を試すことにした。走る機械は2台置いている。並んで走った方が競争になっていいと思ったからだ。
船内発電機は回したままなので船内の照明、通気などは確保されている。本来停船時、船の動力は止めてしまい、外部から動力供給した方がいいのだろうが、俺が収納して運ぶとき一々ケーブルを外すのは面倒だし、発電機を回して燃料をくう訳でもない。そういうことなのでこうした形に落ち着いている。
機械の説明書が置いてあるのだが、面倒なので読んでいない。ざっと見、スイッチを入れて時間と速度をボタンで押せば何とかなるようだ。
いちおう上着とその下に着ていたインナーを脱いで収納し下着のシャツになった。下は普段着の長ズボンのままだ。
初めてなので、まずは時速6キロから始めてみた。時間は30分にしている。
時速6キロは一般人ならちょっと速足程度だろう。俺にとってはちょっと遅く感じる。これではトレーニングにならないので、加速ボタンをちょいちょいと押して時速8キロまで上げてやった。
ちょうど俺の速足だな。
それじゃあ、今度は時速12キロだ。
これはちゃんと走らないとついていけない。軽く流す感じでベルトの上を走ったけれど、これくらいでは全然疲れそうにない。
次は時速16キロだ。ベルトの音もかなりうるさくなってきた。
16キロだとずいぶん速く走っている感じがする。とはいっても、この程度なら2、3時間は平気で走れそうだ。
切りのいいところでベルトの速さを時速20キロに上げたら、そこが上限だった。安物を買ったわけではないと思うが、ちょっと残念だ。と、思ってよく見たら傾斜というか勾配を付けることもできたようだ。ボタンをひと押しすると、0.5パーセントずつ勾配を増減できるようだ。
ある程度一生懸命頑張って走らないとトレーニング効果が望めないと思い、勾配ボタンをちょいちょいと押して5パーセントまで上げてやった。
これは、かなりいいぞ。真面目に走らないとベルトに持っていかれそうになる。
これなら十分トレーニングになる。
時速20キロ、勾配5パーセントの設定で、ベルトが時間で自動停止するまで走ったら、息は切れなかったがそこそこ額に汗をかいた。それなりに運動になった。キリアにも勧めてやろう。俺はスポーツタオルを取り出して額の汗を拭いた。
次はウェイトトレーニングだな。
ウェイトトレーニング用の機械は1台でいろんなことができるらしいが、俺の目から見てかなり複雑なので、ベンチプレスだけすることにした。上から2本のワイヤーがバーベルシャフトを吊っていて、バーベルを持ち上げきれずに落としてもケガをしないようになっている。
まずは10キロのシャフトに20キロのバーベルプレートを左右に1枚ずつはめて50キロ。ベンチに横になりシャフトを固定金具から持ち上げたら拍子抜けするくらい軽かった。バーベルを固定金具に戻して、もう1枚ずつ20キロのプレートをシャフトにはめて90キロ。再度持ち上げたらそれなりに重かったが、この程度だと何度でも上げ下げできそうだった。
熱海でおじさんたちを運んだときかなり重く感じたのだが、裸のおじさんの体に対して無意識にリミッターが働いたのだろうか? 実際バーベルのシャフトは持ちやすいのでかなりの重さのものを持ち上げられそうだ。
なのでもう1枚ずつ20キロのプレートをはめて130キロ。これを持ち上げたところ、ちょうどいい感じだったので、20回ほど上げ下げしたら、胸と腕の筋肉が張ってきた感じがした。そのあともう20回上げ下げしたら筋肉がパンパンになった。
いい運動になった。フィットネスジムは作って大正解だった。今の俺の格好だと人前には出られないのでスポーツウェアを後で買いにいこう。
俺はバーベルを片付けたあと服を元通りに着て屋敷に帰ろうとしたら、お掃除ゴーレムがやってきてモップで床掃除を始めた。汗が落ちていたようだ。
フィットネスジムから通路にでたら、アキナちゃんが図書館から出ていくところだった。
「アキナちゃんどうした?」
「アスカ3号がキャビネットを固定したと教えてくれたので、わらわの蔵書をキャビネットに並べておったのじゃ。
本屋のコミックコーナーなんぞ比ではないのじゃ。円盤もだいぶ揃ってきておるので巨大モニターが届くのが待ち遠しいのじゃ」
「ところでアキナちゃん、その巨大モニターはどれくらいの大きさなんだ?」
「150インチ(W3320ミリH1868ミリ)じゃ。ロイヤルアルバトロス号のキャビンの居間の床から天井までの高さの関係でそれが限界じゃった」
「よくそんなの売ってたな」
「探せば見つかるものなのじゃ」
「相当迫力ありそうだな」
「そうでないと買った意味がないのじゃ」
「据え付けは海の上でもできるのかな?」
「もちろんじゃ」
「なら、明日からまた探索を再開するか」
「そうじゃな。わらわはあの島のことが気になっておったのじゃ。もう少し島を見てみぬか?」
「そうだな」
アキナちゃんと連れだってキャビンの居間に上がったら、連絡路に続く小部屋の中からはるかさんと華ちゃんが出てきた。二人とも薄手のスポーツウェアを着ていた。上はスポーツTシャツ、下はスポーツタイツに半ズボン。
「フィットネスジムが使えるようになったってアスカ3号ちゃんに聞いたから急いで華ちゃんとスポーツウェアを買いに行ってきたんです」
「わたしは、お先に失礼してベルトの上を走る機械とベンチプレスをやってきました」
「どのくらいの負荷で走ったんですか?」
「うーんと、時速20キロ。これが精いっぱいの設定だったんで、勾配を5パーセントにして20分くらいかな。少し汗が出るくらいでちょうどよかったですよ」
「善次郎さん、時速20キロっていうとオリンピック選手ですよ」
「そうでしたっけ?」
「そうなんです」
「あとベンチプレスは130キロを40回かな?」
「もういいです」
「岩永さん。ダンジョンで戦っていると本当にすごく強く成っちゃうんですね」
「華ちゃんの場合は俺と違って頭脳労働だから俺ほど強化されていないかもしれないけど、それでもそこそこ行くだろうな。ベンチプレスだと130キロ、20回はできると思うぞ」
「できるわけありません!」
あれ? 二人ともそのまま下のデッキに下りていった。
「ゼンちゃん、わらわはゼンちゃんを見ているだけで寿命が延びるようじゃ」
はて?




